第47話 旅の始まり
■西方州都 ムーア 西方大教会 ~第4次派遣2日目~
日の出と同時にムーアの町へやってきた。
過去最大7名での転移魔法だったが、特に影響はないようだ。
ダイスケ達3人には先にレンブラントのところへ向かわせて、教会の2階にあるというギレンの部屋へ向かう。
ノックをして、部屋に入るとギレンが顔をあげる。
後ろの3人をみて眉を寄せたが、すぐに笑顔を作った。
「これは、勇者様。こんなに早くにどうされましたか?」
「いえ、今日から少し修行の旅に出るので、その前にギレンさんにお礼を行っておこうと思いまして。」
「お礼? ですか?」
「はい、今回は我々のためにお世話係を用意いただいて、大変感謝しています。昨日も一緒に夕食ととらせていただいたのですが、大変気立てが良い子たちですので、しばらくは私達の手元に置いておきたいと思いまして。」
「そうでしたか! お気に召したのなら喜ばしい限りです。ぜひ、お側においてください。」
ギレンは満足した笑みをうかべている。
「それで、『我々のお世話』の範囲なんですが・・・、どのようなお願いでも教会は問題ないとお考えですか?」
下心丸出しの顔を作ってみた。
「無論です、全ては勇者様のお心のままに。どのようなことでもご命令ください。お前たちはどんなご命令でも従うのだぞ、わかったな。」
3人には強い調子で念を押す。
マリア達は小さく頷いている。
「それと、もう1つお願いがありまして。我々は3日ほど留守にしますので、その間、彼女たちだけを町へ置いておくのが心配です。それで、明後日までは家に帰してもらっていいですか? 他の男に言い寄られると困るので・・・。」
「それは、構いません。責任を持って私が管理いたします。」
「ありがとうございます。明後日迎えに来ますので、その間よろしくお願いします。念のためですが、家にいる間も彼女達の給金はつけてあげてください。」
「万事承知いたしました。それで、勇者様はどちらへ?」
「行き先は決めていませんが、北へ向かう予定です」
■レンブラント商会
商会の前には2頭引きの馬車が止まっている。
荷台に幌がついているが、前後左右は上に巻き上げられていた。
レンブラントによって、荷物の積み込みは終わっていた。
「食料、水、調理道具、食器。敷き革。そういったものは一通り入れております。使い方がわからないものは、アランに聞いていただければ大丈夫です。子供の頃から荷馬車であちこち行かせておりますので。」
(足りないものはいつでも取りにいけるしね。)
レンブラントに礼を良い、3人は荷台、ナカジーは御者台にアランと並んで座った。
金髪ボーイが気に入ったようだ。
「レンブラントさん、ありがとうございました。行って来ます。」
旅立ちの挨拶と同時にアランが手綱で馬を歩かせた。
荷馬車のスピードはそんなに速くない。
街中と言うこともあるが、人の駆け足より遅いぐらいだろうか?
ただ、2時間ぐらいは同じスピードでずっと進めるので、人の半分ぐらいの所要時間で移動可能だ。
だが、乗り心地は極めてよくない。
「ねぇ、お尻が痛いんだけど。」 5分で苦情が入りました。
「これを下に敷いてみてよ。」
敷き革をロールに丸めて渡す。
丸めたロールは直径40cmぐらいになり、座るとちょうど良いクッションになる。
クレーム処理は終わった。
ムーアの町を出ると、一面は麦畑が遠くまで広がっている。
緩やかな丘が遠くに見えるが、しばらくは平らな土地が続いている。
街道に人影や馬車は見えない。
畑の中には人が何人か見えるが、かなり離れた場所だ。
「なんか、退屈なんだけど。」10分で2回目の苦情です。
「アランに色々教えてもらっといてよ、この世界の結婚事情とか。」
興味を持ってもらえたようで、アランに話しかけている。
荷台のダイスケとアキラさんも敷き革をロールにして座っていた。
背中にもレンブラントが用意した革を当てて、荷台に寄りかかっている。
それぞれが、快適なポジションを模索中だ。
「マリア達は大丈夫だったんスか?」
「うん、予定通り。ギレンは喜んでたから、当面は良いんじゃないかな。」
「問題は戻った後だね。特にやってもらうことも無いし。」
「風呂の方を手伝ってもらいましょうか?」
「オッ! さすがダイスケ! 良いねぇ、具体的には何してもらうの?」
「取り敢えずは、スティンの手伝いですけど、力仕事以外にも作業は色々あると思うんで。」
「よし、じゃあそうしよう。戻ったらスティンに相談してみて。」
「わかりました。それと風呂釜のほうですけど、鍛冶職人からスティンへ手紙が届いてました。2週間で釜を作って送るそうです。 スティンはビックリしてましたよ、仕事が速いって。」
(さすが、デキる男レンブラント)
(そして、ダイスケ君もホーレンソーが出来るようになった)
(あとは、町のみんなから集めたお金をどうするかだな・・・)
荷馬車は1時間ほど進んだが、ほとんど景色は変わらない。
少し麦畑が減ってきているが、新しく見える建物も無い。
「ねぇ、やっぱり退屈なんだけど。」 1時間で3回目の・・・。
「じゃあ、こっちに来て、アラン情報を教えてよ。」
「聞きたい?」
ナカジーは嬉しそうに荷台へ移ってきた。
丸めた毛皮ロールにまたがるように座ろうとしている
「このあたりって、全然景色変わんないからさ、前に座ってても見るところ無いんだよね。お尻の痛さもハンバないし。」
「でね、アランってまだ16歳なんだって。10歳ぐらいからレンブラントのところで下働きしてて、州都には全部行ったことがあるって言ってるわ。」
尻のポジションが安定して、一気にしゃべり出した。
「あの子たちにとって、旅と野宿はセットらしいのよね。宿は大きな町しかないし。運ぶのは1日でいけるような場所じゃないから、5日ぐらいの野宿はザラだって。」
(それなら、一人で置いて帰っても大丈夫か)
「でも、今からいくボルケーノの方には行った事が無いって。あっちには商売するような町は無いんだって。」
「で、ナカジーは一緒に野宿してあげることにしたの? アランと。 イケてるでしょ。」
「イヤヨ。野宿はどうしてもって時しかしない。アランは確かに可愛いけどね。でも、もうすぐ結婚するらしいわよ。相手は15歳だってさ。すごいよね。」
「何歳から結婚できるのか聞いた?」
「うん、洗礼が終わっていれば教会は祝福してくれるらしいわよ。でも、別に何歳でもいいみたい。法律っていうのが聞いてもはっきりしないのよね。」
「この国は教会の教えがすべてだから、15歳以上ならいつ結婚してもおかしくないのかもね。アランは経済力があるってことじゃないかな。」
荷馬車の前方を見ると、遠くに川が見えてきた。
大きな橋のたもとには船も見える。
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