第24話 伝説の剣とその呪い

 前回までのあらすじっ!!

 それは、いよいよ本格的な戦闘が始まる!! っと思った矢先の出来事だった。いきなり葵ちゃんが吐血して何者かの手によって殺されてしまい、その途端葵ちゃんの体が眩いばかりの光に包まれ、そこには青色の棺が残されるだけだった……



「おい……こんなの嘘だろ? あんまりだよこんなの……なぁ天音! 静音さんっ!!」

 

 受け入れられない現実のショックでオレはその場に倒れこみ、葵ちゃんが入ってるであろう棺にもたれるように倒れこんで泣きじゃくってしまう。


「……くっ」

「……アナタ様」


 天音も泣きたいだろう気持ちを顔を横に背け、伏目ることで抑えてはいたが頬からはつぅー……っと涙が流れていた。静音さんもオレと天音に何と声をかけていいのか迷っていた。

 そんな最中、オレは何を思ったか奇怪な行動をとってしまう。


「…………っ!? そうだ、そうだよ!! 葵ちゃんはさ、この中にいる・・んだよな? なら……きっとそうだっ!!」


 このとき何を思ったか、オレは葵ちゃんが入ってるであろう棺をこじ開けようとしていたのだ。


「き、キミ! 何をしているんだ!? や、やめるんだ!」

「あ、アナタ様!! おやめ下さい!!」


 現実を受け止めきれず、虚ろな目をしたオレは棺を無理に開けようとする。そんなオレを天音と静音さんが後ろから羽交い絞めにしながら、必死に止めようとしていた。


「オレを止めるなぁぁぁっ! 天音……静音さん……この中に! この中に葵ちゃんがいるんだぁぁっ!!」

「馬鹿な真似はよせっ! そんなことをしても葵は生き返らないんだぞ!!」

「天音お嬢様の言うとおりです! 葵お嬢様は亡くなったんですよ!!」


 オレは身動きを封じている天音と静音さんを振り払うように必死に暴れる。だが、天音にがっちりと後ろから羽交い絞めにされているせいか、まったく振り解ける気配はなかった。


「離せ! 天音離せったら!! オレは! オレは葵ちゃんを助けるんだ!!」

「もういい! もういいから…………だから。キミも……。そんなことをするのは……もうやめてくれ…………これ以上葵に苦痛を味遭わせないでくれ……たのむ」


 その瞬間オレの頬に冷たいモノが流れてくる。それは後ろにいる天音から伝わる涙だと気づいた。


「……、……、……天音」


 その冷たさで少し冷静さを取り戻す。もう天音たちを振りほどこうと暴れたりはしていない。そして力なく羽交い絞めにされたまま、ずるずると倒れこむように地面に座り込んでしまう。天音と静音さんもそれを見て、オレがもう暴れないと判断し拘束を静かに解いた。


 オレは未だ葵ちゃんが死んだ現実を受け入れられず、ぶつぶつと何かを呟きながら虚ろな目で棺の横の一点を見つめているだけだった。そんなオレを見かねて、静音さんがオレの目の前に来た。


 パンッ! いきなり右の頬に衝撃が走り、何事かと確認するように右手を当てしまう。少ししてじんわりと痛みが広がり、ようやく頬を叩かれたと気付くことができた。


「しず……ね……さん?」


 いきなりの痛さと驚きから顔を上げると、虚ろだったオレの目にはとても静かに怒った静音さんの顔が映っていた。


「どうです痛いですかアナタ様っ!」


 パンッ!! 再び乾いた大きな音が鳴り響くと、今度は逆方向に顔を背けられてしまった。どうやら左頬を叩かれたようだ。


「……静音さん」


 オレは叩かれた左頬を擦りながら、静音さんを見上げていた。もう虚ろな目ではなく、しっかりと静音さんのその姿を瞳に捉え認識できた。


「アナタだけがツライと思ってるんですか! ワタシも……いいえっ! 何より姉である天音お嬢様が1番ツライんですよ!! アナタはそのことを考えたことはあるのですかっ!!」


