第4話 脳移植専門の木村医師が登場!!

 今朝の鮮烈な自己紹介デビュー後、入学式、初めての授業、そして昼休み……っとまるで朝の出来事が嘘のように何事もなく過ごしてしまい、たった今HRホームルームが終わり放課後になった。そうしてオレのいわゆる日常ふつうの高校生らしい入学初日を終えようとしていたのだ。


 今朝の出来事のように天音達(主にメイドが主犯)がまた騒ぐかと思っていたが、そんなことも一切なく静かに右後ろの窓際席だけを主張しただけだった。その席周辺お嬢様の傍にさ、オレも選ばれてるのはデフォなの? もしくはビッチさんの配慮? ………いやいやそんな配慮いらねぇよ。むしろ厄介事をていよく押し付けられただけなのかもしれねぇもん。だがいざその事実を口にするのが怖かった。


 だが、本当に天音達はそれ以降静かそのものだったのだ。一切騒ぐこともなく普通に……いや、超真面目に授業を受けていた。また天音は目が悪いのか、授業中は眼鏡をかけインテリ美少女お嬢様へと変貌を遂げていた。


「(眼鏡をかけた美少女の天音さん。……なんだか『委員長系美少女』って感じがまたイイネよね♪)」


 そんな超真面目に授業を受けるお嬢様を隣の席で、見惚れてしまい授業にまったく集中していなかった輩がかくゆう主人公のオレだって事はここだけの秘密だからな! 授業中そんな美人で華麗なお嬢様に見惚れていると、ふとした瞬間、そのお嬢様と目が合ってしまう。


「んっ♪」


 授業中なので互いに言葉は口にしなかったが、天音はどこか嬉しそう微笑んでいた。


そしてオレを挟み込みもう反対の席には何故か学校指定の制服……ではなく、黒いメイド服を全身に身に纏った天音のお世話係こと静音さんがいたのだ。しかも彼女は跨ったら今にも空を飛びそうな魔女っっぽい箒を手にしていた。


「(そもそも今は授業中だぜ? なんで箒持ってんだよ? しかも誰もそれに突っ込まねーのかよ!!)」

「(ちらっ……ちららっ)」


 きっとオレのように巻き込まれるのを恐れたクラスメイト達は一切のツッコミを入れず、授業に集中しているフリをしていたのだ。そうあくまでそれはフリ・・なのだ。やはり今朝の事が気になるのか、口にはせずとも天音や静音さんだけでなく、関係者と思われているオレまで巻き込みスルー推奨の暗黙の了解になりつつあった。


 そして天音同様に黙ってさえいれば言葉すら失ってしまうほどの、すっごくかわいい美少女のメイドさんを興味本位で見つめていると、また偶然にもふと目が合ってしまう。


「ニヤソ♪」

「(あ、はははは……)」


 そんな静音さんの意味あり気なニヤソ♪ に対して、オレはただただ乾いた苦笑いで対応するのが精一杯できる事だった。しかも何気にニヤではなく、ニヤなんだよなぁ~。しかもそれが効果音SEではなく、セリフとして盛り込まれており、それが尚の事怖い。


「(セリフじゃなくて、ちゃんと効果音SE使ってやれよ!! 音響さん泣かせになっちまうだろ!!)」


 っと謎の説明を自分の心情として思い浮かべてしまう。


 ま、まぁそんなこんなで、アイツらも騒がなければ教室ここは平和そのものなのである!


「あぁ~……日常ふつうとはなんて素晴らしいことか!!」

(うんうん、これが日常ふつうの高校ライフだよなぁ~♪ これからもこんな平和が続けばいいの……)

「さて! 念願の放課後になったぞっ!! ところでキミは何をしたいのだ?」


 またもやオレのセリフを潰すかのように授業が終わり、簡易的なHRを済ませいざ放課後に突入した途端、隣にいる今話題沸騰中のお嬢様がオレへと話かけてきたのだ。


「(はい、オレの平穏な日々は続きませんでしたよ~。あぁ……案外短かったなぁオレの日常ってやつわ。もう少しだけでいいから頑張れよ平和のやつめ! あと何かテンションアゲアゲ中(高め)のお嬢様が隣の席にいるオレに対して話かけてきたんだけどさ……どうするよおい!! とりあえず無視してみるか? ……ってか、さっきまでのお嬢様委員長モードはどこにいったんだよ!? あれか眼鏡か? さっきは眼鏡かけてたからお嬢様de委員長タイプだったのかい?)」


 オレが怪訝そうな顔をしてそんなことを思っていると、いつまでも返答せずにまるで自分を無視していると思い込んだ天音が再度絡んでくる。


「私の話をちゃんと聞いているのかキミは!?」

「は、はぁ~……」


 これから起きるであろう出来事を前にオレは頭が痛くなり、両手で頭を抱え込み机に塞ぎ込んでしまう。


「だ、大丈夫かキミ!? 具合悪いのか? もしかして頭が痛いのか? こ、こんなとき私はどうしたらいいんだっ!? (おろおろ、あたふた)」

「(コイツにもこんな可愛気なところがあるんだなぁ……)」


 頭を抱えている婚約者(予定)のオレを心配してか、おろおろあたふたっと昭和のアニメを意識したように分かり易く混乱をみせるお嬢様。オレはそんな普通の思考もできる天音さんに好感を……


