第22話 実々:二日目のカレーは最高


2018年11月21(水)


 「カレーチーズトースト最高っ!」


 あーちは笑顔を弾けさせながらトーストを頬張っていく。

 私も返事のかわりに一口頬張りながら頷いた。


***


実々の小話 カレーが食べたかった。


 亮と結婚して1ヶ月と少し経った後に亮の転勤が決まり、私たちは福岡へと行くことになった。

 以前にも話した通り私と亮は味覚の好みも違っていて、カレーも私は甘口〜中辛の間、亮は辛口、といった感じだ。


 「甘いカレーはカレーじゃない。カレーは外で食べるから作らなくて良い」と、亮に言われ、私も私でカレーライス一つ食べなくても他にも沢山料理があるから問題ないと思い、結婚してから一度も食卓にカレーが上ることはなかった。


ーそして結婚してから4ヶ月くらい経ったある日ー


 …カッ、カレーが食べたい、カレー、カレー、カレー、カレー、カレー……と、私の頭の中がカレーでいっぱいになった。

 何故だか急にカレーが無性に食べたくなる病になってしまったのだ。

 病を治す方法は一つだけ…カレーを作って食べることだった。

 レトルトを買えば良い?ノンノン、自分で作ったカレーじゃないとダメなのですよ。

 あの固形ルーで作ったカレーが食べたいのですよ。リンゴと蜂蜜のあのカレーを。


 しかし、私には大きな障害が立ち塞がっていた!……亮だ。


 私は母にLINEで相談をした。

 『カレーがどうしても食べたい!だけど亮に甘いカレーはカレーじゃないから作るな!って言われているからどうしたら良い?』


 そして暫くするとから返信啓示があった。

 『カレーに個別で振りかける辛くなるスパイスも一緒に買っておけば良いじゃない』と。


 私は急いでスーパーへ自転車を立ち漕ぎして向かった。

 先ず向かう先はカレールー売り場だ!


………


 あった!!黄色い箱のパッケージのカレールーが!

 何故だろう…とても懐かしい感じがして、箱を手にとった瞬間に胸が温かくなった。

 そしてそれをそっとカゴの中に安置し、カレールーの棚の上の方に目線を上げると………それはあった。

 少しお値段が高い。ルーよりも高い。

 しかしこのカレーが食べたい衝動はもう誰にも止められないッ!

 私は意を決してそのスパイスを手に取りカゴに入れた。……もう引き下がれないッ!!


 そう、今日の晩ご飯はカレーライスしかないのだから。


 久しぶりのカレー作りだった。

 玉ねぎが目に染みたが今日だけは喜びの涙ということにした。

 小澤家はお肉は合い挽きで、私は玉ねぎは薄切り、人参は銀杏切りにして尚且つ薄めに、ジャガイモは溶け込む用に少し小さめに切ったのと、最後まで残るように大きめに切ったのと2種類の大きさにする。…懐かしい。


 カレーなんか食べないでも大丈夫だと思っていた自分が恥ずかしい。

 なんだかんだ大好きだったんだと離れてから始めて気付いちゃうアレだ。


 そしてカレーは完成した。


 本当は甘口オンリーが良かったが、せめてもの譲歩で中辛と甘口のブレンドにしておいた。

 家族2人しか居ないのに調子に乗って12皿分作ってしまったが…。

 そして待ち人、亮が帰ってきた。


 遂に、運命の時が訪れた……。


 亮のテーブルの上に例のスパイスをセットしておく。

準備はOKだ。

 ご飯とルーを盛り付け席に着く……手を合わせて、


 「「いただきます」」


 ……ぱくり。

 カ、カレーだぁぁぁぁぁ!!

 あのいつもの自分が作ってたカレーの味だぁー。

 美味しいッ、美味しいッ、美味しいよぅ……と、私の中のリトル実々が喜び、咽び泣いていた。

 そして目の前の人物をそっと伺い見た。

 …サラダを食べていたようだ。

 そしていよいよその時が……


 パクッ……。


 「……うん、美味しいじゃん。甘いカレーはカレーじゃないって思ってたけど、またこれはこれで色々な味がして良いね」


 と、コメントされた。…少し鼻についたが我慢する。

 そして一皿目はスパイスをかけずに完食した。

 二皿目にスパイスをかけたら食べるスピードが三倍上がった…赤い彗星ってやつか!?

