第37話 教会魔法士と教会武術士
■ スタートス聖教会 宿舎食堂
ムーアから戻った後は日暮れまで、各自で修練した。
ダイスケは剣を。
アキラさんは蹴りを。
タケルは弓を。
ナカジーは魔法を・・・
修練せずにソーセージをつまみ食いして、16時に帰還した。
タケルは弓の練習を続けた。
日が暮れるまで、ショット&ダッシュを繰り返す。
50歩の距離から、10回に1回は当たるようになった。
成長していると自分を褒める。
夜の食事にはマリンダの他にイングとグレイスそしてスティンが参加してくれた。
スティンとダイスケは夕方に毎日のようにお風呂の打ち合わせをしている。
ノックスとブラックモアは書類仕事があるらしく、今日は来ないそうだ。
いつものように、イングとグレイスに乾杯のしきたりを伝授して、みんなでカップを持つ。
「それでは、新しい出会いと美味しいソーセージに! 乾杯!!」
タケルの音頭でイングもグレイスもちゃんとカップをぶつけてくれた。
ナカジーが現世の調味料を勧めている。
「師匠たち、これが日本を代表する調味料のしょう油です。あらゆる料理にあうので、是非お試しください。」
そういって、焼いた肉とソーセージに掛けている。
イングは恐る恐る口にしたが、口にあったのか酒とソーセージが高回転で進んでゆく。
「ナカジー様、これは良いですね。塩の味とはまた違う美味しさです。」
「でしょー、しょう油は無敵だからね。」
グレイスは表情を変えずに、ゆっくりと酒を飲んでいる。
「グレイスさんは、酒はお好きな方ですか?」
「ええ。」
「・・・」
(師匠も弟子も無口なようだ)
「アキラさん、グレイスさんに焼酎飲んでもらいましょうか?」
頷いたあきらさんが焼酎を部屋に取りに行っってくれた。
「日本を代表する庶民のお酒です。」
タケルはそういって、グレイスとイングに芋焼酎の水割りを勧めた。
グレイスは匂いをかいで、眉を寄せたが口にした後はニッコリ笑ってくれた。
「これは良いな。何ともいえない甘みと酒が交じり合う。」
無口なグレイスが、長台詞で褒めてくれた。
「そうでしょー、お湯割りもいけますからね。後半はお湯割りにしましょう。」
持ってきたアキラさんもグレイスの言葉を聞いて嬉しそうだ。
(この二人は飲みニュケーションが必要だね)
隣のテーブルでは、ダイスケとスティンがムーアの町の話をしている。
メンバー3人には聖教石を売った事は、当面黙っておくようにいってある。
お金は勇者を支援する町の人に寄進されたと口裏を合わせた。
ダイスケの隣にマリンダをセッティングしたのだが・・・
やっぱり元気が無いようだ。
ダイスケもスティンと話している場合じゃないだろうに。
後で話を聞いてみよう。
目の前のイングはソーセージとしょう油の組み合わせがかなり気に入ったようだ。
大皿からボイルされたソーセージを何本も取り皿に移している。
「イングさんは、西方の出身なんですか?」
「いえ、私はもともと北方の出身です。」
「北方はやはり、雪が積もったりするんですか?」
「はい、たくさん積もるわけではありませんが、4ヶ月ぐらいは雪に覆われます。」
「弓は子供の頃から使ってたんですか?」
「北方はこちらのように、作物が豊かではありません。食べるためには狩りは必ず必要になってきます。自然と子供の頃から弓や罠で獲物をとるようになりました。」
「今度、修練を兼ねて森へ狩りに連れて行ってもらえませんか?」
「お連れするのは構いませんが、今のタケル様では獲物に矢が全く当たりませんがよろしいですか?」
「いえ、よろしくないです。弓の修練を頑張ってからにします。」タケルは肩をすくめた。
「100歩の距離から10本中8本当たるようになれば、一緒に森へ行きましょう。」
(狩りへの道のりは遠い)
グレイスとも話をしたかったが、アキラさんと二人でボソボソ会話をしている。
この距離で聞こえないのが不思議だが、二人の間では焼酎を通じた友情が芽生えているようだ。
邪魔をしないようにしよう。
自分の酒を持って、ダイスケ達がいるテーブルへ移った。
「タケルさん、今度スティンと俺をムーアに連れてってもらえませんか?」
「いいよ、いつ行く?」
「早い方が良いです、風呂の釜がちゃんとできるかが心配で。」
「じゃぁ、明日行く? 今回は10時間コースだし、行かないと次はこっちで4日後だからね。」
「そんな簡単にいけるんですかい?」スティンが怪訝そうな顔をする
「アシーネ様がお願い聞いてくれれば、一瞬ですよ。」
マリンダを見て答えたが、笑顔は返ってこなかった。
お風呂プロジェクトは今のところ順調で、縄張りした空き地の整地が終わり、土地を少し掘って石を敷き詰めたところだ。
後は石で浴槽を作っていき、隙間を油漆喰で埋めていくのに2週間ぐらいかかる。
それから、風呂の釜と配管をセットして隙間を埋めるのに1~2週間。
さらに、お風呂が完成してから、洗い場と壁を木で作っていくのに後2~3週間。
完成にはまだ1ヵ月半ぐらいかかる予定だが、ダイスケとスティンは毎日楽しそうに話をしている。
まあ、1ヵ月半は現世なら5日ほどだ。来週末には完成する。
ダイスケにお風呂をお願いできたのは、予想以上にラッキーだった。
本人も楽しそうだし、町の人とも絆が出来た。
もちろん、俺たちも風呂に入れそうだし。
みんなの顔を見渡すと、酒の力でだいぶ盛り上がっている。
師匠も弟子もご機嫌だ。
マリンダを除いて。
スティンが先に帰り、ダイスケがお手洗いに立ったときに耳元でささやいた。
「少し話があるので、食事が終わったらシルバーのところに来てください。」
マリンダは小さく頷いた。
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