第12話 チュートリアル編・その1『家捜し編』

(じぃ~っ)前回までのあらすじ!!

 どうやらこのRPG風の世界には『魔王』などというテンプレ属性が真しやかに存在し、20日(実質6日)以内にその魔王とやらを倒せないと、現実世界とこのRPG風の世界とがイチャラブそして『合体』して結合恋太郎となり、現実世界がその魔王とやらに征服されて大変なことになるらしい。……それとオレの出席日数的な問題で『留年』にもなるらしいぞっ!! そして何より、世界を救うのはオマケで、オレの『留年』が本命事項らしいのだというのだが……



(じ、じぃ~っ)

「ほんと、こんな前回のあらすじでOK出たの?」

「あっそれで、大丈夫♪ 大丈夫♪」


 アルバイトのプールの監視員くらい、すっげぇ軽いノリでこの世界の臨時の管理人である静音さんが了承してくれた。


「あっ言い忘れていましたが、このRPG風の世界の発生には『時間制限』もありますので……」

「うぇっ!? じ、時間制限ん~っ!?」 何それ? 聞いたことのないシステムなんですけど……」


 オレがそう疑問に思っていると、静音さんが続けて補足してくれた。


「はい。異世界発生の営業時間が午前8時~午後3時までとなっており、曜日も月曜日~金曜日の平日のみで、土日祝日とお盆・年末年始などはお休みとなっておりますので……」

「え゛っ゛!? い、異世界なのに営業時間ん~っ??? そんなの斬新すぎるわっ!?」


 えっなに? この世界は銀行員みたいな間隔で学校の門に発生してんの? そのうちATMみたく時間外には手数料とか発生させる気じゃないだろうな。


「いやぁ~最近はブラック、ブラックとガムばりに何かとうるさいですからね。 異世界発生装置の方でも、今の流行を取り入れて雇用の改善しているみたいですよ。じゃないと労働基準監督署労監署から業務改善命令ペナルティーを受けるようですし」

「そ、そんなんでほんとに魔王軍は世界を征服できんのかよ……」


 だって、だって。要は役所の言いなりになってるわけだろ? ってか魔王のクセに役所に配慮しすぎだろがっ! そもそも業務改善命令ペナルティーってなんだよ。役所的には魔王軍による世界征服は業務の扱いなのか!?


「ま、それだけ厳しい世の中と言うわけなのですよ。じゃないと魔王様が直接モンスター魔物たちにハローワークで求人募集をかけても、最近はなかなか集まらないようですし……」

「ま、魔物たちにも、この不況の波が影響してるなんて……」


 ってか魔物ってハローワークの求人応募で集まってたのか!? 今度新聞の求人広告をしっかりと見ることにしよう。もしかすると載ってるかもしれないしな!(笑)


「この世界については大体こんなところですね! アナタ様、ちゃんと理解できましたか?」

「あ、ああ……たぶん、ね」


 この世界についてあまり理解したくないところが満載でツッコミまくりだけど、もうこうなったらやるしかないよな! 主にオレの出席日数的留年な問題でな(ドヤ)。オレはドヤ顔を決めつつそう決意し、静音さんに声高らかにこう宣言した!


「わかったよ静音さん! オレ頑張って魔王を倒して世界の平和を、そして何より自分の留年をかけて全力で戦うからねっ!!」

「いえいえ、アナタ様は役柄が『村人C』とモブ未満ですので、正直言ってそこいらの野生スライム雑魚敵にさえも勝てませんよ(笑) あんまりウケ狙いで、面白いこと言って人を笑わせないで下さいよ(笑笑笑)」


 やべっすっげぇディスられた上にクソメイドに草やされまくったぞ!


