第50話 俺達と振り返り 前編

 寝っ転がって天井をただ眺めているだけのイケメンってのも、案外、絵になるんじゃないだろうか。


 ……今の俺がまさにそれだ。


 特に他の何かをするでもなく、ただ、ある場所のある一室に置いてある少しお高めのソファの上で、紳士的に脳と身体を休めている。


 ふと時計を見ると、今の時刻はお昼少し前だった。

 そうか、つまり、アレから二十四時間が経ったことになるのか。


 ならそろそろ俺の元にやってくる頃だろう。

 俺の可愛くて頼もしい相棒が、ニコニコしながらな。



「ザン!」

「よぉロナ。待ってたぜ」



 明るい薄水色のワンピースを来たロナが、案の定、見惚れてしまうほどの可憐な笑みを浮かべながら俺のもとに駆けてくる。

 

 そうそう、俺はこの元気な姿の彼女をずっと待っていたんだ。

 魔力の欠乏による症状はきっちりと収まりきったみたいだな。


 となると、ドロシア嬢とカカ嬢、他二人もロナと同じように復活したことだろう。

 これで本当の意味で一件落着と言えるな。



「ステータス、元に戻ったよ!」

「だろうな、よかったぜ。どうだ、他に不調はないか?」

「うん、ないよ! ついさっき『ライフオン=オルゼン』を唱えたばっかりだもん」

「おお、そうか」



 なら安心だ。小さな傷や火傷も跡が残ったりはしていないだろう。

 余計な心配しなくていい分、俺にとっては、あの魔法は彼女に託して大正解だったな。



「……逆にザンは何ともない?」

「ああ、見ての通り何ともないぜ。自分でも『メディメス』で回復したし、回復魔法もめいいっぱいかけてもらったしな」

「そっかぁ!」



 俺は何気なく自分の身体を起こし、ソファに空きを一人分作る。

 意図を汲み取ってくれたロナが、その横にちょこんと座ってくれた。


 そういえば、ロナと顔を合わせるのも十数時間振りか?

 魔力欠乏の苦しみを意識しないようにするため、ついさっきまでずっと眠っていたしからな。しばらく飯も食ってないことだろう。


 時間を置いたからだろうか、こうして近くでみると、改めてエラい美人だなと思う。

 加えてスタイルもいいしな……スタ……イル……あ。


 ま、まて、思い出すな、今に限ってアレだけは思い出すな! ロナと顔をむけて会話し辛くなる。

 紳士……あー、俺の中の紳士よっ……出番だ!

 落ち着け、落ち着かせてくれ……!


 うん、落ち着いた。オッケー。



「ど、どうかしたの? そんなに眉間にシワをよせて……やっぱり、回復しきってないんじゃ……⁉︎」



 なに、顔に出てただと? くっ、俺としたことが。

 なんとか誤魔化さなければ……な。

 そうだ、元々後でみんなに話そうと思ってたことをロナには先にしてしまうか。相棒特権ってことで。



「あ、ああ。いや、問題ない。ちょっと考えごとしてだけだ。こうして話し合いできる相手もできたことだし……そう、あの《大物狩り》のステータスと、皆んなを苦しめた奇術の正体についてな」

「そっか、ザンは《大物狩り》のステータスカードを見たんだもんね」



 ロナの言う通り、俺は《大物狩り》を気絶させた後、『強制互角』を解除し、唯一まともに動ける身としてヤツのステータスカードを確認した。


 そのおかげで、ロナ達にかけられたモノがまる二十四時間で自動的に解除されることがわかったわけだ。

 

 だが皆んなにはまだ、そこまでしか伝えていない。

 説明する方もされる方も、色々と余裕がなかったからな。


 というわけで俺は、ロナに詳しい説明をし始めた。


 《大物狩り》こと、羊族の男。その本名はバメットといい、苗字はなかった。

 星5つのレベル6、ロナが以前述べた基準に従うなら、文句なしのSランクの強さの持ち主だ。


 魔法を手広く習得している上に、術技も豊富である器用でオールマイティなステータス。

 無論、星を5つを持つ者にふさわしく、成長可能なものはその四割近くが最上級にまで進化しきっていた。

 「究極魔法」や「究極術技」と呼ばれるものもそれぞれ三つ以上は所持しており、能力だって『槍術・10』や『術技節約・Ⅴ』といったものが揃っていた。


 ……が、本題はそこじゃない。

 

 彼のステータスの中で一際目を引いたのが、称号の欄だった。

 というか、その称号といくつかの能力の組み合わせこそが、コイツの強さの本質だったんだ。


 注目すべき称号は三つ。

 【魔渇の呪い】【悪化の呪い】【心身一体の呪い】。

 そう、ヤツも俺みたいに呪われていたんだ。

 

