第100話 俺達と火の鳥のダンジョン 後編

 暑い。

 扉の先に進んだ瞬間、真っ先に感じたことはそれだった。

 まるで焚き火か釜戸の目の前にいるような、そんは熱を浴びさせられている。


 その原因は明らかに、この部屋のド真ん中で偉そうに羽ばたいている紅く巨大な鳥のせいだろう。

 魔物に詳しくない俺でも、そいつがBランクやAランク程度の存在じゃないことはすぐにわかった。


 ていうか、なんなら名前も答えられる。



「あいつ、フェニックスだよな?」

「うーん、ちょっと違うかな? 普通のフェニックスはもっと小さいらしいし、その上位種かも」


 

 あらら、ハズレちまったぜ。

 ま、でも、ほぼ正解みたいなもんか。


 ハーピィを除いて、ずーっと不死鳥フェニックスっぽい赤い鳥の魔物ばっかり出てきたから、最後の最後くらい本物が出てくるんじゃ無いかと思ってたんだ。



「この大きさ、出し惜しみはしない方がいいよね」

「ああ……」



 ……俺の『強制互角』は既に発動している。

 が、巨大なフェニックスは慌てることなく悠然ゆうぜんと構えていた。


 こんなにも強そうな隠し部屋の外のボスははじめてだ。

 いつもなら必要ないが、今回は俺も万が一の攻撃に備えた方がいいかもしれない。



「『月光風斬』で一気に決めるよ……!」

「ああ、かましてやれ!」



 『ヒューロ』を構え、彼女は自身の必殺技を繰り出そうとする。

 だがその瞬間、フェニックスはそれに対抗するかのようにその場で猛烈に翼をはためかせ始めた。



「わ!」

「うおっ! マジかよっ⁉︎」



 ただの羽ばたきによって巻き起こった強烈な熱風が、俺達を狙って吹き荒れる。


 ……めっちゃ暑い。

 まさかこんな攻撃を披露できるなんてな。鳥のくせにやるじゃないか。


 推測するに、この部屋に入った時から感じていた熱が、ステータスや魔力が関係ないアイツの体による産物であり、それを羽根でかき集めてぶつけてきたってところか?


 流石は田舎者でも聞いたことあるほど有名な魔物……の上位種だ。

 隠し部屋のボスのくせに、俺たちに対して特に何もできなかった前のダンジョンのサメの魔物とはまるで違うぜ。


 即座に『巨大化する丸盾 バイルト』で俺とロナの前に壁を作らなかったら、特になんの耐性もない俺がローストヒューマンにされているところだったかもな。警戒していて正解だった。



「あ、危なかったぁ。ありがとう、ザンは大丈夫?」

「なんとかな。さ、反撃しようぜ」

「うんっ! 月光……風斬ッ!」



 三日月型の、強烈な光の斬撃が放たれる。

 近くでこうして見ているだけでもものすごい衝撃と迫力……同じ技なのに、前の攻略の時より体感で倍は凄みがあるぜ。


 それにしてもだ。

 ロナは今回のダンジョン攻略で、ずっと<真・風波斬>のみを使ってきたが……同じ斬撃を飛ばす技でも、やはり普通の技と究極術技には明確な差があるよな。

 まあ魔力の消費量も全然違うから当然といえば当然か。


 うん、これぞまさしく必殺技ってやつだろう。

 そのうち、俺の力がなくてもAランクくらいなら一撃で沈められるようになるんだろうな。


 ……そしていくら俺な有効な攻撃方法があるとはいえ、耐久力はやはり俺と同じ。今の一撃で巨大な不死鳥は息絶えたようだ。



「ふぅ……今までで一番いい一撃だったかも」

「ああ、ナイスだったぜロナ」

「えへへ、ありがとっ! ……ところでフェニックスって倒した後はほとんどが灰になって消えてくはずなんだけど……どうみても、そのままだよね?」

「そうだな、残ってるな」



 ロナの言う通り、たしか不死鳥系ってのは死ぬと灰になって消えて、数ヶ月だか数年後だかにそこから蘇るはずだ。そう本で読んだことがある。


 だからこそ不死だなんて言われてるんだが……こうなったのは、ここがダンジョンという特別な空間だからか、それとも俺の力のせいなのか。

 ま、この際どっちでもいいが、これはもしかしたら中々にラッキーな話なのかもしれない。



「おそらく、こうしてちゃんと不死鳥の遺骸が残るのって貴重なんだよな?」

「そうかもね。そもそも血や羽だけでも高級品らしいし……」

「よし、じゃあ丸ごと回収しよう」

「でも、ちゃんと『シューノ』に入る?」 

「たぶん余裕さ」



 俺は『シューノ』にガッツリと魔力を使って出し入れ口をめちゃくちゃに広げてやり、俺達の家と同じくらいの大きさはありそうなフェニックスの全身を押し込んだ。



「は、入ったぜ……」

「おおー……」



 特に解体とかせず楽だったが、手荒だったのは否めない。『シューノ』にべっとりと血がついちまったぜ。

 宝具だからすぐ綺麗になるとはいえ、帰ったらしっかり洗わなきゃな。



「……あっ。見てよザン、向こうに宝箱出てき……ん? すごい、虹色だっ!」



 ロナが少しはしゃぎながら指を挿したその先には、ダンジョン攻略を終えた証として出てきた光の脱出口と、初めて見る色の宝箱が置いてあった。


 なるほど、あれが噂に聞く虹色の箱の実物か。うーん、しっかりと七色のレインボーカラーなわけではないんだな。

 正確に表現するなら、白色の宝箱が光の当て方によって虹色に輝いて見えているってな感じだ。


 しかしダンジョン攻略四度目にしてやっとか。

 俺の【呪い呼びの呪い】の効果で、パンドラの箱ばっかり出てくるからなぁ……。

 ま、中身の内容は一緒らしいから俺に限ってはそれで全然構わないけれども。



「あの宝箱は、家に帰ったらロナが開けるといい」

「いいの? やった。一回、虹の箱開けてみたかったんだよね」

「ふっ……だと思ってさ」



 さてさて。こうしてダンジョンをひとまずクリアできたってことは……よし、出てきたな。『ラボス』から紫色の光が。

 今回向いてるのは……天井か。まじか、こんなこともあるのか。


 

「ん? ザン、上向いてどうしたの?」

「今回の隠し部屋がどうやら天井にあるらしい」

「あ、本当だ。光が上を指してるね」

「俺ならあそこまでいけるが……行くか?」

「うん! いつも行ってるし、今回も」

「だな」



 俺は『バイルト』を二人乗れるだけの丁度いい大きさにし、紳士らしくロナの手をひきながらその上に乗った。

 そしてそのまま『ソーサ』で飛行を始め、光が指し示すその先まで向かう。


 ……天井に近づくにつれてだんだんと、視界が光のようなものに包まれていっていた。


 間違いなくこれは隠し部屋へ行く時の感覚だ。

 まだそれっぽいモノを起動したりしていないんだが、勝手にその現象が起こっている。


 そしてやがて、身体の感覚すら曖昧になり──── 。

 


 


 


 

=====


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