 普段クールな静音さんとは思えないくらい、声を荒げオレを怒鳴った。その表情は怒っているのにも関らず…………目からは涙がどんどん溢れ出していたのだ。

 静音さんも溢れ出す涙を必死にこらえようと自分のメイド服で拭うのだが、それに反するかのように涙は更に多く流れ落ち、その心の内とは対照に地面の渇きを癒やしていた。


「……静音。オマエももういい。もういいからな。私だけでなく、お前だってツライのだろう?」


 天音は静音をそう諭すように優しく語り掛けていた。


「大丈夫。大丈夫だからな。だから今は……今だけは私の胸で泣いていいからな、静音」


 一番ツライはずの天音が静音を胸で抱きしめ、優しく髪を撫でて慰める。


「……っ!? あ、天音お嬢様! ワタシも泣いてもよろしいのですか? ぐすっ……ぐすっ…………うぇぇぇぇん!!」


 静音さんは泣きじゃくる子供のように、天音の胸でただただ泣くだけだった。初めて静音さんが感情をむき出しにした姿を見てしまった。


 だが、そんな雰囲気をぶち壊すように乱暴な言葉が発せられてしまう。


「ふぅ~っ。そろそろその茶番・・さ、終わっただか? ふぅ~っ」


 切り株に腰掛けながら、タバコの煙をオレ達に向け吐き出し敵役であるアルフレッド・マークス3世の心無い辛辣しんらつな一言が、オレ達へと投げつけられたのだった。


「けたけたけた」


 野生のクマBもアルフレッドの隣の切り株に座り、「えっ何コイツら泣いてんのさ? 超ウケるんですけど(笑)」などとオレ達が泣いているのを馬鹿にするように見ながら、ハチミツだらけの歯をむき出しにして「けたけた……」と嫌味たらしく嘲笑っている。

 そして「とりあえずハチミツでも食べるかい?」っとオレ達にハチミツを差し出すが、「パクッ」っと差し出したハチミツを自ら食べてしまう。どうやらオレ達は完全におちょくられてるようだ。


 オレは怒りから座り込んでいた地面から立ち上がり、殺さんばかりにアイツらを睨みつける。そこには既に悲しみの涙など無い。あるのはアイツらに対するただの怒りだけである。


「天音! 静音さん!!」

「もちろんだっ!!」

「ええ!」


 二人ともオレの怒りの声に呼応すると、オレは葵ちゃんをそっと地面に寝かせ敵と対峙する。


「ここは……私に任せくれないか?」


 そう天音がオレと静音さんに声をかける。一歩前に出た天音のその声は静かだったが、後ろから見てもその姿・声には確かな怒りがめられ、また体全体を包み込むようなオーラが出ていた。

 さすがは我らが勇者様だぜ。周りから出ているオーラによって、圧倒的な存在感とプレッシャーが味方であるオレにも痛いくらいに伝わってきていたのだ。


「ああ、いいぜ!」

「……お任せいたします」


 もちろんオレも静音さんもその意味・・・・を痛いほど理解しているので承諾する。この中で誰が一番それにふさわしいのか、それは姉である天音を措いていなかった。

 だがそう言った天音は、何故だか自分の武器であるはずの両手に持っていた札束を地面に投げ捨てたのだ。


「あ、天音?」


 オレはいきなり武器を放棄した事で不安に駆られ、思わず声をかけてしまう。


「……天音お嬢様! ま、まさかそれ・・を使うつもりではないですよね!?」


 静音さんが指すそれとは一体何のことなのだろう?


「……ああ、静音。その意味はもちろん分かってはいるさ。だが今ならばこれを使えそうな気がするんだ。だから静音よ、ここは私に任せてはくれないだろうか……」


 天音は左腰にぶら下げていた『伝説の剣』を見つめ、今まさにその手にかけようとしていた。


「い、いけません! 天音お嬢様それだけは絶対にダメです! それを…それを抜いたら……抜いてしまったら……。どんな悪いことが起きるのか、この世界の管理人であるこのワタシ・・・・・にすらわかりませんのに!! 危険です!! 危険すぎます!? 天音お嬢様っ!!」


 静音さんが力の限りそう叫んだ。最後は泣き叫ぶようにしていた。

 な、なんなんだ一体!? 天音がぶら下げている『伝説の剣』とやらはそんなに危険なモノ・・なのか!?