 まず【魔渇の呪い】は、魔力が残量2以上にならないというものだった。

 最初は俺の【最弱の呪い】の魔力にのみ影響があるバージョンかと思ったが、どうやら全く別のもののようで。


 この呪いは「魔力の最大値はそのままなのに魔力が回復しなくなる」という効果を有していた。

 つまり、「永遠に魔力が欠乏した状態」にさせられてしまう。

 ずっとずっと、昨日の五人のように頭痛や吐き気に苦しまされるわけだ。まだ【最弱の呪い】の方がマシな気さえしてくるぜ。


 次に【悪化の呪い】。

 これは名前の通り、「病気や毒の症状を悪化させる」というものだった。おそらく魔力の欠乏による頭痛や吐き気もその対象なのだろう。

 

 最後に【心身一体の呪い】。

 この呪いは自身の感じている苦痛に比例して自動的にステータスが下がるというもの。不利になればなるほどより不利になる、なんとも嫌らしい効果を持っていた。


 そして、これらの呪いと組み合わせて使われていたのであろう能力が、これまた三つ。

 『魔欠耐性・Ⅴ』『魔石吸収』『複製呪与じゅよ』。


 まず『魔欠耐性』は、魔力の欠乏による症状を抑えるという能力だった。『魔欠耐性・V』はその最上級のようであり、おそらく魔力の欠乏の症状をほぼ無かったことにできたのではないか、と、俺は考えている。

 つまり、《大物狩り》は所持している呪いの大半の効果をこれで抑制できていたわけだ。


 そして『魔石吸収』は、魔力の消費を魔石で補えるというもの。

 呪いのせいで増えず、使えない……そんな自分の魔力をこれでまかなって魔法や術技、宝具の効果を使用していたんだろう。


 現にヤツの体を探った時、俺とロナが一昨日売却した棒状の魔石と同じものが、衣服に張り付いてるのを見つけたしな。

 黄色い屋根の店の店主が言ってた能力はこれのことだろう。そんなに珍しい能力ではないのかもしれない。

 

 で、一番重要なのが『複製呪与じゅよ』。

 その効果は、「自分にかかっている呪いを対象に一時的に複製してうつす」というもの。


 能力の発動方法は、特殊な魔力の塊を発して相手にぶつけること。

 効果の持続時間は、俺が皆んなに教えたように二十四時間だ。


 発動方法と呪いしかうつせないという違いはあるものの、俺の『強制互角』と似たような能力と言っていいかもしれない。


 ……まあ、注目すべきだった力はこんなものだ。

 

 ちなみに「瞬時に移動する力」や「周りから認識されなくする力」等はステータスの中に該当するものがなかったため、宝具等のアイテムで行っていたのだと思う。


 こんな感じの一連の説明を聞いたロナは、軽く身体を震わせ、ゾッとしたような表情を浮かべた。



「そ、そんな相手に襲われてたんだ……私達」

「ああ」

「あれ? でも、なんかこれって……」

「言いたいことはわかるぜ、根本的には違うが、俺のスタイルと似ているよな。呪いを利用して、不意打ちを前提に戦って、足りないものは宝具で補って……なんてな」



 いや、本当は違う。似てるなんてものじゃないさ。


 相手の体調まで悪化させられる上、『魔力』以外のステータスはまともに使えるから、総合的にみたら俺の上位互換だと言っても過言じゃない。


 ただ、俺より強いせいで俺の力が通用した、それだけのことだ。


 AランクやSランクの冒険者達がいとも簡単に倒され、宝具を奪われるのも仕方ないと言える。

 もし、俺が今の力を待っておらず、ただあの場に六人集まっていたらと思うと……。まず間違いなく全滅だろうな。恐ろしいぜ。

 


「つまりザンを相手にしたらああなるんだ……!」

「ま、俺がロナの敵に回ったりするなんて、この命に誓ってもありえないから安心してくれ」

「そ、そう? えへへ……! でも本当にザンがいてくれて良かったよ、ザンが頑張ったから皆んな無事だったわけだし」



 ああ、言う通りたしかに俺は頑張った。

 でも結局のところ、不利だったあの状況をひっくり返してくれたのはロナだったんだよな。



「決着をつけられたのはロナのおかげだろ? だからロナが一番頑張ったんだ、誇っていいぜ!」

「え、違うよ! ザンが一番だよ!」



 なんだと、ロナはそういう認識なのか。

 それは違う……と言いたいが、待てよ。


 そういえば俺、あの瞬間に彼女がどういった行動を起こしてああなったのか全容を正しくは把握できていないぞ。

 この際だ、あの時何があったのかちょっと訊いてみるか。










=====


ここ連日、過去最遅更新を達成し続けてて毎日申し訳なくなります。すいません……。


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