3 現われたのは
「……なるほど。要約すると、かつてのクレイスはサズ国で奴隷をしており、ダークス殿の世話になっていたということだな」
がらんとした魔王城にて。ピィは玉座に座り、水晶玉の向こうにいる男と言葉を交わしていた。
「そして彼と仲間を助ける為に、ノマンの手下になったと。まったく、アイツがそんな仁義に厚い奴だったとは知らなかったよ」
「ああ。んで恐らく、今でも……もぐ、ノマンの寝首を掻く機会を……もしゃもしゃ……窺っているはずだ」
水晶玉の向こうでは、真っ黒な瞳の悪人面が粥を食いながらこちらを覗いていた。フーボ国でリータらを保護していたという男、ベロウである。
最初こそ彼の見た目の柄の悪さにピィも警戒したものだが、リータの言う通り口を開けば存外気安い男であった。
いや、それを指摘すると“うるせぇ”と噛みつかれるのだが。それでもピィには、膝に乗せたニャンニャン医療隊にせっせと粥のお裾分けをしている人間を悪人扱いするのはとても難しかった。
「しっかし、そのダークスって爺ちゃんも、元はヨロ国の王子だったとはなぁ」
もくもくと粥を口に運び、ベロウは言う。
「道理で字の読み書きができるはずだ。ただの奴隷にしちゃあ、学がありすぎると思ってたんだよ」
「ああ。早く弟であるヨロ王にも教えてやりたいが、何せあれから十年経っているからな。彼をがっかりさせない為にも、せめて生きているかどうかだけでも事前に把握しておきたいが……」
「そこよ。奴隷の仕事は過酷も過酷、とっくにダークス先生が死んでる可能性もあるわな。ま、いずれにしても、どうやってクレイスが不老不死のノマンを殺そうとしてるのかもわかんねぇんだが……」
その言葉に、ピィはため息をつく。
そうなのだ。クレイスの目的は分かったが、ノマンの情報は殆ど得られないままだったのである。まあ、ベロウにノマンの知識を期待しても仕方ないのだが。
「こうなると、俄然クレイスをこちら側に引き入れたくなってきたな」
ノマンを殺したいと思っている彼なら、きっとノマンの弱みも握っていることだろう。加えてあの頭脳である。再び味方になってくれるなら、百人力となるに違いないが……。
「うっふっふ」
なーんでこの男はニヤニヤしてるのかね。
「恋する乙女の目だねぇ、嬢ちゃん」
「は? コイ? 何?」
「クレイス君に会いたいよなぁー、帰ってきてほしいよなぁー。分かるよぉー、恋ってそういうもんだもんなぁー」
「うん? うん? 誰が? 誰に? ううううん?」
何やら微笑ましげな顔をしているが、そんな顔を向けられる意味が分からない。しかしピィの脳がベロウに言われた言葉を処理する前に、部屋にピンクの塊が飛び込んできた。
「みょーっ!」
「おや、ケダマ。どうした?」
「みょみょ、みょっ!」
「うわ、ちょ、んぷっ、どうした!?」
「おい嬢ちゃん、そのフワフワは何て言ってるんだ?」
ピンク色の毛玉は、全身の毛を逆立てたりポフポフ跳ねたりして何かしらの意思疎通を図ろうとしている。それを撫で宥めながら、ピィは頷いた。
「うん……うん……。わかった!」
「みょ! みょ!」
「お腹空いてるんだな! よし、今すぐ昼食にしよう!」
「みょーっ!?」
「待ってろ、ケダマ。今ハパパフードを出してやるからな」
「みょおおおおおお!!」
「……なぁ嬢ちゃん、本当にその解釈合ってる? フワフワちゃん、超暴れてるんだが」
「みょおおおおおお!!」
「ごふっ、おふっ。だ、大丈夫大丈夫、魔物はお腹が空くと気が立つもんだから……」
そうしてピィがケダマからのボディーブローを甘んじてくらっていた所、別の魔物が部屋に駆け込んできた。トカゲ型の魔物であるヒョロルンである。
「ま、魔王様! 大変です! 至急バルコニーに出てください!!」
「ど、どうしたんだ、ヒョロルン。ああ! 急ぎ過ぎてお前の尻尾が別の生き物ようにビタンビタン!」
「すいません、ほんとコイツ時々思わぬ動きして……! いや、それどころじゃないんです! 魔王様! 城に訪問者が来ております!」
「訪問者?」
不平を言うように、ケダマがピィの膝の上でみょーと鳴く。それに応えるようにヒョロルンは頷くと、口から青色の舌を出して言った。
「訪問者は、恩人さん……クレイス=マチェックです」
「は、なんで……!?」
「彼は今、魔王様に会いたいと魔王城の前で待っています」
「……!」
「とにかく魔王様、急ぎバルコニーへお願いします!」
ピィの手から、ハパパフードの入った器が滑り落ちた。
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