第14話 鬼、謎の人物と邂逅す。
大竹丸は謎の人物に抱き着く小鈴の動きを止めようとはしなかった。何せ鬼の直感が全く働かない。それほど相手が弱者だということなのだから、むしろ止める必要も無かったのだろう。更に言えば、相手は小鈴に抱き着かれて倒れている。それぐらいに弱い。
「御主、何者じゃ? 名は何という?」
「ひぃぃっ! お助けー! 殺さないで下さい! お願いします! お願いします!」
小鈴に抱きつかれながら、ガクガクと震える謎の人物。その様子を見てどうも様子がおかしいと思ったのか、小鈴も不思議そうな表情を浮かべる。
「妾の質問に誠実に答えるかどうかによっては考えんでもないのう……」
「ひぃぃぃ! ぼ、ボクはノワールと申します! このS級ダンジョン『殺し間遊戯』のダンジョンマスターですー!」
「「ダンジョンマスター……?」」
大竹丸と小鈴の合点のいかない声が響く中、更に謎の人物ノワールは恐ろしいことを告げる。
「あとボクは男ですー!」
「「嘘(じゃろ)っ!?」」
むしろダンジョンマスター発言よりもそちらの方が食い付きが良かったのはどうなのだろうか?
ノワールのレベルが色々と高すぎたのがいけないのかもしれない……。
★
「とりあえず落ち着いたかのう?」
「す、すみません、取り乱しました……」
ノワールの『男の娘』発言の後、彼はとにかくひたすら、死にたくない、ごめんなさい、見逃して下さいと土下座の
「えぇっと、ボクも本当、詳細は良く分かっていないんで、とにかくボクの身に起こったことを説明します……」
そうして語りだしたノワールの話は奇々怪々であった。
まず、ノワールが目覚めた時、そこは白を基調とした空間であったという。それまでの記憶は一切なく、ただ自分の名前がノワールであるということだけが理解出来る状態だったらしい。そして、その白い空間の中で『これから君たちにはダンジョンマスターをやってもらう』といった声が聞こえたのだそうだ。
大竹丸はふぅんと流し――。
「その声に心当たりは? 男か女かも分からぬのかのう?」
――と尋ねる。それに神妙な顔で返すノワール。彼にとっては未だに危機的状況なのだから笑うことすら出来ないのだろう。私見を述べる。
「ボイスチェンジャーを通したような声だったのでボクにはさっぱりです。とにかくダンジョンマスターになるための人は複数いて、拒否権が無かったことだけは覚えています……」
「ダンジョンマスターになるのを拒否したらどうなるの?」
「精神の消滅、死ぬって言ってました……」
「怖っ!」
自分の肩を抱くようにして小鈴が小さく飛び上がる。いきなり拉致されて仕事を押し付けられたと思ったら、断ったら死ぬというオプション付き。ブラック企業もびっくりである。
「選択肢が無かったので……。嫌だったんですけど、死にたくなかったからボクはダンジョンマスターになりました……」
ダンジョンマスターの仕事というのは至極簡単でダンジョンの経営をすることであった。最初にスロットの目押しのようなものをやらされ、一番大きな数字を出した者から順番に謎の声から大量のDPを渡される。DPは目押しの順位が良いほどに大量に貰え、順位が後になるほど減るのだそうだ。そのDPを消費して、自分の思い思いのダンジョンを作ることが義務付けられていた。
DPは万能のエネルギーのようなもので、それを消費することにより、ダンジョンの構造の変更、気候の調整、モンスターの配備や罠の配置など様々なことが出来るという。そうして作ったダンジョンを使い、ダンジョンマスター同士で争うのがダンジョンマスターという存在だ。
「んん? 争う? どういうことじゃ? ダンジョンは人類に対して作られた物ではないのか?」
大竹丸の中ではダンジョンは人類に害をなす害悪施設となっていたようだ。鳩が豆鉄砲を食らったように目をぱちくりと瞬かせる。
「そ、そう聞かれましても……。ボクも謎の声にダンジョンマスター同士で競い合って、勝ってダンジョンマスターのトップを目指して頑張れとしか言われてませんので……」
どうやらノワールにも詳細は分からないらしい。とりあえずダンジョンマスター同士は競い合っているということのようだ。
「うーん、良く分からないんだけど、ダンジョンマスター同士で争って何か良いことがあるの?」
「あ、それはですね。最後まで生き残ったダンジョンマスターには御褒美として、何でもひとつだけ願い事を叶えて貰える権利が与えられるそうなんです」
「何でも願い事を叶える? 胡散臭いのう」
大竹丸は顔をしかめながらノワールに続きを促す。
ノワールが語った続きはこうだ。
スロットの目押しで三位に入ったノワールは五百万ものDPを獲得していきなりS級ダンジョンとしてのスタートを切った。他にも目押し順位五位までには他のダンジョンとは桁の違うDPが支給され、それら五つのダンジョンはS級ダンジョンとして認定される事になったそうな。
更に六位から三十位がA級ダンジョンと認定され、三十一位から百位までがB級ダンジョン。C級、D級、E級のダンジョンは無数にあるので数までは覚えていないそうだが、ダンジョンマスターの人数は合計で千人は下らないだろうとノワールは語った。
そしていきなり膨大なDPを手に入れたノワールは三百万DPを消費し、SSS級モンスター『ベリアル』を召喚。後はギミックを考えるのが面倒だったのでダンジョンから侵入者を逃げられないようにして、ボスラッシュのようなダンジョンを作り上げたのだという。
「でも、ベリアルの能力説明を読んだ時は絶対こいつチートだろうって思ったんだけどなぁ……。一人で五十三万の軍勢を呼んで、本人も超強いし……何で負けちゃったんだろう?」
それに関しては相手が悪いとしか言いようがない。普通の侵入者は六千人に分身したり、悪魔の王と素手で殴り合えたりはしないからだ。
「ダンジョンというのがダンジョンマスター同士で競い合っている場じゃというのは分かった。じゃが、それなら何故世界中でダンジョンの入り口を開いたんじゃ? 人類を巻き込む理由はなんじゃ?」
「あ、それは簡単です。ダンジョンを強化するのにはDPが必要なんですけど、そのDPを増やす方法が人類を殺したり、人類をダンジョンの中に留め置いたりすることなんです」
ノワールがあまりにもさらりと告げるものだから、大竹丸は自分が聞き違えたかと首を傾げる。
「ん? 今の話を聞くと人類がダンジョンにとっての餌のようなものに聞こえたのじゃが?」
「そうですよ。餌です」
大竹丸が腕を組む。小鈴が心配そうな視線を大竹丸に向ける。大竹丸はそんな小鈴の視線を受けて、「うむ」と力強く頷く。
「やはり潰しとくかのう。ダンジョン」
「だよねー」
「ちょっ! ちょーっと待って! 待って! ボクは悪いダンジョンじゃないよ! だから待って! ダンジョンコアに手を掛けないで! ダンジョンコアを壊されたらボク死んじゃう! ボクこう見えて凄く役に立ちますから! だからどうか助けて下さい、お願いします! お願いします!」
必死の土下座が功を奏したのかどうかは分からないが、ノワールのS級ダンジョン『殺し間遊戯』は世界初のダンジョン攻略の対象からは何とか逃れた。その代わり、大竹丸監修のもと、その内部構造を大きく変えて別のダンジョンとして再開することになるのだが……それはもう少し先の話である。
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