少年は魔物の群れと戦う

「まずジン、今のお前のステータス、それとスキルを確認してみろ」

「分かった」


 ステータス、と暗唱すると視界に半透明の表示が現れる。


 ステータス

 LV10 職業:戦士 種族:人族ヒューマン 性別:男

 生命:F+ 持久:F- 敏捷:F 魔力:F+ 頑強:F 筋力:F+ 技量:F- 魅力:G 運:E-

 スキル

 “一般級ノーマル

【鑑定】【魔力感知】【魔力操作】【体術】

 “特別級エクストラ

【多言語理解】

 “固有”

英雄伝説ヒーロークロニクル

 魔法

 “火属性”

 下級魔法

【ファイアーボール】

【ファイアーアロー】

 “水属性”

 下級魔法

【ヒール】

 “風属性”

 下級魔法

【ウインドブースト】

 “土属性”

 下級魔法

【ロックシールド】

 “空間属性”

 下級魔法

【アイテムポーチ】

 上級魔法

【アイテムボックス】


 ステータスには、生命・持久・敏捷・魔力・頑強・筋力・技量・魅力・運の九つが存在し、それぞれがGからSまでの値で表される。そして、GとFやBとAなどの間程のステータスの場合には+や-を使用して現す。


 こうしてステータスやスキルを見ても、あまり実感が湧かない。昨日魔物を狩っている中で、アレクは僕にいろいろな魔法を教えてくれた。どうやら僕には基本属性である“火”“水”“風”“土”の全てに適正があったようで、色々な魔法を覚えることが出来たのは幸いだ。


 この世界の魔法には大別すると二種類が存在する。一つは基本属性である“火”“水”“風”“土”の四属性。これらはそれぞれ得意とする魔法が異なる。

 火属性の魔法は攻撃、水属性の魔法は回復、風属性の魔法は付与、土属性の魔法は防御、という風に決まっている。勿論火属性の魔法で回復や付与を行うことも出来るが、それぞれの得意な魔法と効果を比べると倍近く変わってしまう。


 アレク曰く、普通の人は一つの属性の魔法しか扱えず、天才と言われる人達でさえ二つの属性の適正しか持っていないらしい。なので、四属性全ての魔法に適正があった僕は運がいい。


 そして、大別した時のもう片方は特殊魔法だ。これには、“光”“闇”“空間”“無”等の基本四属性以外の魔法が含まれる。光や闇の魔法は教えてもらいたかったけれど、残念ながら僕には光属性と闇属性の適正は無かったので渋々諦めた。

 ただ、僕にも空間属性の魔法は使うことが出来たので、アレクに教えてもらい、これだけは上級魔法まで覚えた。


 それぞれの属性の魔法には下級から始まって、上級・超級・帝級・神級の五つのレベルの魔法がある。僕が覚えている魔法のほぼすべては最もレベルの低い下級魔法だ。それでも魔法は十分すぎるほどに強いので重宝しているけど。


「ジン、自分のステータスを確認して何かおかしいと感じる点は無かったか?」

「え~っと……あっ! スキルにランクが付いていること!」

「そうではない。お前に言っていなかったか? スキルにもアイテムと同様にランクがあると」

「言われてないと思うけど……」

「そうか、ならば軽く解説するとしよう――」


 スキルにはそのスキルの効果内容に合わせてランク分けされるらしい。最もランクが低いのは一般級ノーマルスキルで、それ以降は特別級エクストラスキル、独一級ユニークスキル、伝説級レジェンダリースキル、幻想級ファンタズムスキル、世界級ワールドスキル、神話級ミソロジースキルの順にランクが上がるようだ。


 また、ランクが高い程スキルの内容もより強力になるそうで、スキルは使用し続けたり、同系統のスキルを獲得することによってより強力なスキルへと“進化”することもあるらしい。


「へぇ……。って、そうじゃなくてさ、他に何かおかしい点なんて僕のステータスにあった?」

「気付かなかったのなら教えてやろう。お前の職業は“戦士”であろう、それならば何故、魔力の値が生命や筋力と同じF+なのであろうな?」

「あ……! 本当だ、戦士だから生命や筋力の値が高いのは分かるけど、魔力何て戦士とは程遠いステータスのはずなのに高い……」

「結論から言うと、ステータスには職業によって補正がかかる。例えば戦士であれば、生命・頑強・筋力のステータスに補正がかかる。だが、あくまで補正、そのステータスが他のステータスよりも高くなりやすいだけのことだ」


