第90話 ロナと叔父とステータス


前書き


◇◇◇←この印は視点変更です!


=====




◇◇◇



「ザンっ!」



 竜族の少女は観客席から飛び降り、倒れた親友の元へ、慌てて駆けつけた。

 


「そんな焦るなよ。大丈夫だ、死んではいない」

「……っ」



 叔父は呑気にそう言うが、ロナは自分の相棒がノーマル族という身体能力が優れていない種族の人間であり、その上でステータスも無いため、普通の人の何倍も脆いことを理解している。


 呼吸をしている様子はたしかに見られるが、早めに回復しないと危ないかもしれない。

 そう判断した彼女は、気を失っているザンに向けて回復魔法をかけ始めた。



「おお、回復魔法かッ! そんなものを覚えたのか!」

「……うん、ザンのおかげで」

「火属性の魔法でやっとだったのになぁ……!」



 しみじみとした様子で過去を振り返る叔父をよそに、ロナはザンへ全力で治療を施し続ける。

 そして自分の魔力が半分は減った頃にようやく、魔法を止めた。



「ふぅ……」

「ロナ、オレも口の中を切ってしまってな、回復できるのならしてくれないか?」

「あ、うん。いいよ」

「すまんなッ」



 ロナの魔法により、ザスターの傷も癒える。

 彼への治療は元から傷が少なかったこともあり、すぐに済んだ。



「さて、小僧が眠っている間に積もる話でもしようか。お前に話して欲しいことが沢山ある」

「そだね。でも叔父さん忙しくないの? 時間は大丈夫?」

「問題ない。そもそもここのところ依頼を引き受けてないからな」

「そっか、相変わらず自由にやってるんだね」

「ハハハハハッ、まあな!」

「でもその前に、ザンを……」



 ロナは鞄からタオルを何枚か取り出し、それを気絶している相棒の枕代わりにしようとした。


 それを見た叔父は、イタズラを思いついた子供のようにニヤつきながら、彼女にある提案をし始める。



「なぁ、どうせなら膝枕でもしてやったらどうだッ?」

「ええっ⁉︎」

「ハハハッ、起きたら喜ぶかもしれんぞ」

「そ、そうかな? 本当に、喜ぶと思う? 私なんかの……い、いいのかな。や、やったこともないし……!」

「やるだけやってみろ、嫌がったら今後やめときゃいい」

「そ、それもそだね……!」



 多少の抵抗は口にしたものの、彼女はザスターが想定していたよりもノリノリで、横座りをした太ももの上にザンの頭を乗せた。


 自分がうっとりと幸せそうな表情を浮かべていることに、ロナは気がついていない……が、叔父は違う。それを見て、彼の中で立てたとある予想が確信に変わったようだった。


 とはいえ、他に気になることがあるので、ザスターはひとまずその確信は置いておくことにした。



「フッ……もういいか?」

「う、うんっ」

「ひとまずロナのステータスカードを見せてくれ。ずッと気になっていた。お前から感じる魔力量……星一つのそれじゃない。つまり、究極な晩成を超えられたんだろうッ?」



 ロナは頷くと、叔父に自身のステータスカードを手渡した。

 ザスターはそれを受け取ると、すぐにレベルの欄を確認する。


 『☆☆ Lv.61』と表記されている。

 それを見た彼は思わず、ロナの頭の上に手を置き、思いきり撫でた。



「ん……!」

「ハハハハハ、やはりそうだったッ! 良かった……本当に、本当に良かったなッ。あのクソみたいな称号にどれほどお前が苦しめられてきたか。オレはそれを良く知っているッ! 故に……フ、ハハハハハ! 気を緩めたら涙が出そうだッ!」

「そ、そんなに⁉︎ あ、ありがと……」



 世界最高峰の絶対的強者が、目を赤くし、本当に泣きそうになっていた。それと同時にひどく喜び、心の底から笑みを浮かべている。


 一方で感情のままに激しく撫でられ続け髪がくしゃくしゃになった姪は、少しだけ負い目を感じているような表情を見せた。



「で、でもね。実は自分の力で成し遂げたわけじゃないの」

「ああ、小僧の力を借りているんだろう? おそらくこの力は仲間が居てこそ真価を発揮する! 雑魚と化した敵を、弱体化していない人間が横から叩けばいいのだからな。ダンジョン攻略もそうやっているわけだ」

「そう、そうなの。あ、あの……竜族としてそれって……あうっ!」



 ロナが言い切る前に、ザスターはその額を指で小突いた。

 そして、彼を少ししか知らない者が見れば驚くほどに優しく、不安がる姪へ微笑みかける。



「ハハハハハッ、気にするな。構わんさ。たしかに里の奴らはそれを知れば酷く非難するだろう。だがな、真の強者ほど他者の助けは借りるものだッ。自力で超えられぬ壁は、そうしてさっさと越えるのが一番。使えるもんは使えッ! このオレ様が言うのだから間違いない。そうだろう?」

「そ、そっか! わ、わかった!」

「うむッ! だが鍛錬を怠けていいわけでもないぞ。分別はつけろよ。ま、訓練室付きの家を求めていた時点で、その心配は要らぬかもしれんがな……さて、続きを見させてもらおう」



 それからザスターは、ロナの持つ力一つ一つに反応をしていった。


 中でも病や毒すら完全回復できる究極魔法の[ライフオン=オルゼン]をひどく羨ましがった。もし札が残っていたら、黒鍵なんかよりそれが欲しかったとまで述べるほどに。


 それに対してロナは、ザンが手に入れ、ザンから貰った魔法だと言いつつも、初めて世界最強と信仰する叔父を羨ましがらせることができたため、とても誇らしげな表情を浮かべた。


 また、究極術技の〈月光風斬〉に対しても強い反応を見せた。


 非常に強力な技だと評価した上で、十六歳という若い時期、そして星二つ中盤という早い段階で、ステータスの育て方の指標となり、己のいしずえにできる大技を手に入れられたのは幸運なことだと力説する。


 それを踏まえ、ロナの持つ並の魔法、術技、能力に対して、重点的に伸ばすべき属性や項目、新たに習得すべきもの、それらに合った行うべき訓練方法を細かくアドバイスをした。


 手紙でない、四年ぶりとなる直接の叔父からの師事に、ロナは喜んで話を聞き、自分の相棒の真似をしてメモもしっかりと残した。

 

 ひととおり教え終わった後、再びカードを覗き、称号の欄に目を通したザスターは、彼女の美貌を示す称号である【容姿端麗・改】を見つけ、納得したような反応をし……その直後に【大食嬢】が目に入ると、今度は口を開いて驚愕を顔に表した。



「はッ? な……なぜお前にこの称号がある? ただの【大食い】ですらない。相当なもんだぞこれ?」

「あの……恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないで」

「オレの知る限りじゃ、お前の食べる量は竜族の女として普通だったはずだが。何があった? ん?」

「む……! た、ただの、こっち来てからできた新しい趣味ですっ!」

「……そうか、まあそういうことにしておいてやるか」



 こうしてザスターはロナのステータスをひととおり確認し終えたため、彼女にカードを返却した。もっとレベルを上げてこの調子で強くなれよ、という一言を添えながら。



「……さて。まだ小僧は起きないか」

「うん、そう見たい。すっかり寝ちゃってるね」

「ノーマル族は体力がないからな、仕方あるまい。ならば今度はその小僧との出会いを聞かせてくれ」





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