「し、静音! 一刻も早く私専属の備え付け・・・・の医者を呼ぶのだっ!」

「(そ、備え付け? かかりつけの言い間違えだよな? いやでも須藤家コイツん家ならありえてしまう!?)」


 何をトチ狂ったのか、天音がメイドへと謎の命令を叫んでいた。オレは今朝のような事態を回避するべく「大丈夫だから……」っと猛アピールをする。


「い、いや、ただの頭痛(主にお前らが原因のストレス)だからさ……。たぶんすぐ(お前たちから逃げれば)良くなるから医者とかそんな大げさにしなくても……」

「キミは何を言ってるんだ!? 仮にもキミは私の婚約者フィアンセなんだぞ! 心配するのは当たり前だろうがっ!!」


 天音はオレの言葉を遮るように然も「当然だ!」っと言わんばかりの勢いで詰め寄ってきていた。


「あ、あぁ……ありがとう」

(ホントはコイツも根が良いやつなんだよな。不器用ってか、ただやり方が豪快なだけでさ)


 オレは天音の鬼気迫る迫力に圧されたが、内心は少しだけ嬉しかったのだ。そんな天音の心優しい一面に触れ「おろおろ、あたふた」などと擬音を口にし、困り動揺している彼女を少し微笑ましく見つめていた。そして静音さんは天音のその言葉を受け、スカートからそっとスマートなフォーンを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。


「はい。いつもお世話になっております静音です。ええ、そうです。天音お嬢様が『今すぐ来んかいワリャあっ!! 来んとお前の家にウチの若いもん・・・・を……いや今にも死にそうな若くないもん・・・・・・送り込むぞ!』っとブチ切れの最中でして。ええ、そうですそうです……」

「(何かさ、電話の内容が超過激派組織なんですけど……あれは大丈夫なの? そもそも若いもんならたぶん自称自営業の893ヤクザの方々だと解かるのだが……。そもそもなんだよ若くないもん・・・・・・ってさ? たぶん年寄りを指す言葉なんだろうけどさ、そんなの怖いよ?)


 オレがそんな事を思い浮かべていると、静音さんは更に言葉を続ける。


「えっ? そんなの全然怖くない? ……果たして本当にそう思いなのですか? では、こう考えてみて下さいな。こほんっ。先生の家に今にも死にそうなおじいちゃん・おばあちゃんが何人も送り込まれて来るのですよ? しかも認知症と夢遊病をわずらっているのか、意識が朦朧もうろうとしながらも先生の家の周りをぷるぷると震えながら徘徊し、胸を押さえいつ死ぬかもわからない状態で……あっ今すぐ来てくれますか♪」

「(うん、そんなん家に送り込まれたらすっごくめっさ怖いわ。このメイド……ある意味ヤクザよりもヤクザだよな!)」


 オレはこのメイドさんだけは怒らせてはいけないと心に刻み込むことにした。


「それで静音よ。木村医師は今すぐ来てくれるのか?」

「はい大丈夫ですよ天音お嬢様。さっそく脳移植専門・・・・・の木村医師をお呼びいたしましたので、お嬢様はご安心してくださいませ♪」

「おいコラちょっと待てや、そこのクソメイド! 脳移植専門の医者ってなんだよ!? お前はお前で、何オレのを取り替えようとしてんだ!!」


「なんでだろうね?」と可愛く首をかしげるメイドの静音さん。ちょっと可愛くて惚れそうになってしまうオレがいた。


「いえいえ、脳移植専門の木村医師に任せれば大丈夫ですよ! きっと痛みもなく、別人・・のように生まれ変われますので♪」

「それは別人のよう……ってか完璧別人・・・・になっちゃうよね!?」

「ワタクシ…………今日はやる気満々なので♪」


 たぶんそのやる気とやらは、漢字で書くとこうだろうなる気っと。


「ってか、そもそも脳移植専門ってなんだよ!? ロシアの医者か!? いや、木村だから日本人なんだよな!!」

「ええっ!? あ、貴方様は知らないんですか? 世界的に有名なあの木村医師を!?」


 もうボケが酷く、この物語の主人公にしてツッコミ担当であるオレはそこを突っ込まずにはいられない。静音さんは「そんな人がこの世に存在するの!?」と言ったようやや大げさに、口に右手をあて戦後最大級に驚愕な表情をしていた。


「えっ? えっ? 何その木村って医師はそんな世界に通じる名医なの? もしかして華陀クラスなの???」

「はい。木村医師は世界的にも有名で、主にタラバガニ・・・・・の脳移植を専門に……ぷっふぅーっ!!」


 静音は自ら口にした言葉に笑いを堪えずに噴出してしまっていた。


「た、た、大変失礼しました。(ぷくくっ)き、木村漁師・・・・は、た、タラバガニ……の、脳移植を……あぁ~もうダメ! おかしぃ~おかしすぎるぅ~♪ 大体カニの脳移植・・・・・・ってな~にぃ~~~~笑笑笑」


 もう床を転げ回り、その服でホコリを取り掃除するかの勢いで笑い死にしている静音さん。


「(……ってか、メイド服が汚れるのもいとわずに床を全力で笑い転げやがるな)」

 ついでだから言っとくけどな。タラバガニはヤドカリの仲間だかんな。ここわりとテストに出るぞ。


 前言撤回。コイツらがオレの傍にいる限り、オレに日常という名の平和は訪れるわけがない!(確率変動一切なしの確定事項)



 次回の予告:タラバガニの脳移植専門の木村漁師来日ス!(嘘話)

 野生のお嫁さん候補(お嬢様)の野生っぷりまで…………残り84467文字

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