 なるほど、それなら僕の生命と筋力の値が高いことには頷ける。でも、やっぱり魔力の値が高くなることの意味は分からない。


「それで、だ。ジン、お前はこれまで魔物とどうやって戦ってきた?」

「えーっと、魔物の動きを観察して、相手が隙を見せたら魔法を使って倒してたよ」

「それが答えだ」

「えっ?」


 別に僕は昨日の戦いを振り返っただけで――。


「そういうことかっ! ステータスの成長にはその人の経験が繁栄されるんだね?」

「ガハ八ッ! その通りだッ! だから昨日魔法ばかりを使っていたジンのステータスでは魔力の値が高かったのだ」

「でも、どうして狩りの前にこんな話をしたのさ」

「それはだな、ジンにはしばらくの間筋力と技量のステータスを上げることに専念してもらうためだ。そのために魔法の使用はもちろん禁止だぞ」

「嘘でしょっ!? 僕、運動神経凄い悪いんだよ!? いきなり剣で戦え何て言われても絶対にむ――「無理ではない。つべこべ言わずにやれ」はい……」


 半ば強引に押し切られ、僕はそれまで楽しみにしていた狩りが一気に億劫になってきた。既に宿屋に戻りたいという衝動に駆られているが、アレスに首根っこを掴まれており、アレスはぐんぐんと森の奥へと進んでいってしまうため僕は引き摺られる様にして森の中へと姿を消した。


 ♢♢♢


 森の中は僕の想像していたものとは違った。森と言えば静かな物だとばかり考えていたが、あちらこちらから魔物とおぼしき鳴き声が聞こえてくる。


「まずジンには今朝方に言った気配を感じ取るスキルを教えてやろう。そこでじっとしていろ」


 僕がその場で立ち尽くしていると、僕の視界が何かで遮られる。これは……何かの布だろうか? 僕がアレクに文句を言おうとすると、左耳に何かを詰められた。


「ちょ、ちょっとアレク!? 何してるんだよっ!」

「いいから黙って我の言う通りにやれ、そうすればスキルを取得できる。このまま右耳にも綿を詰める。その後は絶対に目隠しも、耳栓も取ってはならぬぞ、何があってもだ」

「ちょっと、まっ――!」


 言うことだけ言い終えると、アレクはすぐさま僕の右耳の中にも綿を詰め込んでくる。これで完全に視覚も聴覚も奪われた。

 一体僕はどうすれば……。


「いっ……!?」


 そんなことを考えていると、右のふくらはぎに痛みが走る。何事かと思って下を向くが視界を塞がれているため何も見えない。足を思い切り振るが、僕の右ふくらはぎの痛みは増すばかりだ。


 恐らくだけど僕の右ふくらはぎに魔物が噛みついているんだ、なら……!

 腰に差しておいたガレスさんから貰った剣を抜き、右ふくらはぎの近くに突き刺す。剣先が確かに中に突き刺さった感触がある。同時に僕の右ふくらはぎにあった痛みも消えた。


「はぁ……はぁ……」


 凄く痛い、それに、凄く怖い。何も見えないし、聞こえない。そんな状況でどこから来るか分からない攻撃にそなえることは途方もなく僕の心を怯えさせる。

 今すぐ逃げ出したい。でも――。


「僕は逃げない……っ!」


 痛む右ふくらはぎのことなど忘れ、型も何もない出鱈目な構えで剣を強く握り、胸の前で構える。この森のことはよく知らないが、あれだけ多くの魔物の鳴き声が聞こえたんだ、恐らく僕の足から流れている血の匂いを嗅ぎつけて魔物がさらにやってくるはず。


 その時だ、視覚でも聴覚でもない。しいて言うならば第六感。それが僕の背後から飛び掛かってくる魔物の存在を教えてくれる。僕はその場を半歩右にズレると、まだ空中にいる魔物目掛けて思い切り剣を振り下ろした。


 スキル【気配探知】を獲得しました。


 また次の魔物にそなえて剣を正眼に構えようとしたところで、はらりと視界を覆っていた布が外された。驚いて振り返ると、いつもみたいに豪快な笑みを浮かべるアレクの姿が映る。

