第5話 俺と彼女の事情
そうして見せてもらった彼女のステータスは、以下の通りだった。
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ロナ・ドシランテ
☆ Lv.12
適正:剣士・武闘家・パラディン
<無所属/-ランク>
魔力量:24/24
攻撃:10 防御:5 速さ:7 魔力強度:2
魔法:[フレア][トルネ]
術技:<魔力斬り><火炎斬><疾風斬>
能力:『剣術・2』『武術・1』『嗅ぎ上手』『食料見分』
称号:【竜の血筋】【竜の誇り】【食いしん坊】【究極大器晩成】
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名前はロナというらしい。見た目通り可愛いらしい名前だ。
とりあえずそれはいいとして、レベルが12なのにあまりにもステータスが低すぎる。俺みたいに呪われまくっているわけでもいないし、異常としか言えない。
原因は確実に【究極大器晩成】という称号にあるだろうと見た。さっそくステータスカードを指でなぞって、どのような効果をもつものなのか拝見させてもらうことにした。
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【究極大器晩成】
ステージ☆2に到達するまで一度のレベルアップで獲得できる魔力量は最高で2、他ステータスも合計2までしか上がらなくなる。
その代わり☆2に到達して以降は一度のレベルアップでステータスや魔力量が激増し、魔法、術技、能力、称号の習得や成長が常人より圧倒的に早くなる。
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ステージ星二とは、一度ステージ星一の状態でレベルが100まで到達したら成ることができる。
そして星一つの人間と比べて一回り強くなる。記憶違いでなければこれで正しかったはずだ。星三や星四なんかも存在するようだが、それは今は置いといて。
とにかくなんなんだこの称号は。メリットが発動するまでの条件とその道のりがあまりにも鬼畜すぎる。
能力が毎回計二つずつしか上がらないままレベルを100に到達させろというのは無理に等しい。酷さでいえば俺の呪いとそんなに変わらないだろう。
となると、彼女の現状の流れが大体読めた。
竜族という優れた種族でパラディンなんかにも適正がありながら、この称号とステータスのせいでどこのギルドにも属せない、受け入れてくれない。そして仕事を紹介してくれる場がなければこのようなバリバリの戦闘タイプは金を稼ぐことは困難となる。そしてお金がなくなって……。
俺は竜族の美少女、改め、ロナに丁寧にカードをお返しした。
「私がなんでずっとご飯食べられなかったか……わかった?」
「ああ」
「六日前に里からこの街に来たんだけど、三日で持ってきたお金も尽きちゃって、ギルドとも契約できないで……。昔からこうなんだ。この称号のせいで落ちこぼれで……。修行も物心つく前から重ねてきたけどテンでダメで、私、もうどうしたら……っ。あっ、ごめんね! 貴方の方が辛いよね?」
……いや、そんなことはない。
俺は今日になって悲劇に見舞われたが、ロナの場合は生まれつきこの鬼畜な称号を背負ってきたということになる。さぞ、苦しまされて来たことだろう。重ねてきた日数とその重みが違う。
さらに上京したはいいが、ギルドと契約できず、金も尽き、裏路地で暴漢に襲われかける。こんなことってあるか? しかも適正的に俺みたいに農家か商人としてやっていくとか、そういう潰しも効かないんだ。
ああ、こんな可愛い女の子とお近づきになれて内心はしゃげるほどの心の余裕があった俺が馬鹿みたいに思えてくる。
そうだ、お金がないのなら宿はどうしているんだろう。まさかだとは思うけど……。聞いてみるか。
「あー……そういえば君、いや、今後はロナと呼ぼう。俺のことはザンとでも呼んでくれたまえ」
「う、うん。わかった!」
「それでロナ、金がないのに泊まる場所はどうしていたんだ?」
「野宿だよ?」
「ひぃ、危険が過ぎる……」
まさかだった。飯の匂いに釣られて路地裏に入るあたり、自分の身に対して危機感をあまり持てない性格なのだろうか。竜族だから肝が据わってるとか、そういうレベルではない。
そうとわかれば放って置くわけにはいかない。もし放って置いたらとーちゃんの教えに背くことになる。そうでなくてもレディを見捨てることなんてジェントルな俺にはできない。つまりもう俺には、このロナをどうにかするという選択肢しかないのだ。
