第26話 ダンジョン挑戦 前編

■スタートス 聖教会 宿舎食堂


日が暮れて練習を終えたタケル達は食堂で夕食にありつく。

今日は鹿肉をあぶったものと野菜シチューがメインだ。

アキラさんの焼酎も登場している。


ナカジーもタケル同様に調味料を持ってきていた。

それ以外もリアン向けにお土産があるらしい。


「タケルは今日も無茶苦茶だったんだって? それとあの大きいの何? 大丈夫なの?」

前回は先に帰り、今回は遅れて来たナカジーは情報に飢えている。


「昨日は魔法槍を実現してみた。あのでかいのは「シルバー」君。超お利口だから全然大丈夫。仲良くしてやってちょーだい。」

「魔法槍ってどうやったの?」

「いつもどおり、グレン様だのみですよ。」


「ふーん。私も魔法剣やってみようかな?」

「それも良いけど、癒し系の魔法を先にやらない? ナカジーには魔法を中心にやって欲しいんだよね。」

「良いよ! それもやってみたかった!!」

「まぁ、マリンダさんの癒しとはちょっと違うけどね・・・」


ナカジーからグーパンチの意思表示があった。


「ダイスケの剣修行はどんな感じ?」

「タケルさんと来る前にも少しやってたんで、だいぶスムーズに振れるようになって来ました。8倍効果がかなり効いてると思います。」


「アキラさんはどうですか?」

「僕も動きが早くなったと思う。」 (お酒があれば、返事もスムーズね)


「ところでアキラさんって、ボクシングとかやってました?」

「学生のときにアマチュアで。」恥ずかしそうにうつむく。

「やっぱりね、今日の組み手を見て、構えと足運びがボクサーみたいだったから。」

(だから、「ぶん殴りたい」かな?)


「では、皆さんのレベルも確実に上がってきているので、実戦も組み合わせていこうと思います。具体的には明後日、最初の祠(ほこら)に行きます。」


「それは、構わないスけど、あんな弱いやつら相手で練習になりますか?」


「いやぁ、それがそうじゃないらしい。ダイスケたちが『前回と洞窟が変わってる』って言ってたじゃない。ノックス司祭に祠探検の許可をもらいにいった時にその話をしたら、『あの洞窟は神の与える恩恵であり試練』だそうな。」


「到着した勇者のレベルに合わせて、魔物の数や洞窟の複雑さが違うらしいのよね。俺たちはダイスケが木刀、俺がナイフ持ってたから、それに見合った洞窟になったみたい。」


「本当に洞窟が変わるんですかね?」

ダイスケは完全には信じていないようだ。


「うーん、証明はできないね。魔法の世界だから、信じるしかないかな。そもそも、あの洞窟自体が何年か前に突然発見された場所らしい。」

「中から大量の聖教石が見つかって、西條さんが勇者召喚のポイントにしたんだって。その後は町の人たちは行っても入れない、俺たち専用の不思議洞窟になってる。とのことです。」


「それと、あそこの聖教石をちょっと削って持って帰りたいんだよね。」

「そんなことして大丈夫? 何でそんなことするの?」ナカジーが眉をひそめた。

「ノックス司祭にはOKもらった。勇者のための洞窟だから問題ないってさ。」

「取ってくる理由は・・・まだ内緒。だけど、全員とこの町にも役立つはず。」


明日からの課題を3人に意識してもらい、夕食は20時過ぎに切り上げた。


タケルは部屋へ戻って、神への祈りと弓を使った筋トレをして、早めに就寝する。

翌朝も日の出前に起床して、神への対話と筋トレを行う。

神の恩恵と8倍効果を実感しつつあり、朝・晩のルーティンも楽しくなって来た。

(みんなにも勧めよう)


■スタートス 聖教会裏 空き地


朝食後にブラックモアとマリンダに修練の方向性を伝え、ダイスケとアキラさんは武術中心、ナカジーには癒しの魔法習得に力を入れてもらうことにした。


「タケル様はどうされるのですか?」

「私は、弓の師匠が来るまでは、新しい魔法について考えたいと思っています。」

マリンダに泉へ向かうと説明して空き地を離れた。


せっかくなので、シルバーを連れて行く。

嬉しそうに尻尾を振って、タケルの横を歩いている。


マリンダには泉と言ったが、その先の丘の上まで登った。

丘の上からは小さなスタートスの全貌が見える。


心地よい風が吹き抜けている。

両手を広げて、全身に風を感じながら、風の神ウィン様へ祈りを捧げる。

(ウィン様、魔竜討伐のためにお力を貸してください)

(「ウィンド」と唱えますので、手が指し示す方向に風の力をお与えください)


丘の上に木に向かって、右足を引いて構える。

目をつぶり、太い枝が折れる強さの風を頭で描く。


右手を枝に向けて唱えた。

「ウィンド」


耳元で「ブンッ」と言う音がした後に、枝の木の葉が飛び散る。

太い枝は大きくしなり、「バシッ」という音ともに折れた。


右手を下ろすと風が止まった。

(ウィン様 ありがとうございます。)


シルバーと一緒にご機嫌で戻ってきた空き地では、3人がそれぞれ練習をしている。

すぐに、ブラックモアが新しい師匠を二人連れてきてくれた。


二人とも小柄で、165cmぐらいだ。

長いあごひげの師匠が弓の武術士イング。

ひげが無い黒髪の師匠が体術の武術士グレイス。


イングは柔らかい笑顔を向けてきたが、グレイスは強面(こわもて)でニコリともしない。

(アキラさん大丈夫だろうか?) 


イングは弓で素引きをさせた後に、立ち位置と姿勢を指導した。

「目標と両足の位置を常に意識して構えてください。背筋は柱が入ったように真っ直ぐにして、弦をゆっくりと引く。」

「まずは、素引きで300回お願いします。」

(笑顔だけど、鬼コーチだった。)


結局、その日の弓練習は姿勢のチェックと素引きを繰り返して終わった。

腕と胸の筋肉が悲鳴を上げている。


■スタートス 聖教会宿舎 食堂


今日は4人とも疲れたようだ。夕食の会話が皆おとなしい。

酒もいつもほどは進まない。


「ナカジーは治療の魔法はどうだったの?」

「何とか出来たけど、針でさした傷を治す程度だから、手応えがあんまり無い。その割りに100回以上やったからかな? 体がだるいのよね。」

「出来たならいいじゃない。実際に試す機会を作るつもりも無いけど、明日ヨロシク。」


「アキラさんはどうでした?」

「疲れたけど、楽しかった。しばらくはパンチ中心で良いって。」

いつもより多くしゃべって、笑顔だ。本当に楽しかったんだろう。


「俺は弓引くだけの1日で、上半身が限界超えた。明日の筋肉痛が怖い。 ダイスケはどうよ。」

「俺は順調だと思います、明日の実戦が楽しみですから。」

一番若いからか、まだ元気だ。


「明日は、日の出とともに洞窟へ出発するから。今日は早めに切り上げよう。」

あまり盛り上がらなかったので、20時前には部屋へ戻った。


タケルは部屋でブラックモアに用意してもらった荷物をチェックする。

ピッケル、ランプ、水筒。

ミレーヌさんのパンと干し肉。

持ってきたタオルも一緒に、この世界の布製リュックに収納した。


(明日は、本格的な実戦だ。大きなケガがありませんように。)


神に祈りを捧げて、ベッドへ入る。

洞窟での戦いをシミュレーションしながら眠りに着いた。

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