気づいたら国がヤバかった!



 お墓参りに来ただけの筈なのにめちゃくちゃ疲れた……


「お父さんもお母さんもここにいるんだよね?」


 仕切り直して真剣な表情でルカに訊くと、ルカも黙って頷いた。

 お花もお線香もないけど、やっと逢えた。


「…………」

「ファム?」


 気づいたら涙が溢れていた。

 お父さんとお母さんがこうなっちゃったのも、全部わたしのせいなんだ。わたしが神子として生まれて来ちゃったから……ごめんなさい。お父さん、お母さん。こんな娘でごめんなさい……


「ていっ!」

「ギャフッ!?」


 ルカに首根っこ掴まれて墓石に頭を打ち付けられた。今のは確実に物理ダメージ無効が入ったね。


「何するの!」

「うっさいッ! ファムのお父さんとお母さんはファムのそんな姿みたいわけじゃないんだよッ! たとえ命を失ってでもファムの喜んでるところが見たいの! 自分たちの苦労は無駄じゃなかったんだって、どうして教えてあげないのッ!? 二人の気持ち考えてみたらッ!?」


 お父さんとお母さんの気持ち……


「……そうだよね。ごめん、ルカ」

「まったく、これだからファムは……。そういう時はごめんじゃなくて、“ありがとう”でしょ!」


 ルカがわたしの頬っぺたを両手で圧迫してきた。


「あ、ありがとう……」


 わたしがたどたどしく言うと、ルカは満足そうにしていた。ちょっと恥ずかしいかも。


「ファム、良い友達だな」

「うんっ!」


 兄さんに訊かれてわたしは笑顔で答えた。ここ十年で最も明るい笑顔だった。


「お父さんもお母さんも心配しないで大丈夫だよ。わたし、今とても楽しいからッ!」








「王国軍とか絶対つまらないしヤダ」

「おいコラ。さっきまでの笑顔はどこ行った?」


 王国軍のクソみたいなお話に全部持ってかれた。

 話を戻すと、わたしと兄さんはお墓参りから帰って早々にルカと村長さんからこの国の現状を聞かされた。兄さんはこれもゲームにあるイベントだって言って納得してたけど、わたしにとってはそうでもなかった。

 サキュバスに乗っ取られたユグドラシル王国。頭のイッた王子が国王となり、その配下たちもまた、一部を除いて頭がイッていた。

 そんな国だから、税が飛躍して平民たちが貧乏になっていったらしい。

 そして現在、この国に住む大半の男はサキュバスに操られているか兵士になっており、他の国に侵攻しようとしている。

 この村は元々わたしが住んでいた恩恵があったおかげで何とか難を逃れているらしいけど、もう限界に近いんだとか。

 そこで村人は考えた――――

 神子の恩恵があればサキュバスに対抗できるのではないか、と。


 そしてわたしは素直に思った――――


「ち○ち○切ればよくない?」


 ――――――っと。

 実際に口にしたら「女の子がそんな下品な言葉を言うんじゃありません」って色んな人に怒られたけどね。

 でも1つの解決法としてはそういうものがあるという認識で間違ってない。まあサキュバスが取り憑いているあの頭のイッた王子は刈り取られること確定なんだけどね。

 じゃないとサキュバス倒せないし。


「そもそもわたし、もう魔法が使えないからサキュバス退治なんてできないんだけどね」

「ファムは変な所で冗談言うんだからぁ~」

「神子様とはいえ、心臓に悪いご冗談はお控えください」

「ホントだよ?」

「…………」

「…………」


 ルカと村長さんが現実を受け入れてなかった。ちょっと前までならサキュバスを剥ぎ取って神聖魔法をパーンッて撃てば終わったんだけどね。今のわたしは神子の力にある一つの『魔除け』ぐらいしかサキュバスには意味を為さない。


「どうか神子様の兄上様! 我々を救って戴けないでしょうか!」

「ああ……良いけど……ちょっとこっちへ」


 兄さんが村長さんを連れて部屋の隅に移動した。何かお話をしてるみたいだったけど、声が小さくて聞こえなかった。

 その間ルカはわたしをモフモフし、わたしはケーキをモフモフしていた。


「ファムはこんなにモフモフしてるんだね」

「ケーキの方がモフモフだもん」


 わたしがパチンッと指を鳴らすとケーキは元の姿に戻った。


「デカっ!?」

「ケーキはスゴいんだよ」

「絶対最強クラスの魔物じゃん!」


 フェンリルは魔物じゃないもん!

