第28話 ダンジョン挑戦 後編
■始まりの祠
ダイスケに呼ばれて、前方へ行くと通路が右に直角に曲がっている。
顔だけ出して先を除いてみると、右側は大きなホールのような空間だ。
聖教石の数も増えて、少し明るくなっている。
ホールの真ん中に巨大な芋虫がいた。
一言で言うと「細長いカブトムシの幼虫」にしか見えない。
だが、サイズがでかい。長さは10メートル以上あるだろう。
あまり動かないが、柔らかそうな胴体がうねうね脈打っている。
「俺行っても良いですか?」
「良いけど、俺の勘だと、あいつは何かを吐くと思うよ。」
「吐く?」
「うん、毒か糸か。そうじゃないと弱すぎるじゃない。」
(タケルのゲーム経験が訴えかけていた)
「試してみよう。ダイスケも石持って、投げたらすぐにここまで戻ろう。アキラさんとナカジーは相手の動きを良く見といて。」
石を右手に持って、ダイスケとホールに入った。
相手が横を向いていたので、二人で同時に石を胴体に投げて、すぐに曲がり角まで撤収する。
両方の石が当たった途端、芋虫は頭を持ち上げて、タケル達の方向へ黄緑色の線を飛ばした。
「フシュゥー!!」
かなりのスピードで15メートル程飛んだ。狙いの方はアバウトのようだ。
糸のように見えるが、落ちたところから煙が立ち上がって異臭がする。
「やっぱりね、あれは毒と糸の両方だね。酸みたいな感じで溶けるんだと思う。」
「やばいじゃないですか!」
(丸焼きに出来ないこともないが、さすがに魔法の使いすぎで疲れそうだし・・・)
「ダイスケ、魔法剣やってみようか?」
「俺、まだやったこと無いですよ。」
「うん、俺との共同作業で挑戦しよう。」
「アキラさんは、おとりになってもらえますか。近づかなくて良いから、ひたすらかわして相手の反対側まで走って欲しいです。」
「ナカジーは、だれかが怪我したら治療をヨロシク。それと、隙があったらホールの外から炎を飛ばして相手の注意引いて。でも、ここから前には出ないように。」
タケルの指示に二人ともしっかりうなずいた。
タケルはダイスケに詳しい作戦とタイミングを伝えて、火の神グレン様に祈りを捧げる。
(グレン様 勇者ダイスケの剣に炎の力をお貸しください)
(「ファイアーソード」と叫びます)
(剣の先1メートルに炎の力を加えた刃を20数える間お与えください。)
頭の中で炎の剣のイメージを描いて祈りを終えた。
「アキラさん お願いします!」
アキラさんがホールへ走りこむ、気付いた芋虫が毒糸を飛ばしてくる。
まだ距離があるので、アキラさんはステップを使って軽々とかわす。
芋虫はアキラさんを追って、頭を横に動かした。
芋虫が横ぐらいに回ったタイミングで、タケルとダイスケもホールに入った。
ダイスケは剣を右上段に構えている。
タケルはダイスケの剣を見つめて叫ぶ!!
「ファイアーソード!」
「ボォッ!!」
タケルの描いた炎が、ダイスケの剣から長く伸びた!
「ハァーァァァァ!!」
ダイスケは走りこみ、胴体の真ん中辺りを斜め上から切り込む。
「ギョエーイ!!」
耳障りな音を発する相手に、ダイスケは回転しながら連続で横殴りに切っていく。
炎の剣が立て続けに襲いかかり、切られた傷から体液を流す芋虫は、のたうち回りながら見境無く毒糸を吐き出す。
毒糸を止めるために、タケルは近づいて頭部に炎を放った。
「ファイア!」
口の辺りが燃え出して、毒糸は止まった。
まだ、のた打ち回っている芋虫にダイスケが上段から剣を叩き込む。
炎の剣が頭の付け根に深く入り、胴体に痙攣(けいれん)が走った。
しばらくすると痙攣もとまり、完全に動かなくなった。
オオイモムシをやっつけた。
炎が収まった剣を持つダイスケに歩み寄る。
「どうよ、魔法剣は?」
「やばいっすよ。相手が柔いのもありますけど、マーガリンぐらいの抵抗しかないのに、バッサリ切れてます。」
「横から見ても、格好良かったよ。」
「アキラさん、怪我は無いですか?」
戻ってきたアキラさんは、ニッコリと頷く。
「ナカジーは?」
「私は何にもしてないから、大丈夫。」 ご不満のようです。
「やっぱり、でかい相手に剣は有効だね。特に連続切りは良いんじゃないかな?」
「はい、もっと練習します。」
(ダイスケも自信を取り戻せて良かった)
ホールを抜けると聖教石が段々増えていき、最初に来た聖教石の部屋に着いた。
タケルがピッケルでリュックに入るサイズの聖教石を削り出して、みんなのリュックがいっぱいになるまで入れた。
聖教石は様々な大きさの石が結合して壁や柱になっている。結合部分に沿ってピッケルを打ち込むと綺麗に割れたので、細く加工するのは簡単そうだ。
パンと干し肉で簡単な昼食を終えて、外へ戻ることにする。
時間は11時を回ったところだった。
行きと同じなら14時前後には外に出れそうだ。
帰りは追い払う程度で戦って、早めに外に出たいと3人に伝えた。
先頭をタケルに代わって、外を目指す。
足元はアキラさんに見てもらい、天井を見ながらどんどん進む。
スライムは炎を連発して、止めを刺さずに避けて通り抜けた。
蝙蝠は風で叩き落して、通り道にいるやつだけに止めを刺す。
タケルはほとんど足を止めずに進み続ける。
ダイスケには、前より後を注意するように伝えてある。
何度かゴブリンの影をダイスケが見かけたが、気付いたことがわかると襲わずに戻っていくらしい。襲うことに関してはかなり知恵が働くようだ。
30回程度戦っただろうか?
戻りは2時間弱で外に出た。まぶしい日差しが心地よい。
「みんなお疲れ様。岩場で少し休憩してから街道に戻ろうか。荷馬車の迎えもちょうどその頃にはついてるはず。」
休憩の後は小道をアキラさん先頭で進んでいく。
飛んでくるウサギねずみはちょうど殴りやすい高さなので、いい練習になりそうだ。
タケルの後を歩くダイスケが近寄ってきた。
「タケルさんは、魔法剣とか連続魔法とか、どうやって思いつくんですか?」
「魔法剣はブラックモアが見せてくれたのを応用しただけだよ。俺の魔法とダイスケの剣で分業しても出来ると思ったから。」
「連続魔法は連続って言うより、すぐ消える火ならダメージが与えられないから、その場所で燃え続けるようにしてみた。その結果、すぐに次が放てるようになった。って感じ。」
「教えてもらってないのに、いろいろ出来るのはスゴイですよ。」
「前に言ったと思うけど、俺は魔法や剣技を覚えることが目的だとは思ってないから。ダイスケも、どんなやり方でも良いから、「やっつける」方法をいつも意識してると、色々思いつくと思うよ。」
(大事なのはみんなの創意工夫ですよ)
小道を歩く間、何度もウサギねずみが飛んできたが、ほとんどアキラさんがパンチで叩き落してくれた。
街道に戻ると既にディオと荷馬車が待っていた。
ダイスケの時計は14時過ぎで、ナカジーの現世戻りまでには町に着けそうだ。
荷馬車に揺られて町に戻ったタケルをノックス司祭と見たことの無い男が待ち構えていた。
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