第68話 俺達と国営取引所

「あいよ、着いたよ!」

「ん? ここって……」



 馬車で揺られること数十分。

 どうやら目的地に着いたようだ……が、俺達の目の前に広がってるのは想像していたようなかしこまった取引所なんかではなく、巨大な美術館だった。


 この美術館の前は、上京してきてすぐ、城を見物した後に通った覚えがある。

 田舎者の俺からしたらまさに都会ーって感じの建物で、まあまあテンションが上がった気がするな。忙しかったから中には入らなかったけれど。



「あ、あの。ここって美術館じゃ……?」

「なんだい、二人揃って知らずにここに来たがってたのかい? ここの中にお客さん方の目的の施設が入ってるんだよ」

「え⁉︎ そうだったんだ……!」



 ほー、なるほどな。そういう作りか。

 たしかに美術と宝具の管理を同時にしてしまえば、同一の護衛と設備で両方が守れるもんな。


 加えてここは高ランクの冒険者が居るギルドや本拠地である城そのものが近くにあるんだ。

 それこそSランククラスの魔物や犯罪者が徒党ととうを組んで襲ってこない限りは安全だろう。


 まあ全部を突破された際の被害は甚大じんだいだろうが……むしろ、そこまでの事態におちいったなら、国そのものがダメになってるかもな。


 それから俺達は馬車の御手に運賃を支払い、その広い敷地に足を踏み入れた。

 うん、流石に人が多くて騒がしい。だがこのアーティスティックな空気にちょっぴり気持ちが高鳴っている。


 ま、ロナにエレガントじゃない田舎者だとバレたく無いからな、あんまりキョロキョロしないようにしないと。



「ど、どうしよっか? 人多いし、広くってよくわかんないよ」



 うん、たしかに俺もわからない。

 ここは紳士的でそれっぽいことを言っておこう。



「なに、こういうのは案内所に行けば一発さ」

「それもそだね! えっと、それっぽいのは……あ、あった! いこ!」

「ああ」



 相変わらず目がいいな。

 そのまま案内所らしきものに進むロナのうしろを、俺はこそっと着いていく。


 しかし、まだ館内じゃないってのにとーってもオシャレなところだぜ。前衛的なオブジェやら、なんかの魔物の模型やら、とにかく普段じゃ目に触れないものばっかりだ。

 

 こんな新鮮な気持ちになれるなら、もっと前からしっかり見物しておくべきだったかもな。

 間違いなくデートスポットとしても至高だ。俺みたいな紳士にとっては実に有意義な場所と言えるだろう。


 そうこう一分ほど歩くと、第二案内所と書かれている石彫りの看板が掲げられた小屋にたどり着いた。

 さっそくそこにいた案内人のお姉さんに話を聞き、宝具の取引所が第五番館にあると教えてもらったので、俺達はそこに向かうことにする。


 ちなみにだが、お姉さんの話ではこの美術館は一日程度で周りきることのできる広さじゃあないようだ。

 となると、だ。じっくり展示物を見たい場合は一人の方がいいのかもな。もしくはロナみたいなしっかりと体力のある女性と……なんてな。



「ね、ザン」

「ん? なんだ?」

「ち、近いうちにちゃんと見にこようよ、一緒に……ね、どうかな?」

「ああ、当たり前だ。勿論そうしよう。是非ともエレガントな時間を楽しもうじゃないか」

「えへへ……うんっ!」



 おっとぉ、まさかロナにデートの誘いで先を越されるとは。

 超大歓迎ではあるものの、一人の紳士としては出遅れた感が否めないぜ。くそう。


 それから外にある展示物にたびたび目を奪われながら、半時間ほどで五番館とやらに着き、中に入った。

 まぁ、迷わず直接来ても十数分はかかっただろう。聞いてはいたが思っていた以上に土地が広い。


 で、宝具を取り扱っているという五番館の内部はこれまた広く……『査定・取引所』や『展示場』、『オークション会場』といったフロアに分かれていることが案内板で示されている。


 なるほどな、オークションなんかもやっているのか。

 個人的にちょっと、いや、そこそこ……ぶっちゃけかなり興味あるな。面白そうだ。今は行かないけど。

 

 それにしても宝具を扱う建物だけあって、明らかに家族連れやカップルみたいな鑑賞目的の人達の数が減っている。


 逆に大金持ちだったり、戦闘慣れしてそうだったりといった特殊な身の上であろう人物が多く見られるな。外とはちょっとした別世界みたいに感じるぜ。


 そのまま俺達は本来の目的である『査定・取引所』に向かった。

 そこには関所みたいなゲートと高級そうな受付台だけが存在し、その受付に向かって二、三組が順番待ちをしている状況があった。



「すごい、なんだか肌がピリピリする……よーな気がする」

「ああ、俺も同じだ」



 ロナのいう通り。数千万ベルするものを取り扱うのだから当然だが、かなり厳格な雰囲気のある場所だ。

 パッとみただけでもわかるくらいに、防犯用のアイテムも盛りだくさんだしな。


 さっそく俺とロナも順番待ちの列に並ぶ。

 そしてあんまり待つこともなく、すぐに順番が回ってきた。



「ようこそおいでなさいました。お客様、本日はどのような御用件でしょう?」



 受付台に座っている、ヴァンプ族と見られる細長い目の男性が話しかけてくる。

 夜型で、ヒトの血を吸って寿命を伸ばしているとかいう噂のある魔族系の種族……初めて見たが、そんなことは今はどうでもいいな。



「ここは宝具の査定と売却ができるんだったな?」

「その通りでございます。おや、当館は初めてのご利用ですか? それではご説明等をさせていただきたく……」

「是非ともよろしく頼む」



 俺はしっかりとメモをするため、紙を取り出した。









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