第79話 西條の年齢

■ファミリーセブン 札幌駅前店倉庫     

~第6次派遣帰還~


6回目の派遣を終えたタケルはいつもの帰還報告を西條に行っていた。


「今回は皇都まで無事に行ったんだってね」


「ええ、リーブス司教のおかげで北方州都と東方州都にも行くことが出来ました。リーブスさんは全然気難しく無かったですけど、西條さんとは何かあったんですか?」


「いや、特に無いけど。タケル君が彼に気にいられたんだと思うよ、彼はまじめに取り組んでる人間は大事にするほうだからね。僕は少しいい加減なところがあるからね。そう言う人間は毛嫌いするタイプだと思う」


「そうなんですか・・・、そういえば枢機卿もリーブス司教も西條さんのことを『兄弟子』って言っていましたけど、あの人たちが後から入ってきたんですか?」


「あれ? そうか、まだ気づいてなかったんだね。僕はこの世界に来てから4年以上が経っている。もちろん、最初は向こうにちょくちょく戻っていたけど、ここ3年ぐらいはずっとこっちだからね・・・」


「そうか! こっちの3年でも向こうなら24年ということは・・・、サイオンさんは60歳を超えてる!?」


「60どころか、向こうの世界なら本当は70を超えてるんだよ。こっちの世界の浦島太郎っていう童話の世界だね。長くこっちに、あるいは長く向こうにいると、周りと年の差が、そして自分の意識と肉体の年齢差も広がっていってしまうんだよ」


(長く向こうにいてもか・・・)


「ところで、この間言っていた女性関係のほうは大丈夫だったの?」


「はぁ、私を含めて特に何も無いと思います」


(マリンダは冷たくなったような気がするけど)


「そう、だったら明日の火曜は初めての休暇でしょ。ゆっくり休んでよ」


確かにそうだ。

先週の水曜から派遣でドリーミアに行ってまだ6日しか経っていない。

でも向こうでは既に48日が経過・・・

やっぱり、頭の中がややこしくなるなぁ。


■北方大教会 

~第7次派遣1日目~


今回と次回はダイスケが休みなので、3人での派遣だ。

目標としてはシベル大森林のロッド職人ワグナーのところまでたどり着きたい。


朝一でパパスのところへ行って、炎の刀と炎の槍をゲットしてきた。

パパスは約束どおり、二つの新しい武器を用意してくれていた。


炎の槍しか試していないが、真面目に魔法槍を練習するのがバカらしくなる破壊力だった。

これなら、多少の氷獣なら問題ないだろう。


だが、出かける前に防寒の用意が必要だ。

転移の間へ飛んできた瞬間に体が震えた。

このままでは魔獣以前に凍死してしまう。


転移の間から暖かい執務室へ入ったタケル達を、アイオミー司教ともう一人の男が迎えてくれた。


「タケル様、ようこそお越しくださいました。こちらは、教会武術士のロブと申します。今回皆様をシベル大森林までご案内するものです」


「司教、ロブさん、おはようございます。こちらは勇者メンバーのナカジーとアキラです。よろしくお願いします」


ロブはブラックモアより背が低いが、引き締まった体格をしている。

腰には細身の両手剣を差していた。


タケルは出立前に防寒具が必要なことを二人に伝えると、ロブが毛皮等を置いてある倉庫へ連れて行ってくれた。


ワタの入った上下セットの服と毛皮のブーツ、毛皮の帽子、革手袋を調達して、今着ているものの上に着込んだ。

真冬の北海道ほどではないので、このぐらいで何とかなるだろう。


教会が用意してくれた荷馬車に荷物を積み込んで出発する。

夜は転移でスタートスに帰るつもりなので、食糧は昼食分だけにしてある。


夜の間、ロブをどうするかは本人と話しながら決めることにする。


(転移ポイントのノウハウを明かすべきかどうか・・・)


荷馬車は例のごとく、乗り心地が悪い。

ナカジーは荷台で敷き革を丸めて座っている。

寒いせいか、今日はおとなしかった。


「ロブさんは魔法剣を使われるのですか?」


御者台で並んで座り、話しかけてみる。


「ええ、私は風の魔法剣が得意です。炎魔法も使えるのですが、力が持続しないので氷獣には余り有効ではありません」


「その氷獣ですが、具体的にはどう言うものでしょうか?」


「最初は狼の体表が少し氷に覆われているものが増えてきたのですが、いまではほとんどの獣の体表が氷で覆われており、弓や剣ではまったく傷を与えられないくらい硬くなっております」


「森近くの村にも被害が出たのですか?」


「ええ、狼の群れに襲われて、村人が5人亡くなりました・・・。いまは、全員非難して、村には誰もおりませんので、今晩は村長の家を使わせてもらう予定です。」


(だったら、戻らずに泊まってもいいかな)


荷馬車は踏み固められただけの道を進んでいく。

周りはムーアや皇都周辺と違って、葉の無い木や荒地ばかりだ。

イングから聞いていた通り、北方州は耕作に適さない土地のようだ。


昼食の休憩時に、こっそりと転移して、追加の食料と野外調理セットをスタートスから持って来た。


パスタとベーコンを入れたスープで体を温める。

ロブも感動して食べてくれた、今までで一番美味しいと言ってくれる。

しょう油とコショウで味付けしただけだが、この世界なら美味だろう。


あたりには所々に雪が残っており、手袋をしないと手がしびれてくる寒さだ。

ナカジーが相変らず大人しい、寒さの力は偉大だ。


昼食後も代わり映えのしない景色が続くが、段々と残っている雪が増えてきた。

日が傾き、あたりが暗くなって来た頃にようやく村が見えてきた。


だが、喜んでいたタケル達は既に囲まれていた。

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