「ってかこの世界でもそんな扱いなのかよっ!! だからこの物語の主人公なのにオレへの扱いが酷すぎるよ。魔王軍によりも先に、オレへの雇用改定命令出して欲しいわっ!!(切実)」

「役所の方々もお忙しいので、たぶんそれは無理かと。ぶふりっ(笑)」


 何で世界征服を企んでいる魔王軍を優遇して、この物語の主人公であるオレには冷遇しまくるんだよ。ほんと下手すりゃ、役所の方から魔王軍に対して補助金とか出してそうだよなぁ。


(じぃ~っ、じじじの、じぃ~っ)

「ま、あまり深く考えてもアレですし、そろそろ今日の本題である『チュートリアル』にお話を進めましょう♪」

「ああ、うん。……そうしてくれる」


 どうでもいい感じが満載で、オレは言われるがまま静音さんの言葉に同意した。


「ここでアナタ様に問題です! RPGにおける1番始めの『お約束』とはなんでしょうか!?」

「えっ? お約束??? な、なんだろう。そして何故にクイズ形式?」


「せ、戦闘について……とかかな?」

「ぶーっ、ハズレもハズレ、それではアバズレくらいの大はずれよ(笑)」

「あ、アバズレって……あーた」


 疑問に思いながらも続けて答える。


「じ、じゃあ……『操作コマンド』についてとか?」

「うーーーん…………おしいっ! 正解は『家捜やさがし』でした♪」

「はぁ……『家捜し』……ね」


 『家捜し』ってつまりアレだろ? 要は他人の家に入って手当たり次第好き勝手にする。そもそもどこら辺がおしい・・・んだよ……。


「つ、つまりは、他人の家に勝手に入って泥棒するわけだよね? それはRPGのお約束ではあるけど、正直自分がそれをやるのはあんまり気が乗らないよなぁ……」


 そんなことを思ってるオレに対し、背後から声をかけられてしまう。


「キミはバカなのか?」

「ばーか、ばーか」

「お兄さまには失望しましたわ」


「んんっ!? って何で天音と葵ちゃんがいきなり登場してるのさ!?!?」


 いきなりのセリフで登場した天音と葵ちゃんについて、この物語の管理人である静音さんにそう尋ねた。


「へっ? お二人とも最初からちゃんといましたよ。アナタ様しっかりと冒頭を見て下さいよ」

「も、もしかしてあの『じぃ~っ』ってやつなのか? 確かに第何話かでもそんな登場してたな。そんなのすっかり忘れてたわ!


「アナタ様はほんとうに酷いお方ですね。婚約者フィアンセと義理の妹(予定)に対してそんな扱いをするなんて(よよよよのよ~、よお~っ!!(ババン!))」


 何か静音さんが泣いてるマネしてるんだけど、笑いをこらえてるのか、肩がちょっとぷるぷるしていた。あと何でか知らないけど、最後が歌舞伎役者っぽくなってたよな? 何がしてえんだよアンタ。


「でもさ、早い話他人の家に入って、色々と物色するわけだよね?」

「……ち、違うぞ!」

「違いますよ!」

「ち、違いますわ!!」

 三者三同・・・・いつもどおりお決まりの否定文。だがしかし、やっぱ100%泥棒それだよね。


「き、キミは大きな勘違いをしている! 私たちはまだシルバーお金(=この世界の通貨単位)もあまりないし、武器や防具・かいふく草などの物資すらないのだぞ! それで外にいる凶悪なモンスターたちと、どう戦えと言うのだキミは!!(身を乗り出しながら)」

「確かになぁ~。まだ序盤も序盤だしなぁ。やっぱり偉そうに威張る天音の言うとおり……、ってオレが納得すると思ったのか!? 天音は逆ギレしてるけどさ、要はそれって泥棒をするってことなんだよな!?」


「………」

「………」

「………」


 3人とも何も喋らなくなった。葵ちゃんが回しているカメラのじぃ~っ、という音だけが嫌に大きく聞こえるだけだった。


「……さ、さて、気を取り直しまして。みなさまにはさっそくRPGの1番のお約束であるどろぼを…………い、いえ『家捜し』をしてもらいます。では手始めにあそこにあるみすぼらしい一軒家から参りましょうか♪」


 静音はお店などが立ち並ぶ賑やかな所より少し離れた、静かな1軒の農家らしき家を指差していた。


「うむ!」

「腕がなりますわねお姉さま、静音♪」

「…………」


 うん、今さ静音さんも『泥棒』って言いそうになって訂正したよね。あと何でオマエら他人の家に押し入るのにそんなやる気だしてんだよ! さりげなくあそこにある家をディスりやがってるし。