 まぁスパイスがあればカレーも食卓に上げても良いということだろう。

 カレー美味しい。

                end.


***


 「そう言えば、多神さんが今日は夢に出てこなかったわ」


 あーちがトーストを頬張りながら思い出したように口を開いた。


 「あーちに毎日構ってる程皆暇じゃないから」


 …恋してるの?

 多神さんも何の神様かは知らないが毎日あーちの夢の中に行くほど暇ではないだろう。

 それに多神さんにとってあーちはストレスの元凶であろう人物なんだから。

 

 「うちだって毎日会うのを待ち焦がれる程暇じゃないから」

 

 あーちは少し怒り気味に返してきた。

 でも夢の中でも忙しいっていうのも変だろ。寝てるんだから。

 そんなあーちは話題を変えるように、


 「みーちは今日は何するの?」


と、聞いてきたので考えるまでもなく、


 「昨日、一昨日の続きの本を読む」と簡潔に答えた。


 ……お昼はカレーうどんにしよう♡



*****


夕方になり恒例のその時が来た。


 「でっきたー!みーち読んでみてー」

 

 …これだ。


 「はいはい」



……………。[わたにほの内容]



 「どうどうどう?」


 あーちは早く早くと急かすように聞いてきた。


 「はい、質問」

 「一色実々君!」


 挙手すると、あーちは国会の議長みたいに指名してきた。

 議員 一色実々それでは質問させていただきます。


 「1グループ大体何人くらいで生活してたの?あと平均寿命ってどれくらい?日本全体の人口は?」

 「はわはわはわ…」


 私が矢継ぎ早に質問すると、さっきまでの議長の威厳があっという間に剥がれ落ち、残念あーちが現れた。

 『はわはわ』言いながら微弱に震えている。

 そして悔しそうに、


 「分からん!テント的なものが10基程ってあったから、うちは多くても50人くらいだと思う。平均寿命も人口も縄文時代にならないと分からない!うちの勉強不足です…。」と、告白した。

 「あ、そう」


 …いっそ清々しい開き直りだった。

 分からないことを分からないという勇気は良いと思います。


 「みーちの疑問に答えられない理由の1つかもしれないけど、日本列島に旧石器の遺跡が少ないのは何でだと思う?」


 なんでか?そうねぇ〜…。


 「うーん…地殻変動で深く埋まったか、昔に燃料として使ったとか?それか、海面が上昇して沈んだか…」

 「なななななななっ!」


 あーちが今度は激しめに震えだした。

 …あーちの中で地殻変動が起こっているのか?そして少し涙目だ…。


 「列島の土は火山の影響で酸性のものがほとんどで、骨や角は溶けて無くなっちゃったの。だから酸に強くて残った石製のものだけで判断しなきゃいけないんだって。で、みーちが言ったように温暖化による海面の上昇で旧石器の人々の生活は海底に沈んだの」

 「ほほーう」


 おっ、当たってた〜!嬉しい!!


 「海の底ってロマンティックだよねー。トレジャーハントしたくなるよねー」

 「ならない」


 うん…ならない。

 何万年も前なら、もうプレートの動きや海底火山とかで掘れないとこにあるでしょ。

  

 「ここで朗報です!なんとっ、これで人類史の99%が終わりましたー!」

 「うわー…」


 うわーだわ。

 人類の歴史は短い。地球の誕生を1月1日の0時00分すると人類の誕生は12月31日の20時頃らしい。短い。もう紅白始まってるよ。


 「次からは1%の中身を全力でやってくってことで」


 あーちはその1%にこれから苦しめられるのか…。


 「んー頑張れ。晩御飯は?」


 私は晩ご飯で応援してあげよう。リクエスト承ります。


 「スパ!」

 「鮭マヨスパね」


 シャケフレークとマヨネーズ、鰹節と醤油で簡単美味しいスパゲッティが出来上がります。彩りにほうれん草を入れると華やぎますよ。(3分クッキング風)


 「スーパスーパッ!パスタぁ♪」

 「音痴止めろ」



2018年11月21(水)


 今日もお家に籠って本を読んで過ごした。

 明日は買い物に行きたい。

 二日目のカレーはやっぱり美味しかった。カレーうどんも好き♡

               end.

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