第2話

「僕の声が聞こえるかい、智也」


智也の夢の中で声が発せられた。


「は、はい?どちら様ですか?」


「あ、うーんと、好意的に聞いてほしいんだけど、僕は死神をやっているんだ。」


「はい、死神??!言ってる意味がわからないんですが、、、。」


「そうだね、君の夢の中の限られた時間で話しかけてるから簡潔に言うよ。」


「は、はぁ、。」



よくわからないまま智也は話を聞くことにした。


「まず、僕は死神という役割を担っているわけだけども、何を司る神だと思う?」


「それはもちろん死神様なんですから死に決まっているでしょう?」


当然と言わんばかりのはっきりとした口調で答える。


「残念。よくそう思われがちなんだけど違うよ。


死神は生を司っているんだ。


僕は苦しい人生を生きる人でもいつか必ず良いことがあるから寿命が全うできるまでは誰にも死んで欲しくないんだ。


その結果として苦しい病気、酷い怪我、悲しい自殺で亡くなりそうな人の命を引き伸ばしてしまうから神界では死を遠ざける神として扱われてしまっているというわけだね。」


「死神様は人を生きながらえさせてくれるんですね。


死神様についてはわかりましたが、なぜ僕の夢に死神様が?」


最初から思っていた疑問をぶつける。


「そう、これが今回の本題さ。


君の妹さんが今生きている理由はまさに僕にあるのさ。


死にそうなところをなんとかずっと眠った状態にしておく事で命の灯火を消さずに済んでいるのさ。」


「そうなんですか!本当にありがとうございます。」


死神は浮かない顔のままだった。


「礼をいうのはまだ早い。むしろ僕が謝罪しなければならないくらいだ。


現在僕の反対、妹さんを寿命を無くしたいと考える神もいるんだ。


その神は幸福神なんて言い方をされる時もある。


この神の考え方は辛い現世から一刻も早く離れて幸せな天国に全ての人が行って欲しいというものさ。


この考えを全うするために日々現世の命を消そうと奔走しているわけさ。


殆どの神様も実は同じ考えを持っていて僕の考えは完全に仲間外れになっているんだ。


僕は人が悲しいこと、辛いことを経験するからこそ楽しい嬉しい時間がより美しく輝くと思っているんだ。


君の妹さんにも是非生きてまた喜怒哀楽に満ち溢れた人生を歩んでほしいんだ。


ただ、今回はそれが裏目に出てしまった。本当なら娘さんは半月もせずに退院できる筈だった。


僕はその半月を一週間に縮めようと力を使ったんだ。


その行為は多くの神に天国を遠ざける原因を作ったといういちゃもんをつけられて、そこに目をつけた死へと誘う幸福神が妹さんに力を使ったんだ。


両方の力の均衡状態。それが今の妹さんの健康な無意識状態というわけだ。」


すまなそうな顔で智也に説明をした。


「死神様は悪いことは全くしていません。


話を聞いた後でも僕は感謝しています。」


「そう言ってもらえると嬉しいな。


残念だ、そろそろ時間だ。


これ以上君の夢の中に顕現すると他の神に見つかってしまうからね。


また機会を見て君にコンタクトを取るよ。


では、さようなら。」


死神は姿をゆっくりと消し、智也の意識もそこで途切れた。


リリリリリリ!


目覚まし時計が鳴った。


智也にとってはかなり衝撃的な話だったものの、本物の神の力だったのだろうか、単なる夢や嘘だとは少しも思わず、全てが納得できた。


いよいよ明日は大会である。


智也は圭吾や俊哉を始めとするチームのみんなと最後の練習を行い、1日を終えた。


家に帰り、食事が始まった。


「今日は明日のためにカツ丼を作ったのよ!


たくさん作ったから明日に響かない程度にお腹いっぱい食べてね。」


「母さん、ありがとう。俺頑張るよ」


そう言って智也は口いっぱいにカツ丼を頬張った。


「智也、頑張るんだぞ!父さんは絶対に出来るって信じてるからな!


優希が起きてきた時に良い報告ができるように勝ち続けるんだ。」


「うん、全力で頑張るよ。」


お腹いっぱい夕ご飯を食べた智也は風呂に入ってその後すぐに眠りについた。






「おい。聞こえるか? 


智也って言うんだろ? おい。」


「ん?、ここはまた夢の中なのかな?


あ、死神様ですか??」


「あ?アイツと一緒にするんじゃねえ。俺は幸福神だ。


人間どもが『神様、どうかご慈悲を』なんでほざいてる時に気まぐれで叶えさせたりしてんだけどなぁ。


てかてめぇがなんでアイツを知ってるんだよ?」


「あなたに説明する筋合いはありません。」


「そうか、なるほどな。納得したぜ。


だから優希とか言うやつがくたばらねえってことか。


てめぇも早く死神のクソ野郎と縁を切れよ。


そしたら優希ってやつも楽になるぜ。


幸せに包まれた天国にすぐ行けるぜ?


良い返事待ってるぜ。


じゃあな。」


目が覚めた智也は浮かない気分のまま、試合の準備を始めた。

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