第8話 最初の町 スタートス 中編
■スタートス聖教会 宿舎
~第一次派遣 1日目~
「勇者様、起きとくれ! 食事もできてるよ!」
すっかり寝込んでいたようだ、部屋を出るミレーヌさんを追いかけて食堂へ向かう。
3人は既にテーブルについていて、テーブルの上に食事も並んでいる。
驚いたことに他のテーブルも結構埋まっていて、食堂は賑やかだったが、武が入ると静かになり、こちらを伺うように見ている。
「ごめん、待たせた? うっかり寝込んじゃって」
「私もミレーヌさんにさっき起こされたから、一緒よ」
「じゃぁ、食べようか?」
(本来なら、乾杯かな。でも、日本じゃないし・・・)
「ここ、お酒も出してくれるわよ」
武の心を読んだように、中島さんが教えてくれる。
「みんなは、お酒飲めるの?」
3人とも頷いた、特に高田さんが一番大きく頷いた。
「ミレーヌさん。お酒ってお願いできますか?」
厨房に声を掛ける同時に金属製の大きなカップを4つ持ったミレーヌさんが現れた。
「もう用意してるわよ。じゃんじゃん飲んでね!」
「じゃあ、お疲れさま。無事に到着したことを祝して乾杯!!」
「乾杯!!」
4人でカップをぶつける。
一口飲んでみると常温で炭酸の抜けたビールのようだ。
苦味は薄いが以外と口に合う。
3人とも美味しそうに飲んでいる。
特に高田さんは一気に半分ぐらい飲んだ。
食事は丸いパンと肉や野菜が入ったスープ。
アスパラガスのようなものが焼いて出されている。
パンをちぎって食べるが、食パンのような柔らかさは無い。
スープにつけて食べるとちょうど良い感じになった。
スープは芋などの野菜と肉がたっぷり入っている。
美味いが、かなり薄味だった。
肉も少しスジがあるが噛んでるうちに旨みが出てくる。
みんな空腹だったのだろう、しばらくは無言で食事を堪能した。
「明日って、どんなスケジュールかわかる?」
「朝から説明会で、それが終わったら、魔法の説明と武術かの魔法の稽古だと思う」
中島さんがパンをちぎりながら答える。
「小澤さん、説明会ってどんな感じだった?」
「この世界の話とか魔法の話とか、勇者へのお願いとかそんな感じでした。」
酒で顔が少し赤い。
「ところで、みんなはこの派遣の仕事って、どんな風に思ってエントリーしたの?」
「私は、イタズラか、何かのオーディションみたいなものかと思って。それと、最終的に時給が良いなら何でも良いかなと思ったの」
パンと酒を交互に口に運ぶ中島さんが応じる。
「俺も話は信じてなかったけど、最終的にどんな言い訳するのか聞いて文句言ってやろうと思って、それで契約書にサインしてみた」
「なるほどね、俺も似た感じだよ。最終的にどう言うオチや言い訳するのかには興味があったからね。高田さんはどうだった?」
「行ってみたかったから」
にっこり笑って返事をしてくれた。
「最初から信じてたってことですか?」
「『信じた』っていうよりは、『行けたら良いな。』って思ったんだよね」
そう言ってカップの酒を飲み干す。
振り返ってミレーヌさんに目でお替りをお願いしたようだ。
(酒のコミュニケーションはできるじゃん!!)
他の二人も高田さんを見る目が少し温かくなったような感じがした。
「じゃぁ、高田さんはこの世界でやりたいことはありますか?」
「魔竜の討伐をするんでしょ?」
「最終的な目標はそうですけど、例えば魔法を使いたいとか、剣士になりたいとかそういう希望は無いですか?」
「特に無いけど、できるだけこの世界で役に立てると良いな」
(謙虚でさらに良いじゃん!)
「小澤さんは、何か希望はあるの?」
「俺は高校まで剣道やってたんで、剣を使って暴れるってのが理想です。だけど、結局リーダーの指示に従う契約になってるから、言われたらなんでもやりますよ」
「契約って、どんな縛りになってるの? 俺の契約にはそういうの無かったんだけど?」
「知らないんスか? 俺たちはリーダーが決めた役割しか出来ないし、この世界ではリーダーに従って行動するっていう契約ですよ」
小澤君はそのあたりが不満のようだ。
「そこがバイトリーダーと違うのよね。リーダーは色々決めることが出来るようになってるもんね。その代わり、私たちはこの世界で死んでも何度でもこの世界に来ることが出来るらしいわ。まぁ、リーダーの道具って感じかしらね」
中島さんがサポートしてくれた。随分と顔が赤くなっている。
「悪かったね、リーダーなのに詳しく知らなくて。でも、リーダーが決めたことなら良いんだよね? それだったら、できるだけみんなの希望に沿って俺が決めれば良いってことだから、その方向でやっていくけど、問題ないよね?」
武は3人を見回した。
「中島さんは、何か希望はあるの?」
「私はいろんな魔法を使ってみたいわ。それと、痛いのはイヤ。死んでも甦るって言われても、痛みは感じるらしいから」
「OK その方向で行こうか、武器なんかは最低限だけを身に付けるようにしよう」
「高田さんは、何でも選べるとしたらどうしたいですか?」
「・・・、思いっきりぶん殴りたい。」
下を向いたままの高田さんからビックリする答えが返って来た。
「OK、じゃぁその方向で。って、具体的にどうしたら良いかわからないけど、何か格闘技系の訓練をするって事で良いですか?」
周りの二人も驚いて高田さんを見ているが、高田さんはニコッと笑って頷いた。
(ぶん殴りたいか・・・)
高田さんのことを考えていると、武が小澤から聞かれた。
「山田さんはどうしたいんスか?」
「俺は、やっぱり魔法をガンガン使ってみたいね。それとパーティーの構成で剣士と武道家がいるなら、魔法プラス弓とかを覚えたほうが良いかもね。全体のバランスが良くなるような能力を身に付けたいと思う」
RPG的に考えて答えた。
「ところで、みんなの呼び方なんだけど、山田さんってのは固いんで、俺のことはタケルかタケルさんって呼んでもらえるかな。で、小澤さんはダイスケかダイスケ君。高田さんはアキラさんでお願いしたいんだけど、どうかな?」
小澤さんと高田さんを見ると軽く頷いている。
「で、私は?」
中島さんが期待した目で、こっちを見ている。
「姫・・・ってのも一応考えたんですけど、却って失礼でしょうから『ナカジー』でお願いします。」
「何で失礼なのよ!! 『かえって』の方が失礼じゃないの!!」と中島さんはタケルの二の腕を軽く叩く。
「じゃぁ、本当に『姫』とお呼びしますか??」
「『ナカジー』で良いわよ! ちょっと恥ずかしいし。」
意外と盛り上がったし、メンバーの距離も近づいたところでそろそろお開きにしようと思い、タケルは残った酒を飲み干した。
空のカップをテーブルに置くと、変な気配を感じた。
隣のテーブルに座っていた大きな男がテーブルの横で、タケルたちを見下ろしている。
他のテーブルは今までの会話を止めて、立っている男とタケル達を見つめている。
食堂全体に沈黙が降りた。
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