「確かに今の我々のレベルでは到底歯が立たないだろ。だったら葵の仇を討つにはコレにかけてみるしかない。ただそれだけだ……」

「で、ですが!! 天音お嬢様の身に何かあったらどうなさるおつもりなんですか!! 葵お嬢様だってそんなの望んでいませんよ!!」

「な、なんだって!? あの剣を使うと天音自身に危険な何かがあるのか!?」


 オレは必死に天音を止めようとする。


「天音っ!! いくら葵ちゃんの仇だからって、お前にまで何かあったら……」

「キミは心配性なんだな。……仮にも私は勇者様・・・なんだぞ。少しは私を……いや『勇者天音』を信用してくれ……」


 そう言って「私なら大丈夫だから……」と逆に説き伏せられてしまう。不思議とその言葉には力強さと安心させてくれる何かがあった。


「ふぅ~……さて、と仕事するべか」


 アルフレッド・マークス3世は切り株から重い腰を上げ、タバコの火を消し懐にしまう。


「(しゃっしゃっ)」


 野生のクマBも殺気やるきは万全のようで爪を立てながら、手の素振りをしている。


 ついに天音と因縁の敵とが相対峙する時がきた!!


『なんと『勇者天音』の目の前に、いきなり『アルフレッド・マークス3世』と『野生のクマB』が現われました。コマンドを入力して下さい!』


 そんな無機質な機械音だけが聞こえてきた。だが、ここは天音のみに任せているのでオレの元に選択肢は表示されなかった。もはや一瞬たりとも目が離せない!!

 危険だから……と言われ、少し離れた所にいるオレの隣に不安そうな表情の静音さんがやってきた。どうやらオレの隣で天音達の戦闘を見守るようだ。


「静音さん……どっちが勝つと思う?」

9分くぶ9厘くり……相手側…………でしょうね」


 PRGの世界ではレベルの差がモノ・・をいう。なんせレベルが1つ違うだけで、戦況がガラリと変わってしまうのだ。

 しかも天音は未だレベル1どころかその表示すらされていないのに対して、アルフレッドはレベル98と、もはやカウント・ストップカンスト状態なのだ。またクマBのレベルは判らないが、天音よりも強いのは確かだろう。


 オレは自分が戦うわけでもないのに、も言えぬプレッシャーに押しつぶされそうになる。


「……静音さん。…………残りの1厘・・の根拠は?」

「……あの『剣』です。あの『伝説の剣』を天音お嬢様が上手く使えれば、もしくは……と思ってます」


 要はあの伝説の剣を天音が使えるかどうかに全ての勝機がかかってるわけだ。だがそこで、ふと1つの疑問が湧いてきた。オレは静音さんにその疑問を尋ねてみる。


「静音さん、1つだけ聞きたいことがあるんだけど………」

「あの伝説の剣について…………ですね?」


 さすがはこの世界の管理人である静音さんだ。…………まぁ、それしかないしね。


「あれは元々前回の勇者様の持ち物でして……。ちなみに魔王もあの剣・・・でしか倒すことができません。何故ならあの剣はこのRPGの世界のモノではなくこの世界の外の概念、つまり外史・・によって生み出された言わばチート的立ち位置ポジション最強の破壊力を持った『伝説の剣』なのです。その破壊力は扱う者が例えレベル1でも、当てさえすれば一撃・・・・・・・・・で魔王を倒せてしまうほどなのです」


「そ、そんなに凄い剣だったのか……」


 それがあれば例えレベルが低すぎても魔王でさえ、一撃で倒せるってことなのか……。んっ? でも待てよ、なら何故……。


「だ、だったら、何であのとき静音さんは天音の事を止めようとしたんだよ!? あれがあれば魔王でも一撃で倒せるんだろ? ……もしかして1回使うと壊れるとか???」


 RPGのチート的武器には、プレイヤーが強くなりすぎないように強力な武器には必ず『制限』があるのだ。例えば『使えるとき』や『扱えるキャラ』……そして『使用回数』が一般的である。


「……いえ、『あれ』は何度でも使えますよ。そもそもこの世界の概念の外の存在・・・・・・・ですので、その使用回数は無制限です」


 だったら何が・・問題なんだ???


「あれは……」

「……あ、あれは?」


 オレはごくりっと痛いほどのツバを飲み込んで、静音さんの次の言葉を待った。


「あれは……あの剣には呪い・・がかけられた、言わば『呪われた武器』なのです。抜いてしまったら最後……敵を一撃で倒すか、それとも逆に扱う者・・・が不幸な死を遂げるか……そのどちらかなのです!!」



 武器に呪われつつ、第25話へとつづく

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