いくら美少女相手とはいえ、自分、お人好しすぎるな。ふふ、とーちゃんのせいだぜ。
「わかった、じゃあ今日俺が泊まってる部屋つかっていいから。宿屋の人には話つけておくし」
「ええ⁉︎ ど、どうしてそこまで? もう恩を返しても返しきれないところまできてるよ」
「いいさ、見返りなんていらないの、さ」
「……わ、私がその部屋に泊まるとして、ザンはどうするの?」
「男ならば、野宿でも問題ないぜ」
「そんな……」
ふっ、決まった。俺ってばカッコいい。じゃあロナも久しぶりの食事を終えたところだし、そろそろ宿へ交渉しに戻るとするか。
「それじゃ、行こうか」
「う、うん……」
◆◆◆
「と、いうわけなんですぅ、お願いしますょ……どーかこの通り!」
「うーん、それならもう一部屋借りることもできますがね?」
俺は黙って宿屋の主人にすっからかんになった財布をみせた。主人はその財布と竜族のロナを交互に見て察してくれ、うなずく。
「……はぁ。わかりました。特別に今日だけ一人用の部屋だが二人入ることを許可しますよ。ただ、部屋をあんまり汚さないでください、あんまりね」
「ありがとうございます! ロナ、いいってさ!」
まさか俺もこのまま泊まっていいと言ってくれるなんて思わなかった。主人の優しい情けに感謝しなければ。
まあ、どっちにしろ彼女が安眠できるよう部屋を出てって野宿をするつもりだが。俺はさっそくロナを連れてそのまま泊まっている部屋に入る。
「ベッドはロナが使ってくれたまえ。俺は言った通り野宿にするから」
「の、野宿は結局眠れなくなって、疲れるからだめ……! 恩人にそんなことさせられないよ」
ロナは酷く辛そうな顔をした。本気で嫌がってるように見える。よし、ここは柔軟に考えを改めよう。この状況だと野宿をこのまま選ぶより、素直に同じ部屋にいてやったほうが彼女の心が楽そうだ。
「そう? じゃあ俺は机で突っ伏して寝るか」
「ううん、私がそっちで寝るよ。あるいは一緒でも……」
「ふははははっ、面白い冗談だ。レディーと添い寝しただなんて父に知られたらなんと言っても雷落とされるかわからないから、それは勘弁しておこう。だからロナはベッドで寝てくれ」
「わ、わかった」
やはり色々と危機的な意識が薄いようだ。俺が紳士でなく狼さんだったらどうするつもりだったのか。それに、こんな超美少女のロナと一緒に布団の中に入るとかムネがドッキンドッキンして眠れなくなることは確実だ。それはすごく困る。
でもまてよ、そもそも女の子をこんな狭い部屋に連れ込んでいる時点で中々やばいんじゃないか? ……ふふん、だが俺は紳士だ。紳士の中の紳士。それくらいのことでうろたえないのさ。
「あっ、それが例のパンドラの箱?」
ベッドに腰をかけたロナが忌々しい箱を見てそう言った。
「そう。いかにもって見た目してるだろ? そうだ、箱の中から売るものを選ばないとな。もう金がないから、何か売らないと明日は二人揃って食事抜きの野宿だ」
「お金をたくさん使わせちゃったもんね……。ごめんなさい、ご飯食べるの止められなくって……」
「なに、気にしないで良いんだよ。気にして欲しいなんて俺は一言でも言ったか? 言ってない、なら、それでいい」
食事を終えた頃からほとんどずっとロナは項垂れていた。申し訳なさで心がいっぱいなんだろう。まあ、申し訳ない気持ちを抑えろなんて無理な話だ。俺も彼女と同じ立場なら申し訳なさでテンションが駄々下がりしていただろう。
だがしかし! それはそれ、これはこれ。今俺がしていることはお節介などではなく、一人の少女を守るために紳士として必要な行為。辛いだろうが我慢してもらうしかない。
俺は改めてパンドラの箱を開いた。一度開けばそれ以降は呪いの煙が襲ってくるということはないようだ。中身はたったの三つ。しかもそのうち二つは羊皮紙でできている。ギルド『リブラの天秤』でぶちまけた中身を拾った時からわかっていたことではあるが、こうしてみるとショボくみえる。
だが、実際は人一人の人生を代償にして開けられた宝箱に入っているもの。紙とはいえ全て宝具かそれと同等の価値があるものなんだろう。
宝石の類だったらわかりやすかったんだが……ま、文句を垂れても仕方ない。一つずつ見ていくとしよう。
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