少年は少女と甘い一時を過ごす
その日の夕食は華やかなものだった。元々王族の食事ということもあり、常に最高品質のものが出てくるのだろうが、今日はどうやらエミリー、グレイ、そして僕の回復祝いとのことらしい。
二人の回復祝いは分かるが、王城に上がり込んでしまっている身である僕の分までやってもらえて嬉しい反面、申し訳なさもあった。
食事はどれも美味しく、隣には当たり前のように座ったグレイとエミリーがおり、終始和やかに時間が過ぎていった。楽しい時というのはあっという間に過ぎるもので、夕食を食べ終えた僕は夜風に当たり、一人星空を眺めていた。
「ねえ、アレク」
「なんだ?」
「僕が今回したことはさ、間違いだったのかな」
僕はエミリーのことを助けたいと思い、自分が思う最善の手を尽くした。結果的にはエミリーのことも助けられたし、僕達もアグラエル様のおかげで無事に事なきを得た。
でも、その結果エミリーを僅かにでも悲しませ、ツヴァイ様に多少なりとも迷惑をかけてしまった。
「ジンは自分がしたことを後悔しているか」
「……ううん、僕は後悔してないよ。僕は僕がどうなろうとエミリーを助けたかった。でも、こういうのはもう止めにするよ。僕が傷付いたらエミリーが悲しませちゃうから」
アレクは僕の頭に手を置くと乱暴に頭を撫でた。
「ガハハッ! そうか、お前が公開していないのであればそれが正解だ。ジン、お前はこれからも苦難と対峙することになるだろう。だが、どんな時も己が後悔することだけは絶対にするな、いいな?」
「うんっ!」
「よしッ! それはそうと、ステータスを見てみろ、お前は苦難を乗り越えたからな。ジンの固有スキル
言われるがまま、ステータスを確認する。
ステータス
LV38 職業:
称号:救世主 魔物狩り 狂人 蟻の天敵
生命:B+ 持久:B- 敏捷:B- 魔力:C 頑強:B- 筋力:A- 技量:B 魅力:C+ 運:A
スキル
“
【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】【剣術】【気配探知】【見切り】【軽業】【毒耐性】
“
【多言語理解】【瞬歩】【長剣術】【同時思考】
“
【覇王剣術】
“職業”
【
“固有”
【
魔法
“火属性”
下級魔法
【ファイアーボール】
【ファイアーアロー】
【エンバース】
“水属性”
下級魔法
【ヒール】
【キュア】
“風属性”
下級魔法
【ウインドブースト】
“土属性”
下級魔法
【ロックシールド】
“空間属性”
下級魔法
【アイテムポーチ】
上級魔法
【アイテムボックス】
確かにアレクの言う通り大幅にステータスが上昇している。これが【
確かこのスキルのうち、英雄体質という効果が厄災に見舞われやすくなり、それを乗り越えることで大幅に成長するというものだったはずだ。
気づかぬうちに見慣れない称号も幾つも手に入れている。
「すごく強くなってたよ」
「まあそうだろうな、だが、これからもジンの身に厄災は降りかかる。これからも鍛えてやるから安心しろ、ガハハッ!」
「頼りにしてるよ、相棒」
気持ちの良い夜風に当たりながらアレクと話していると、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、そこにいたのはフリルのあしらわれた白い寝間着を身に着けたエミリーの姿があった。
「エミリー? こんな時間にどうしたの?」
「いえ、その……。もう少しジン君とお話したいかなぁ……なんて」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら笑みを浮かべるエミリーの姿に思わずこちらまでドキリとしてしまう。徐々に顔が熱くなるのを感じながらも平静を装い、椅子に腰かけ、エミリーにも促す。
「「……」」
沈黙が場を包む。先程からエミリーの顔を直視できず、テーブルをじっと見つめる。
「ジン君、ジン君は私にジン君の秘密を教えてくれたあの日のことを覚えていますか?」
「勿論覚えてるよ」
「……ジン君はこの世界の人ではないのですよね。ジン君の世界にはジン君のことを待っている人達もたくさんいるはずです。ですから……ですから、ジン君は元の世界にいつか帰ってしまうのでしょうか……?」
エミリーの声は震えていた。とても怯えたような、寂しいような、そんな声だ。
「大丈夫だよ、エミリー。僕はこの世界と僕の世界を自由に行き来できるから、僕の世界に戻ることもあるけど、必ず戻ってくるから」
「本当……ですか……?」
「うん」
僕がそういうとエミリーも安心したのか、ほっと息を吐いた。
ふぅ、と一息吐くと僕も覚悟を決める。ずっとエミリーに言いたいと思っていた、僕の気持ちを吐露しようと。
「エミリー、聞いて欲しいんだ」
「はい」
緊張して口の中が乾く。
心臓が早鐘を打ち、痛いぐらいに拍動する。
頭の中は真っ白で、考えていた言葉はどこかに消え去ってしまった。
でも、自然と口が動いた。
「君のことが好きだ、エミリー」
エミリーは驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ジン君、私もジン君のことが好きです」
顔を赤く染めたエミリーの顔が月明かりに照らされる。嬉しそうな笑みを浮かべるその頬を一筋の雫が零れ落ちた。
恥ずかしさと嬉しさとがごちゃ混ぜになってどうしていいか分からない。でも、一つ確かなことは、僕とエミリーの思いが結ばれたということだ。
「も、もう夜も遅いし、そろそろ寝た方がいいんじゃないかな」
「そ、そうですね……」
僕達は席を立つと、無言のまま廊下を歩いていく。先に部屋の前についたのは僕だった。
「そ、それじゃあ、おやすみ、エミリー」
「おやすみなさい、ジン君」
そう言って僕が背を向けようとした時、アレクに背中を押された。
何だ、と訝し気に思いながらもエミリーの方を見ると目を瞑ったエミリーの顔が目の前にあった。
これは……。
僕は息をのみ、覚悟を決めるとエミリーの頬にキスをした。
「お、おやしゅみ! えみりーっ!」
僕が慌てて部屋に飛び込もうとしたら背後からエミリーに抱き着かれた。身体が密着し、緊張していた僕の身体はより強張る。
抱き着いたまま、エミリーは背後から僕の耳元で囁いた。
「後ろを向いてください……」
消え入りそうな声だったが、言われた通りに後ろを振り向くと唇に柔らかな感触が触れた。
「えっ」
「おやすみなさい、私の英雄様……っ!」
これまで見たこともないほどに顔を赤く染めたエミリーはそう言い残すとその場を走り去ってしまった。
呆然と立っていると、背後からアレクが肩に手をおいた。
「ジンよりも積極的みたいだなあ」
その顔は非常にニヤニヤとしており、僕のことをからかう気満々なことが言わずとも分かった。
だが、それ以上に僕は頭の中は空っぽだった。
ただ一つ言えることがあるとするならば、僕はまだ、かっこいい
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