15 言葉を交わすこと
「……どうだ。やれそうか?」
「ノマンをですか? 殺る気は満々ですよ」
「違う。ああいや、ノマンは倒さなきゃいけないんだが、その作戦の方だ」
「そうですね……。急拵えの割には、可能性はそれなりに引き上げられると思います。……ネグラさんとヒダマリさんでしたっけ? あの二人、よくあの短時間でここまで宝珠を読み解きましたね。素晴らしい人材です」
「部下を褒められると嬉しいな。片方は別の国の人間だが」
「魔物と人が協力し合っているというのは素晴らしいですね。俺達のように」
「ものすごい早口で言う。怖い」
「……ですが、一つ欲しいものがあります。途中どこかで伝令役を捕まえられませんか?」
「ああ、ここならすぐにでも可能だよ。呼ぼうか?」
「お願いします」
「――」
「……何をしたんですか?」
「特殊な声を組み合わせて、部下を呼んだんだ。少し人間には聞き取り辛かったかもしれないな。……あ、ほら」
「ぴよーっ!」
「ルイモンドの部下だ。で、何が欲しい?」
「えーと、では……」
「……本当に、あんなもので良かったのか」
「はい。今回の策では必須です」
「そうか。恐らく、それが届くのはノマン城に着いてからになるだろう。いつ必要かは分からんが、頑張れよ」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
「……で、お前は何でさっきから吾輩のペンダントを触りまくってるんだ? 運ばれている分際でいいご身分だな」
「この魔力水晶、赤いですよね。まるでピィさんの瞳のようです」
「やかましい。というかコレ、もとはお前のだろ。つーかダークス殿のだろ。いやダークス殿の母君のものか」
「なんでそんなに詳しいんです?」
「ヨロ王やベロウから色々聞いてな。あ、ダークス殿には直接会って話をしてきたよ」
「……は!? はい!? え、ダークスさんに!?」
「クレイスのことも心配してた。ノマンを倒したら会いに行こうな」
「……! 本当に……生きて……らしたんですか……!」
「ああ。今はサズ国の皆と奴隷軍として立ち上がり、戦っている」
「できるんですか!? あの人目が見えないのに!?」
「それも大丈夫だよ。実は吾輩の父も生きて(?)いてな。父は友達を目の前で殺させるような魔物じゃないし、守ってくれていると思う」
「お義父様(とうさま)まで!?」
「何か嫌なルビが見えた気がする」
「……つまり、俺はダークスさんに会うタイミングでピィさんのお義父様にもご挨拶することになると」
「うん……まあそういうことになるな……」
「手土産とかどうしましょう。ピィさんのお義父様は何がお好きですか?」
「手土産とかそんな余裕無いと思うけど……」
「いえ、第一印象から間違うわけにはいきません。お義父様には、俺がピィさんにふさわしい礼儀正しく頼れる男だと認識していただかないと」
「そこまで考えてるのか!? もうマジで何なんだ、お前!」
「一般的にお嫁さんのご家族への挨拶は緊張するものと言われています。しかし裏を返せば、好印象を得る絶好の機会です。俺はこのチャンスを最大に生かしたいと思います」
「……」
「……? どうしました?」
「……お前は、ノマンを倒せるかどうかすら分からないこの時に、普通に吾輩との未来を想像しているんだな」
「あ、はい。晴れてピィさんからお付き合いの了承もいただいた事ですし、正直舞い上がっています」
「何それ吾輩知らない!」
「お戯れを。俺を許すと言ってくれたでしょう」
「それは言ったが……え!? なんでそれがお付き合いの了承になるんだ!?」
「自分で言うのも何ですが、俺は相当ピィさんを裏切っていますよ。にも関わらず、ピィさんは俺を追い続け、挙げ句の果てにピィさんの命を奪おうとした俺をピィさんは許すと言ってくれました」
「……」
「それは相応の愛が無ければできることではありません。あと多分許すという言葉にはピィさんが俺に心を許す、お付き合いを許すという意味も含まれていたと踏んでいます」
「いささか強引過ぎる妄想だな!!?」
「俺はある人から“初恋だけはどんどん押せ”と言われてるんです。故に押します。迷わず押しまくります」
「うううー……」
「?」
「……お前は、本当に吾輩のことが好きなのか」
「はい、大好きです」
「さらっとグレードを上げたな。怖。……しかし、その……お前は、一体吾輩のどこに惚れたんだ」
「……そうですね。最初は、単なる一目惚れでした」
「一目惚れ?」
「はい。緋色に染まる強い眼差し。月の光を宿したかのような髪色。凛とした声。そして控えめな体型」
「馬鹿にしてるな?」
「とんでもない。……それでも、目的の為なら俺は割り切れると思ってたんですよ。だけど一緒にいて、貴女と言葉を交わして、少しずつ考えは変わっていきました」
「……」
「いつも一生懸命で、前向きで、どんな困難にも真っ向から立ち向かう。たとえどれほど周りの魔物に振り回されても、魔王としての役目を果たそうとする」
「……うん」
「仲間のことを大切にして、明るくて。心配になるぐらい騙されやすくて、お人好しで。……こんな俺ですら、信じてくれるほどに」
「……」
「あと笑顔は言わずもがな可愛いです。食べてる姿も愛らしいです。怖いと猫みたいに威嚇してくる所も愛しいですね。ああ、他にも……」
「待て待て待て。えらく多いな。夜が明けてしまうぞ」
「そうですか?……いえ、そうですね。もし出会ってすぐの時なら、どこが一番好きかなんて質問にも簡単に答えられたんでしょうが」
「……」
「……こんな少しの時間で、想いが膨れ上がってしまって。今はもう、とてもどれが一番かなんて選べなくて」
「……………………………………ぷぁ」
「どうしました、ピィさん」
「い、い、いや、な、な、なんでも……」
「そうですか」
「うん」
「いややっぱそんなことないでしょピィさんめっちゃ顔赤いんじゃないですかねぇもしかして俺脈相当あるんじゃないですかやったちょっと顔見せてうわすげぇ可愛いすいませんもっと角度的にこっちを」
「うるさーい!!!! うるさいうるさいうるさい! ものすごく鬱陶しい!! 落として踏んで置いていくぞ!!」
「すいませんでした」
「お前なぁ、本当そういう所だぞ! なんかもう言葉にできないけどそういう所だ!」
「はぁ」
「……そ、そういえば、だな。さっき追手に襲われた時、お前は何を言いかけて……」
「みょー」
「あ、ケダマ。起きたか」
「おやケダマさん、大丈夫ですか?」
「みょ……」
「まだじっとしてろ。かなり傷は深かったんだ」
「みょー……」
「……城が見えてきましたね」
「ああ」
「……すいません、ピィさん。話の途中でしたが、今から俺は貴女にノマンを倒す作戦を伝えたいと思います」
「……分かった」
「……貴女には、相当の負担をかけます。戦いの最中、ノマンの言葉に揺らぐこともあると思います。それでも……」
「ああ、分かってる。吾輩はクレイスを信じるよ」
「……ありがとうございます」
「うん」
「では」
夜の闇の中に、クレイスの言葉が小さく紡がれる。それを聞いたピィはぎゅっと唇を引き結び、しっかりと頷いたのだった。
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