 もう突っ込んでも無駄だと判断したオレは、ようやくこの世界の流れに身を任せることにした。


 そこは場所として、宿屋の右手奥の方にひっそりと隠れるように立てられた農家風の家だった。ドアの横には干し草をすくうフォーク状の農機具ピッチフォークが立てかけられており、家のすぐ横には馬に水を与える桶と馬繋場ばけいじょう(馬を繋ぐ場所)と、木で出来た綱木つなき(馬を繋ぐ木の固定具)などがあったが、肝心の馬の姿はなかった。


「ふむ……とりあえずは家主がいるかどうかの確認作業ドアノックだな」


 何だよ。天音にもこんなまともな・・・・思考があったのかよ……。などと失礼なことを思いつつ、そんな何気ない一般常識マナーに関心してしまう。


 コンコン♪ コンコン♪


「誰かいませんか? いなかったら返事をしてくださーい♪」


 うん、家に誰もいなかったら返事はできないからな天音よ。


「…………」

「……どうやら誰もいないみたいですね」


 生憎と不運にも返事がなかった。静音さんもきょろきょろとあたりを見周しながら、そうだと確信したようだ。


 ガチャガチャ、ガチャガチャ! 天音は留守を確認すると乱暴にドアノブを回し始めたが、どうやら鍵がかかっているようだ。


「あ~、この家はちゃんと鍵がかけてあるのだな……ちっ」

「まったく田舎のみすぼらしい農家のクセにドアに施錠するなんて……。なんたる傲慢ごうまんな態度ですね! ……ちっ」

「ですわね(ちっ)」


 何か3人とも舌打ちし出したんですけど、ヒロイン達なのにこの態度と暴言はいいのかよ? あとドアの施錠と傲慢な態度はまったく関係ないぞ静音さん。


「んーーー、どうしたものやら……静音! オマエなんとかできないのか?」

「たぶんですが……なんとかできると思いますよ、天音お嬢様」

「ほんとうに!? さすがは静音ね♪」


 鍵がかかったドアをなんとかできるのかい!? ぴ、ピッキングでもするのかな? 静音さんならそれくらいマスターしてても、まったくもって何ら違和感がないよな。などと失礼なことを思い浮かべ、その静音さんに声をかける。


「静音さん静音さん。本当になんとかできるの? 大丈夫なの?」


 素直がモットーなオレはそう直接聞いてしまえるほど、厚かましかったのだ。


「はい。ワタシは『この世界の管理人』でもありますので、どんなドアでも開けられると噂の『マスターキー』を作者の方から預かっております。それを使えばこのようなドアなど造作もありません」


 な、なんてモノを、なんてヤツに預けてしまってるんだ作者の野郎は!? もうこれではクソメイドのやりたい放題ではないか!?


「ふむ。さすがはウチのメイドであるな! 褒めて遣わすぞ!」

「さすが静音ね♪」

「お嬢様方、そんなに褒めないで下さいよ(照)」


 うん、今から泥棒するんだから褒めるのはおかしいし、そして何より照れるのはもっと違うぞ静音さん。


「こほんっ。それでは今から『マスターキー』っぽいモノを使い、ドアを無理矢理ぶち開けますので、みなさまどうかドアから少し離れて下さいませ♪」

「よしわかった! みんな離れるぞ!」

「わかりましたわ!」

「……んんっ!? は、離れる? 離れるって何だよ!?」


 何か不安な単語が聞こえてきたんだけどさ。確かドアを無理矢理ぶち開けるとなっ!?


 だがそんなオレの疑問を他所に「ほらキミも離れろ」と天音に促され、オレもドアから少し離れる。すると静音さんはどこから取り出したのか、ダダンっ!? と鎖付きの鉄球モーニングスターを右手に持ち、そして地面に叩き下ろしたのだった。


「……あっ鉄球の重さで少し地面がへこんだわ」


 ブンブン♪ ブンブン♪ と静音さんは蜂さんみたいな大きな音を立てて、鎖付きの鉄球モーニングスターを振り回し始めたのだ。


 何かさ、もうこのあとの展開がわかるような気がするわ……。



 次回の予告:静音さんがいう『マスターキー』の正体とは一体何なのか!? 正直これを書いてる作者にはまったくこれっぽっちも皆目検討もつきません! そして施錠されているドアさんの運命やいかに! 次回を乞うご期待!!


 第13話へつづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る