第56話 俺達とダンジャンの中の料理

 食材はソードウォ。

 手元にある調味料やその他材料は、塩にバターにスパイス各種、酢、赤ワインと白ワイン、小麦粉、卵、牛乳。あとはニンニクやレモンか。


 これらはロナが知らないうちにひっそりと買って、食材すら劣化させない、とんでもない保存効果をもつ『シューノ』に入れておいたんだ。

 まあ、今後まだまだ増やすつもりだぜ。


 とりあえず、今できるものでパッと思いつくのはムニエルだな。

 単純にそれが一番美味いだろう。



「す、すごい……!」

「ん? 何が?」

「何かブツブツ言いながら高速でお魚捌いてる……!」

「あ……? ああ、まあ、紳士ならこれくらいな! ははは!」



 に、しても……もうちょっとお金が貯まったらもっといい包丁を買おうかな。

 ナイフでも十分かなと思ったが……いや、できなくはないけど、違和感が残るんだよな。


 そうこうしてロナに食べさせるための『空飛ぶソードウォのムニエル』が完成した。いい香りだ。

 やっぱ料理はいいな。うん、これぞジェントルマンの嗜み……だ、な。

 


「お召し上がりを、レディ……」

「うん! いただきまーす!」


 

 ロナによる豪快な、しかし優雅な大きい一口。

 この紳士の手料理は竜族のお嬢様のお口に合うのだろうか。

 かなりドキドキだが……?



「んー! んー、んー! おい、おいひいよぉ⁉︎ しゅごいよザン! こんなにおりょーりじょーずだったなんて! そーぞーいじょーだよ! ごくん。はぁ……はぁ……お店、出せるよ?」

「喜んでもらえたようで、何より」



 ほっ……。いやー、喜んでくれたようでよかった。

 そういや『料理上手』の能力って、冒険者ギルドの食堂の雇われシェフならできる実力はあるって感じなんだよな。

 まぁ、これは自慢だが、俺の料理は不味いとは言われたことはないからな……ふふふ。



「ごちそーさまっ! ありがとね、ザン。さ、片付けたら次行こ!」

「ああ、もう片付け終わったからいけるぜ」

「え、いつのまに……」

「まあ、紳士だからな」



 というわけで、さらに先に進むと道が二手に分かれていた。

 今までの浅いダンジョンではほとんどが一本道だったから、こういう迷路みたいな要素は初めてな気がする。


 ……もし、宝箱などがあるとすればこのどっちかだろう。

 俺は『ラボス』を取り出して前に掲げてみると、オレンジ色の光が左側の道を指した。



「やっぱり便利だねー、それ」

「だよな」



 できる限り宝物は回収していくつもりなので、俺たち二人は迷うことなくその左側へ進んだ。

 割とすぐ行き止まりに辿り着いてしまい、そこには木製の宝箱がちょこんとひとつだけ置いてあるのがみえた。


 とても、怪しい。

 ジェントルな俺の勘がそう言っている。



「罠ありそうだな」

「うん……」

「とりあえず、ここから『ソーサ』で……」



 俺は遠くから木製の宝箱を操り、こちらに寄せる。

 ……そして宝箱が一定の距離まで進んだその瞬間、その場所に向かって壁から一気に、勢いよく何かが撃ち込まれた。


 ズドドド、という激しい音があまりに響いたんだ。

 弱い俺が食らっていたら、間違いなく命を落としてしまっていたような気がするぜ……。


 あ。そういや、ダンジョンのトラップと対峙するのもこれが初めてか。



「まって、今出てきたのって……?」

「どうした? 槍とか、鉄の塊かなんかじゃないのか?」

「いや違う。この青っぽい臭いは……」



 だんだんと巻き上げられた砂で遮られた視界が晴れ、ロナがいぶかしんでいたモノの正体が俺にもわかった。

 

 トラップとして放たれたのは、鉄の塊なんかじゃない。

 ……スリー・マー。

 ランクで言えば最低のFランクに分類される一般的な魚の魔物だ。

 そんなに強くないくせに味はかなり旨いから、重宝されている存在。俺も食べる分には大好きな魚と言える。


 だが、それを武器に使うって発想は流石になかったな。

 たしかに頭部は鉄のように硬く、背びれは鋭いから、殺傷能力が無いわけでじゃないが……。


 そうか、こんなものが俺たちの遭遇した初めてのトラップなのか。

 トラップ自体嫌だけど、最初ならもうちょっとそれっぽいものが良かったぜ。



「ね、スリー・マーって美味しいよね? あれ、食べても大丈夫かな?」

「いや、地面に深く突き刺さってる。エラから砂が入りまくって食べても不味いと思うな、あれだと」

「そっか、じゃあやめとこ」



 こうしてスリー・マーの回収は諦め、俺達は来た道を戻って進まなかった方の道を歩く。なお、手に入れた宝箱を開けるのは後だ。

 

 次に遭遇したのは、一匹のイカの魔物だった。

 しかし、そこそこ巨大で俺よりも頭五個分は大きい。


 太めの剣の刀身に、目玉と触手がついているような見た目……なるほど、今回のダンジョンのテーマは魚介類と刃物、と言ったところだろうか。



「手強そうだな」

「うん、あの触手の先端も全部鋭利な刃物になってるね。でも……!」

「訂正する。手強そうだった、だな。頃合いだ……」

「ありがと! 光波斬!」



 今のやりとり、中々かっこよかったんじゃないか?


 まあ、それはさておき。先程と同じ、光属性の飛ぶ斬撃を再び使うロナ。

 袈裟がけに放たれた一つの三日月状の鋭利な衝撃が、剣とイカが一体になった生物の大きな頭を狙う。


 ああ、正確にはアレは腹だったか?

 海洋料理が記されたレシピの本のどこかに、豆知識としてそう書かれてたような気がする。

 まあ、たしかに内臓は全部あっちに詰まってるもんなー。



「……! 硬いっ! それなら……!」



 剣のイカはロナの一撃をまともに食らったにも関わらず、まだ生きていた。ダメージは入ったみたいだが。

 

 ロナは剣に光を纏わせ……つまり〈光白斬こうびゃくざん〉を使いながら怯んでいるイカに向かって距離を詰めていき、その眉間に剣を突き立てる。

 

 そうして剣のイカは倒れた。

 ちょっと頑丈だったのは、その身体が金属並みに硬いからだろうな。



「ふぅ。相手が弱くなっててこれかぁ。まだまだだなぁ……私」

「なに、そう思うなら頑張っていけばいいだけさ。現に、さっきから光属性の術技しか使わないのも、『強化』と『節約』の能力を手に入れるためだろ? そんな感じで少しずつでも積み重ねて行けばいいんだ」

「……だね」



 とは言っても、レベルとステータスがほぼ無くなった、そんな圧倒的に弱体化した相手を並みの術技一撃では倒せない。

 ロナ自身はステージ☆2つのレベル中盤なわけで、『リキオウ』まで装備している状態なわけだしな、焦る気持ちはわからなくもないぜ。



「ところで、これって……」

「あー、その大きさは流石に調理は厳しいな。解体に時間かかるだろうし」

「そっかー。じゃあ次行こう」

「だな」



 俺達はまた、先に進んだ。







=====


今回相手したイカの魔物の名前は、ロングソード・スクィードです。ランクはBですね。剣先烏賊です。


非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!


追記:

眠気が酷く執筆ができないので次の投稿は明日となります。

たびたび申し訳ありません。

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