第69話 俺達と展示品の宝具
「──── 以上にございます」
「なるほど、大体理解した。ありがとう」
ヴァンプ族の受付役の説明が終わった。
簡単にまとめると、ここで身分証などを提示して受付を済ませ、番号札を受け取って、呼ばれたらゲートの先の個室に通され本題に入る。それだけの話だった。
「それでは、改めてご用件をお聞きしましょう」
「宝具二点の査定を頼みたいんだ。まだ売却するか決めかねているからな、今回はそれだけお願いしたい」
「承知致しました。それでは、ステータスカードか住民証の提示をお願い致します」
俺とロナは受付役にステータスカードを手渡す。
彼はまずロナのカードに目を通すと、【究極大器晩成】という物珍しいものを見たためか、少し感心した様子で
そしてその後に俺のカードを……。
「おや。これは……」
彼は一瞬、
そのカードを一目見ただけじゃ、この紳士を、呪いまみれのかわいそーな男としか思えないだろう。
ま、そろそろこんなリアクションされるのも慣れつつあるさ。
「はは、なぁに。そんな不便を感じてもいないぜ」
「そうですか……。少々取り乱してしまいました。申し訳ございません。では、今からお時間三十分ほどで中の方へお呼びできます。時間になりましたら、この番号石を持って再びこちらへいらしてください」
「ああ」
12の数字が掘られた、円形の白色の石を手渡される。なんでも時間が来たらこれ自体が光って教えてくれるみたいだ。
こういう細々とした便利なものって、なんかいいよな。
ひとまず要件が済んだので俺達は受付の前からはけ、廊下の
「で、どうする? 三十分じゃランチは満足に取れないだろう。だからこの館内……五番館だったか。せっかく国がかき集めた宝具が展示してあるんだ、今後の参考になるかもしれないし、ちょっとだけ見ていこうか」
「私もそう思ってたところだよ、そうしよ!」
「じゃ、決まりだな」
束の間ではあるが、実質的にロナとデートってわけだ。ひゅぅ‼︎
ま、さっきの約束の予行練習としてはちょうど良いだろう。
とりあえず俺達はこの五番館の案内板の前まで戻り、それを見ながら残りの時間で有意義なひとときを過ごせそうなルートをざっくりと考えることにした。
しかしまあ、『展示場』だけでも細かく部屋が分けられているもんだ。
まず武器、防具、装飾品、道具、究極魔法に究極術技、
さらにそこから、たとえば武器カテゴリなら剣の部屋と槍の部屋と弓の部屋などがあって、防具カテゴリなら兜の部屋に鎧の部屋に籠手の部屋に……といった具合なんだよな。
案内所のお姉さんはこの美術館を見てまわるのに日を
ははは、さすがは都会の美術館だ。
本番は事前に予定をしっかり組んで、ちゃんと考えて行動しないとダメだな。
今回も制限時間は三十分、いや、あと二十五分だから、あんまり取引所から遠くには行ってられないだろう。
ロナが好きそうで、サラッと見れる部屋がいいか? となると……。
「今日のところは剣の部屋でも見に行ってみないか?」
「ほんと? 私も『ヒューロ』と『ソジャーク』と展示してるの、比べてみたいなって思ってたんだよね」
「そりゃあ丁度よかった」
というわけで、俺達は剣の部屋までやってきた。
予想はしていたが、この剣の部屋の内部でもさらに短剣、長剣、双剣、大剣のコーナーと分かれているようだ。
部屋の入り口付近はオーソドックスな長剣コーナーとされており、様々な形をとった、様々な色の剣が一つずつ、それはそれは丁寧に展示されている。
中には「売却済」あるいは「契約済」と書かれた紙が貼られているだけの、空っぽな台座もあるな。
「はぁ……すごい……」
「そうだな、圧巻ってやつだ」
「うんうん! すごくワクワクする、来てよかったぁ……!」
ただでさえ黄金色に近いロナの瞳が、好きなものを見ている感動でさらにキラキラ輝いてやがる!
くーっ、なんて麗しい表情……並みのお宝よりこっちのが見る価値あるぞ!
なーんて考えてる俺の気も知らないで、興奮が抑えきれていない長い尻尾をフリフリさせながら、ロナは一番最初に展示されている宝具の剣の元へと近づいた。
しかし、その展示台のガラスに写った彼女の表情は、すぐにちょっぴり不機嫌そうなものへと変わってしまう。
「ん? どした?」
「あ、えっと……」
重厚な鋼色の刃を持ついかにも強そうな逸品。
隅っこにある説明書きには『「
そう、それだけだ。効果やらその他詳細は一切記載されていない。
そして今気がついたが、この部屋の所々に「鑑定 兼 案内人、一時間三千ベルで承ります。-五番館-」と書かれた張り紙が、部屋の景観を損ねないように貼ってある。
なるほど、そういうことか。
ま、商売人気質がある俺にとっては、こういうので金を取ることにも反対はしない。
しないが……ロナがそれを頼む必要はないだろう。
なにせ、俺という紳士がいるからな!
「説明がないなら仕方ないさ。……俺が必要かいレディ?」
「うん、お願いしてもいいかな?」
「ははは! 喜んで」
さぁみせてやろう、紳士らしい美術館エスコート術というものを! ま、そんなことするのは初めてなんだがな。
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※部屋内に入ってからはちゃんとマナーを守って小声で話しています。
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