第87話 最弱vs.最強 中編

「最初から本気でゆくぞッ! 流、星、魔……な⁉︎ ッヌオオオオッッ‼︎」



 初っ端から明らかに何かしらの大技を放とうとしていた《竜星》は、一瞬だけ驚愕きょうがくした表情を浮かべると、動作を中断し手に待っていた大剣を凄まじい勢いでぶん投げてきた。


 俺は飛んでくるその『巨星剣 メゼル』という剣を、『ソーサ』で上へ弾き飛ばす。

 

 ……本当は、受け止めてから投げ返すつもりだったんだがな。前に隠し部屋のボスの猪男がハンマーを投げ飛ばしてきた時のように。


 今はそれをしようとすると、制御できずそのまま押し切られてしまいそうだった。いや、確実にそうなっただろう。


 あの時よりも相手が近くにいて、速度を緩めにくかったってのが主な要因だろうが……それを踏まえても、なんつー腕力だ。


 『強制互角』は発動している。もう既に俺と同じ、最弱へ転落してるはずだってのに……まいったな、こりゃあ。



「ハーハー……! ハハハ……ハハハハハハハハ、ハハハハハハハッ! ハーッハッハッハッハッハッ! ハハハハ、ハァ……面白いもんだなッ‼︎ そうか、そういうことだったのかッ! つまりこれは『強制互角』だろう?」



 しかもだ、もうタネに気がつきやがった。

 過去はもちろん、未来を含めても、これより早い解答なんて出ないだろう。マジでやばい。


 最強……そうか。これが、最強か。

 俺の力をよく知るロナが、それでも、俺じゃあ勝てないと思ってしまうわけだぜ。


 ステータスが強いとか、技が強いとか、魔法が強いとか、宝具が強いとか、たったそれだけが最強の条件じゃないんだ。



「……正解だ。驚いた」

「ハハハハッ! 我が愛剣にいつも以上の重みを感じ、技が出ない。弱体化魔法に完全に近い耐性があるにも関わらずッ! そうなると、もうそれしか有り得んのだッ! つまり貴様が呪われているのは魔力だけでなく、ステータスの全て! それを相手にも強要する、ずばり、それが貴様の戦い方だッ!」

「はは。改めて大正解だ、何一つ間違っちゃいないさ」



 厄介なことがもう一つ。

 今までの敵は俺の力を受けると、技が出ないことや、自分の弱体化ぶりに驚き怯んでしまっていた。


 意図していない副産物的な要素ではあったが、そこまでが、俺とロナの戦法においての必要事項と言っても過言じゃなかった。


 だがどうだ? 目の前にいる最強は、むしろ目を輝かせている。

 この力を受けてなお、それを楽しみ、そして打ち勝ってやろうとしているのがヒシヒシと伝わってくる……はっ、化け物かよ。



「ここまでの不自由を強いられたのは初めてだ……いいッ、いいぞッ……! まさかこれで終わりではあるまい?」

「当然」



 さっき推理を披露してもらっている間に、『シューノ』にため込んだ俺の武器たちを床にぶちまけておいた。


 そうだ……まだまだネタはある。

 なにもこの力一つで《大物狩り》と渡り合い、巨核魔導爆弾を受け止めたわけじゃないんだ。


 まずは手始めに、弓銃クロスボウ『ハムン』を手元に呼び寄せ、その引き金を連打し、光の矢を乱射する。


 加えて『ソーサ』で不規則に見えるように矢の一部の軌道も変えて不意を……突こうとしたが、甘かった。

 《竜星》は光の矢を余すことなく全て、難なく、宝具の鎧をまとった前腕でさばき、弾き飛ばし続けた。



「ハハハハハッ、だがあれだな! なぜ魔力を使い続けられるかはわからんなッ!」

「ま、それは難しいからな。後で教えてやるさ……」



 いや、そこまで初見で理解されたらたまったもんじゃない。

 分かったところで対処できるもんでもないが、なんかプライドっぽいのが傷つくだろう?


 《竜星》は横から降る光の矢の雨の中、相変わらずこの状況を楽しむかのように、ゆっくりと歩みを進めている。

 ……技術差も体格差もある。近づかれたら終わりかもな。


 次。

 俺は『ハムン』の連打は止めぬまま、『ソーサ』で盾の『バイルト』を起こし、巨大化させながら押しつけるつもりで飛ばす。

 そして、その裏に仕込むのは、分身する剣の『フォルテット』。



「巨大化させながら動かす、少なくない魔力を使っているはずなんだがなッ……っと! ハハハハハッ、危ないな!」



 大きな丸い盾の縁を、前転するかのような動きで潜り抜けられる。まあ、それはいい。予定通りだ。


 続けて、潜り抜けた瞬間を狙って、斬首する要領で仕込んだ『フォルテット』を振り下ろし……たはずだったが掴まれてしまった。持ち手の部分を易々と。


 あまりのスムーズな動きに腰を抜かしそうになったが……いい、まだそれもいい。



「ハハハハ、武器をわざわざくれるなんて、ずいぶん優……」



 次なる奇襲。


 たった今、つかまれた『フォルテット』はただの分身体。

 本体は、掴まれたその分身体の側に待機させていた。


 さっきは顔色一つ変えずに矢を防ぎ切ったんだ。

 襲い掛かる剣を掴んで使おうとする、そんなとんでもない荒業をしてくることくらい、想定せざるを得ないさ。


 《竜星》の手の中にある剣を消し、その直後に本体から新たに分裂させた計四本の『フォルテット』を降り注がせる。


 重みのあまり無い矢と違い、実態のある剣ならば腕で防いでもある程度のダメージは通るだろう。掴んで対処することも、この本数では無理なはず……。



「そんは訳ないよなッ! オラッ! ハハハハハハハッ!」



 な……!

 大振りの蹴り上げ二発で簡単に弾かれてしまった。

 

 い、いいや……まだだ。


 今の俺は『ソーサ』で三つまでなら同時にモノを操れる。

 地に落ちた『フォルテット』の四本のうち三つを、即座に持ち上げ回転させながら乱れ舞させて……! 


 ああ、それでもだめか。一向に当たらない。


 なぜ荒れ狂う刃物を、笑いながら回避できるんだ。

 剣の腹を叩いて抑え込むなんて判断が即座にできるんだ!


 俺はそんなことできないぞ? ステータスは俺なはずだろうに!



「しかし惜しい。剣の動かし方はまるで素人だな! あ、矢の扱いもなッ! だがド素人だったとしたら相当センスはいいぞッ!」



 あ、それは嬉しいな。純粋な褒め言葉だ、だって本当にド素人だもの。

 ……今クリーンヒットしてくれたらもっと嬉しいんだがな。


 まあ、これも効かないなら仕方ない。次の流れも決めてある。


 俺は先程から立てたまま大きさもキープしておいた『バイルト』を、そのまま《竜星》に向けて、フタをするように倒した。


 これで盾の裏側に閉じ込められたら良かったんだが……やはりと言うべきか、残念ながら範囲外へ横飛びで回避される。

 

 ならば、今度はその隙を狙って、巨大化するハンマーの『バイルトン』を足元にめがけて膨らませながら飛ばそう。


 それを上へ跳んで避けるしかなくなったところで、滞空中に飛び道具たちで集中砲火し──── ん? あれ、ちょっとまてよ? なんか違和感があるな。


 俺はさっき、巨大化した『バイルド』を立たせながら、四分の三の『フォルテット』を操っていた……な? そうだよな。


 つまりモノを四つ、同時に操っていた……の、か?





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