第23話 俺の活躍方法
膨らむ鉄製猪達の部屋からその先に進み、次の階段を降りる。
再び広い部屋があり、そこには膨らむ猪と同じ真っ直ぐな牙の猪の頭を持った、小さめの人型の魔物がいた。五匹全員、何かしら金属の装備品を付けている。
「あれはコボルト……? でも、顔がパンクボアで……?」
「なに、どうせステータスは無いようなものだしな。名前とか気にしなくていいんじゃないか?」
「そだね! じゃ、次は新しく覚えた『風波斬』を試してみようかな?」
「……いや、次は俺にやらせてくれ」
俺はレディファーストを重んじる紳士だが、らしくなく、ロナにそう言った。俺も敵を相手に武器を試してみたくなってしまったんだ。
「あ、そっか! あのクロスボウを試すんだね! もう『互角』は効いてるみたいだし、もし危なくなったら私が守るから存分に試して!」
「ありがとう。万が一の時は頼りにしてるぜ」
今まで互角にしてきた魔物の例に漏れず、ボアルト達は突然弱くなった己にあたふたしていた。俺はありあわせのものでズボンにつけてぶら下げていた『半月の弓銃 ハムン』を手に持ち、その発射口を鎧をつけている一匹の猪頭に向ける。
「華麗に撃ち抜いてやるぜ……」
帽子を視界に入るくらい傾け、ちょっとカッコつけたセリフを言ってから、この弓銃の効果を使い魔力で作った光属性の矢を撃ち出した。紳士的な魔弾は程なくして狙っていたボアルトの眉間を貫く。
そこから間髪入れず連続で四発、各々の皮膚が露出しているところに正確に狙いを定め光の弾を叩き込む。俺は一度も外さず、全弾綺麗にヒットさせた。
なにもこんな丁寧に狙わなくても、魔力と弾は無限なのだから乱れ打ちしているだけでも十分奴らを倒せるのだろう。しかし雑な動きをしない方が紳士的でエレガント、つまり俺らしいのさ。
「ふっ……まあ紳士にかかればこんなもんか」
「……⁉︎ え、あの……ザンって弓の扱ったことあるの……?」
「いや、子供時に普通の弓型のおもちゃ……ほら、先端が矢尻の代わりに布を丸めたボンボンになってるやつ、あれで的当てして少し遊んだことがあるくらいかな。だから、矢を打つのは十二年ぶりくらいか」
「す、すごい……いくらクロスボウでもほぼ初心者でこんな的確に……」
とまあ、一通りカッコつけて楽しんだが、実を言うと初っ端から連続して、正確に対象を撃ち抜き続けられたのにはタネも仕掛けもある。
まず、俺の愛帽の
だからその次に腕の揺れによるブレなどを『弓銃ハムン』ごと指輪『ソーサ』で補助し、無理やり安定させた。
加えて最後に、撃ち出す瞬間に矢をよく見て、狙った場所からズレているようなら、直進し始めるその矢そのものを操って軌道修正をしたというわけだ。
これだけの工程とアイテムを駆使して、やっとまともに当てられた。あくせくしてるのがバレるとカッコ悪いから、ロナにはこのまま秘密にしておきたい。
「ザンってほんとに、ほんとーにすごい人なんだね……! たった数分ですぐに木を乗りこなしたり、今みたいにほぼ初めてで的確に矢を当てたり。天才肌っていうのかな?」
「ふっふっふ、ふっふっふっふっふ……」
「そもそもこのダンジョン攻略自体ザンがいないとできないし、もしかして私は要らない……?」
「おっと、それは流石に言い過ぎだぜ」
「そ、そっかー、よかった!」
たしかにそこそこの攻撃手段は得られたことになるだろうが、火力や戦闘経験という面では当然ながらロナに遠く及ばない。だから居てくれた方がいいに決まっている。
……何より可愛いレディと行動を共にすると言う状況に癒される。いや、正直こっちが本音だ。
とにかく、こうしてあっという間にこの部屋の魔物も全滅させてしまったので、俺たちはまた次に進むことにした。あんまり高値にはならなさそうなので半猪小人達の亡骸と装備品は剥ぎ取らずそのまま放っておく。
そして先に進めば、また階段があり、それ降りて新しい部屋に向かうものだと思いながら歩みを始めたが……。
「……あ、あれ、ザン! また鞄が光ってるよ!」
「マジか!」
廊下の途中でなんと、隠し宝箱や隠し部屋を見つける『秘宝の羅針盤 ラボス』が床の一部に向かって光を差し、何かの在処を示したのだった。
その光の矛先をよく見ると、石畳の床の一部に他にはない模様が見られるブロック群があることに気がつく。目を凝らさないとなかなか見つけられないだろう、こんなもの。巧妙に隠してあるものだ。
「こんな感じで宝箱が道中に置いてあるんだね!」
「だな。掘り出してみたいが……よし、できそうだ」
絶賛大活躍中の指輪『ソーサ』を使って、その毛色が違うブロック群を一つ一つ取り除いていった。まあまあブロックの数が多かったが割とすんなり撤去は進み、難なく銅色の宝箱を掘り出すまでに至ることができた。
ロナはしゃがみながら、銅の宝箱を観察し始める。
「これ開けてみる?」
「こういうのって罠とか仕掛けられたりしてないのか?」
「あ、どうなんだろ」
……この言葉、何気なく罠がないかと確認を取るために言っただけだった。しかしその自分の一言にふと気が付かされた。俺の弱点の一つに。
「ロナ、やっぱり開けるのは後にしよう。ボスを倒して手に入れた宝箱ならまだしも、道端に置いてあった宝箱は警戒したい。……俺はよく考えたら、罠のような、生物が関わらない攻撃手段にめっぽう弱いんだった」
「……あっ! たしかにそうだね。危ない……今後も気にかけないと。じゃあほっておく?」
「いや、それももったいないし、これは俺が浮かせて持っていくとしよう。比較的安全な場所で開けるんだ」
「うん、そうしよっか」
俺は銅の宝箱をそっと『ソーサ』を使って浮かせた。手で持つより楽だ。
「それにしても、だいぶその指輪の扱い慣れたみたいだね」
「まあな」
ロナの言う通りたしかにかなり慣れてきている。この調子ならいつか、ロナの買い物に付き合う優雅な一時が来た際、荷物持ち役として存分に役に立てそうだぜ。
あとはこの場所には他に何もなさそうだったので、俺たちは再び歩を先に進めることにした。
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