2.廊下の少女
薄暗い廊下の突き当たりに立った赤いスカートの女の子が、僕らに向かって手招きをする。
(ショクシュさん、なのか?)
確かに、学校に伝わる怪談そのままの姿だ。
……しかし……
顔の筋肉が固まっている。
恐怖しているのが分かる。
「おい、蟹岩、落ち着け」と声をかけた。「あれは現実だ。女の子は実在してるんだ」
「え?」キョトンとした顔で蟹岩が僕を見た。
「現実に存在する女の子なんだよ」僕は続けた。「どうして夜の高校に小学生が居るのか分からないないけど、きっと何か事情があるんだろう」
「だって……噂の通りじゃないか。赤いスカートを履いた小学三・四年くらいの女の子が、おいで、おいで……って」
「ちょっとばかり偶然が重なっただけだろ。よく考えろよ。一つ一つの要素に分解すれば不自然な所は少ないって……小学生の女の子が赤いスカートを履いても不思議じゃないし、仮に彼女が迷子だとしたら、僕らを見て『おいで、おいで』をするのは当然だ。『この学校の生徒らしきお兄さんたち』を見つけて、助けて欲しいと合図しているんだ」
「そもそも何で、こんな時間に……高校なんかに小学生がいるんだよ?」
「まあ、そこは確かに不自然というか、僕にも良く分からないけど……とにかく行ってみよう」
「お前、なに言ってんだ? まさか『あれ』に近づくつもりか?」
いいかげん、蟹岩の及び腰に付き合うのも面倒臭くなってきた。
僕は、彼の問いかけを無視し、女の子に向かって再び廊下を歩き出した。
「おい、待って、待ってくれよ」
男くさい外見からは想像も出来ないような情けない声を出して、蟹岩が僕に付いて来る。
(怖がるのは良いけど、もうちょっと離れてくれないかな……)
肩が触れあう程に体を寄せてきた蟹岩に困惑しながら、僕は廊下を歩き、少女に近づいて行った。
そのとき僕らが歩いていたのは『第二校舎』から『第一校舎』へ向かう一階の渡り廊下で、少女の立っている突き当たりの所で第一校舎とT字型に交差している。
少女まで五メートル程の距離になり、僕は彼女に『どうしたの?』と声をかけようとした。
しかしその直前、少女は向かって左側にタタタッと走り、校舎の陰に隠れてしまった。
「あ、待って」と言いながら、僕は急いで彼女の立っていた渡り廊下と第一校舎の交差点に行った。
左側、第一校舎の奥を見る。
奥の階段を昇っていく少女の影が見えた。
思わず、彼女を追いかけて走る。
「おい、ケンタ」蟹岩が僕の名を呼んだ。「待ってくれよ。職員室へ行って先生を呼んで来た方が良いんじゃないのか?」
その声に、僕は足を止めて振り返った。
職員室は、少女が昇って行った階段とは反対の方向にある。
僕は、蟹岩の肩越しに職員室を見た。明かりが漏れていた。誰か居るって事だ。
確かに、蟹岩の言うことにも一理ある。
「そうだな……じゃあ、蟹岩は職員室へ行って先生を呼んで来てくれ。僕は少女を追いかける」
「ええ? 俺一人で?」と蟹岩が心細そうに言った。「俺、嫌だよ……も、もしも職員室に誰も居なかった、どうするんだよ?」
「お前なぁ、さっきと言ってる事が逆じゃねぇか。先生を呼んだ方が良いって言ったのは蟹岩だろ」
「そうだけど……この時間だと、当番の
「いつもなら、見回り当番以外にも三・四人の先生が残業してるだろ。誰かしら居るよ」
「でも、絶対に先生が居るって保証は……」
「もう、勝手にしろよ。とにかく俺は少女を追いかける」
そう蟹岩に言いながら、僕はバックパック型防具袋と竹刀を廊下の隅に置き、奥の階段に向かって走り出した。
「あっ、待って」という蟹岩の声。走りながら振り返って見ると、彼は職員室に向かわず僕を追いかけていた。
(……なんだかな)
友人の言動に呆れながら階段を一段飛ばしで昇った。
二階に着いて、廊下の気配を
人の気配はしないけど……分からない。
蟹岩が追いついた。
僕らは一つ一つ教室を見て回った。少女は見つからない。
三階へ上がる。教室を見て回る。誰も居ない。さらに階段を昇る。
四階の廊下に……人影があった。
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