第89話 最弱vs.最強 後編②

 新たな作戦はこうだ。


 まず安定性が欠けて、かなりの恐怖を感じるが、両足の操作を解除する。

 代わりに『バイルド』の大きさを先ほどまでの倍にまで広げる。

 

 次に『ハムン』はもう使わないので『シューノ』にしまい、代わりに『バイルトン』を取り出す。

 今度はこいつを操作して攻撃するというわけだ。巨大化させれば威力は十分だろう。


 そして、両手は『バイルド』から落ちないよう、持ち手をしっかりと掴む。


 こうして結果的に、宙に浮いた状態で、俺の武器の中では破壊力の高い『バイルトン』を動かせる上、さらに操作できる数に一つ空きができた状態となった。


 この空いた一つ分の操作は、相手の足を引っ張るのに使うんだ。

 そう、文字通り……《竜星》の脚甲を引っ張って、移動の邪魔をするのさ。


 やっぱりなんか卑怯な気がするが……これは名案じゃないか?



「……! いいぞッ、即座に対応してきたな」

 

  

 まずは『バイルトン』による一打目。

 一気に巨大化させながら、黒い大槌を振り下ろす。


 《竜星》は前方へ飛び込むようにそれを避けた。



「ハハハハ、悪くないッ! さっきまでよりは数段おっかないぞ!」



 そうだよな、その通りだ。

 落ちることを怖がって両足なんかを操らず、最初からこうしてりゃ良かったぜ。やっぱ試行錯誤ってのは大事だな。


 とはいえ相手の動きが激しかった上に、初の試みということもあり、脚甲を掴んで足を引っ張る作戦は失敗してしまった。

 まあいきなり成功するとも思ってなかったしな、次は決めてやるさ。



「ハハハ、流石にこれが続いたら負けるかもしれんな? だがオレ様は勝利することが好きなのだッ! そろそろ終わらせてやるッ!」



 《竜星》はそう宣言すると、自分の『シューノ』に手を突っ込んだ。そして、液体の入った小瓶を取り出した。

 たしかにあの大きさなら取り出すのに1すら魔力は必要ないだろうが……?


 なんだ、あれはポーションか? 

 それも回復用じゃなくて魔力用の。


 魔力を回復しようとしたところで、俺の呪われた魔力量は変わらないぜ?


 だが、あのザスター・ドラセウスが戦いにおいて無駄なことをするはずがない。

 念のためだ、小瓶は操って取り上げて……って! あ、あああああっ⁉︎ 



「むぐ……ッ! ハ、ハハハハッ!」



 う、嘘だろ……即座に口の中に放り込みやがった⁉︎

 さらに、口の中で小瓶を噛み砕いたぞ! バリバリとヤバい音がしたから間違いない!

 

 なんて無茶苦茶をするんだ。

 それに、せっかくそんな無茶をして取り出した液体は、飲み込んではいない様子。


 つまり口の中に含んだままってことか。

 ダメだ、全く何してくるか予想できない。


 とはいえ、『バイルトン』を先ほどより大きくし、再び振り下ろす準備も済んでいる。


 今度こそ成功させて……!




「……ふらほッ、ふけほれィッほらよッ、うけとれぃッ!」




 瞬間、再び『シューノ』に手を突っ込んだ彼は、俺に向かって何かを投げつけてきた。


 どうやら剣のようだ。


 『シューノ』から剣一本を取り出すとなると、魔力消費は1や2じゃ済まないと思うが……口にポーションを含んだことが関係しているのだろうか? まさかこんな魔力の補い方があるなんてな。


 なんにせよ、こちらへの攻撃方法ができたことは非常にマズイ。

 それに流石というべきか、投擲技術もパーフェクトだ。空中を移動しているはずの俺を正確に捉えている。


 ひとまず、操作による直接の足止めはやめて、投げられたモノを受け止めるべきだ……が。


 この投げられた剣、どっかで見たことがあるんだよな。

 たしか……そうだ。今日行った国営博物館の五番館、そこの剣の宝具コーナーにあった九百万ベル値がついていた光る剣だ。


 名前は『明灯剣 フォタル』。魔力を消費した分だけ明るく輝く効果を持っていたはずだ。


 ん? 明るくって……おいおい、まさか !

 いや、そのまさかのようだ。急いで目を瞑らなっ



「ぐ! う、うぁっ⁉︎」



 やられた!

 気が付いた頃にはもう遅かった。ほぼ目の前で、爆発したかのように強烈な閃光が……!


 やばい。痛いっ! めっちゃ痛い!

 まるで目玉が焼けているみたいだ、真昼の太陽を眺め続けるよりキツいぞこれ。何も見えない、白い、視界が真っ白だ!


 こんな凄まじい光量だったのか、あの宝具っ……!

 


「ザ……ザン危ないっ!」



 遠くでロナの悲鳴のような声が聞こえる。


 だが危ないなんて言われたってわからない。

 前も後ろも右も横も! 今、下を向いてるのから上を向いてるのかすら!


 何が危ないんだ、俺の側に何が……!



「……っがはっ!」



 突如、上半身全体に激痛が走った。

 なにかに勢いよくぶつかった? ……ああ、つまりは平衡感覚を失って、操作が上手くできなくなって……そのまま壁に?


 全身が焼けるような痛み……ほ……骨折れてないかこれ⁉︎ 主に肋骨あたり……危ないってそういうことかよ⁉︎


 だ、ダメだ。

 しかも、今の衝撃で集中が完全に切れて『ソーサ』が解除された。『バイルト』と共に身体が落下しているっ……!

 こ、このままじゃ……!



「ぐおっ!」



 激突の後に落下……て。死ぬ……や、やばい……。

 だ、ダメだ……ロナの前じゃ死ねない。痛い……う、動かな……動け……くそっ……! せ、せめて『メディメス』を使って回復を……!



「凄まじいことになったな」



 この足音……この声……!

 《竜星》……が近くに……!


 い、今どのくらいの距離に居る? 

 ま、まだだ! こ、ここから巻き返せるか? ここから勝てるか? 俺と言う紳士ならやれるはず……!



「だが諦めてはいないようだなッ! 良いぞッ……と、言いたいところだが、ロナがもう見てられんようだ。悪いがこれで決着としよう」



 その声を聞いた直後、俺の頭部に強い衝撃が走った。

 呼吸? 脳みそ? 何かよくわかんないが、止まっちゃいけないものが止まろうとしている感じがする……。


 目をやられ、白かった視界が今度は黒く、染ま……って、ゆく。


 は、はは……ちく、しょう。

 まあ……勝ち負けは、元からあ……あまり……かん、け、なか……たけど……な。


 ど、どうせなら……勝っ、ておきたかっ……。

 ロナに……ジェ……ン……トルで、カッコ、いいと、こ……みせ──── 。






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