 少しの間とはいえ暗闇の中に居た僕には目に入る光が眩しくて目を細めていると両耳の綿も抜き取られた。


「よくやったなッ! このスキルは取れれば有用なのだが、その過程で断念してしまう者も多い。ジンは恐怖に打ち勝ち、見事に【気配探知】をものにしたのだ」

「ありがとう、アレク」


 照れ笑いを浮かべていると、木の影からこちらを窺っている魔物がいることに気配で気が付く。数は三、同時にこちらに向かってきているみたいだな。


「ガハ八ッ! どうやらもう【気配探知】を使いこなしているようだ。ジンは剣を扱うのは下手だからな、魔物との戦闘中にアドバイスしてやろう。だから存分に行くがいいッ!」

「頼んだよっ!」


 僕は剣を抜き、その場で構える。徐々に近づいてくる魔物の気配、ほぼ同時だが若干右側から来ている魔物が速く僕の元に辿り着くはず、なら、先に潰す。

 右を向いて待っていると、牙を剥きだしにした犬の魔物が現れる。僕は犬に集中し、【鑑定】を使用する。

 名前は“フォレストドッグ”LVは6で僕よりも低い、これなら……!


「GLUAAAAAAAAA!!」

「はぁぁぁぁぁああっ!」


 飛び掛かってくるフォレストドッグの側面に回り込みながら、奴が突っ込んでくる勢いを利用してフォレストドッグを真っ二つに斬り流した。

 すると息つく暇もなく、二匹のフォレストドッグが襲い掛かってくる。二匹は僕を中心に周り同じタイミングで襲い掛かってくる。


「後ろに跳べッ! そうしたら剣を両手で強く握り、切っ先を相手に向けたまま肩の上で構えろッ! 犬っころ共がこちらへと攻め込んできた瞬間が最大の好機だッ!!」

「はいっ!」


 僕は言われた通りに剣を構え、フォレストドッグの動きを観察する。フォレストドッグ達も僕の出方を窺うように膠着状態が続いたが、痺れを切らしたフォレストドッグの片割れが僕に向かって突進してきた。


 今だっ!


 僕は脚に力を込めると地面を蹴り、フォレストドッグに肉薄する。


「剣の間合いに入った瞬間に思い切り剣で突けッ!」

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

「GULUAAAAAAAAUッ!!」


 間合いに入った瞬間、僕の剣はフォレストドッグの身体を貫いた。だけどまだ終わりじゃない。僕のすぐ右まで近づいていたフォレストドッグの牙が僕に剥きだされる。


「剣を右に薙ぎ払えッ! そのまま続けて剣を犬に向かって振り下ろすのだッ!」

「ふっ……!」

「GLUA!?」


 こと切れたフォレストドッグの死体が突き刺さったままの剣を思い切り右側に振り抜き、迫り来ていたもう一匹のフォレストドッグを吹き飛ばす。まだ僕の剣は止まらない。右下にある剣を斜めに振り上げながらフォレストドッグを切り裂いた。


「G……LUAA……」

「ふぅ……何とか勝てた……」


 僕は剣に突き刺さったままのフォレストドッグの死体を振り払うと、残りの二匹と共にまとめて【アイテムボックス】の中に放り込み、剣を鞘に納めた。


「……」


 思わず自分の手を見る。今の戦闘、僕はあれだけ素早い動きをするフォレストドッグ相手に動けていた。とてもではないけど、にわかには信じ難い。僕は小学校の通知表では体育の実技が常に三角だった男だ。自分で言っていて悲しくなるけれど、僕は運動神経が悪い。それなのに今、僕は易々とフォレストドッグをいなし、勝つことが出来た。


「驚いているようだな」

「アレク、これは一体……」

「それがステータスの恩恵だ。初めてジンに出会った時にステータスを確認させてもらったが、全てのステータスが最低のG-だった。それが今ではどうだ、持久や敏捷、筋力のステータスがこの世界に来る前に比べて飛躍的に上昇している。だからお前はあれだけ動けたのだよ」


 英雄ヒーローになりたいと願い、アレクはそれを手伝うと言ってくれた。でも、やっぱり実感が湧いてこなかった。でも、今僕は確信した。

 僕は……僕は確かに強くなっているんだ……!


「さあッ! どんどん魔物を狩りに行くぞッ! ジンッ!」

「うんっ!」


 僕達は更に森の奥へと踏み込んでいく。本来の目的であった依頼のことなど忘れて。

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