 それからお話が終わり、とりあえず近くにある別の村を点々と渡って転移できるようにしつつ、王宮を目指すことになった。

 王宮にたどり着いたら国王の股間を破壊して女神官辺りに浄化してもらう。……という工程を兄さん一人でやることになりました。


「俺一人かよ!?」


 わたしだって動きたいけど、下手に行動できる立場じゃないのは明白。王宮に着いたら兄さんが転移魔法でわたしを神殿まで連れて行ってくれれば良いだけの話。

 女神官ならわたしが居ればすぐに付いてきてくれるだろう。毎日イヤな顔一つせずに身体を拭いてくれた仲だからねッ! 食べ物はくれなかったけど!


「じゃあ兄さん、いってらっしゃい。ルカ、馬でも出してあげなよ」

「わかってるわよ。村長さん、あとはお願いね」


 あっ、丸投げした。わたしが名指しで言ってあげたのに丸投げした。

 兄さんが村長さんに連れられて部屋を出ていくと、ここぞとばかりにルカはわたしのことを抱き上げた。


「ちょっと、子供じゃないんだけど」

「五歳だってさっき言ってたじゃない。それに娘が居たらこんな感じなのかなって思っただけだし、いいじゃない」

「…………は?」


 今、なんて言った? ルカだよ? あのルカが『娘』っていう単語を発したような幻聴が聞こえてきたんだけど?


「あれ? 言ってなかったっけ? 私、息子いるよ?」

「どこにッ!?」

「家だけど?」


 信じられないと疑ったわたしは村長の家を出てルカの家へと訪れることにした。


「ママおかえり!」

「ただいまカズヤ」


 ルカのことをママと呼び、抱きついたわたしよりもちょっと小さい男の子。ルカはその子をカズヤと呼んだ。


「だれの子供?」

「私のよ?」


 …………


「……うっそだぁ~」

「事実よ」


 はい?

 全てを理解するまでに三十分ぐらいかかった。

 だってあのルカだよ? 今のわたしよりもちょっとだけ身長が高かったルカが結婚? 何の冗談ですかって感じじゃない?


「ちなみにいくつ?」

「今年で三歳ね」


 ルカはもうすぐ十六歳だから十六歳と仮定して、子供が三歳ってことは……十三歳で子供を産んだってこと!?


「わたし聞いてないよ!?」

「そりゃ内緒にしてたし」


 なんで!?


「ファムが帰ってきたときにサプライズしようと思ってね」

「サプライズは嬉しいけど、わたし虚無ったからね? そのサプライズ本来なら台無しになってるからね?」


 サプライズよりもどちらかといえば素直に言ってくれた方が嬉しかったかな。そしたらおめでとうの一言ぐらいは言えたのに。

 あっ、『虚無った』っていうのは「虚空に飛ばされて無に帰った」の略語ね。最近テレビで覚えた。


「虚無ったって……よく生きてられたね」


 地球のことを知らないはずのルカに通じてちょっと驚いた。


「まあね。この世界から切り離されてから魔法は使えないし、神技の反動は酷い上に、この姿になっちゃったけど、何とか生きてるよ」

「じゃあ、あまりここには居られないんだね」

「うん、そうなるね」


 ルカたちはプレイヤーのことを把握していた。一定期間だけこの世界に来ることができる掃除屋さんだと考えてるらしい。

 あまり遅くまでログインしていると、夕飯に遅れちゃってお義母さんに怒られる。だから、ある程度時間が経ったら兄さんが迎えに来てくれる筈だ。


「あっ、一緒にお風呂でも入る?」

「狭いからいいよ」


 どうせ、切り株にお湯を入れただけの簡易風呂なんだし。子供二人で入ってた当時ですら窮屈に感じたんだから、ルカが大きくなった今じゃ入れないんじゃない?


「遠慮しないでよー。私たちの仲でしょ? 久しぶりに裸の付き合いといこうじゃないか!」

「え、ちょっ、マッ!?」


 ルカがわたしとカズヤを抱っこしてお風呂がある場所へと直行して行った。

 いや、さすがに三人は狭いからッ!! 三人は狭いからダメだってッ!


 お風呂は何とか三人で入りきった感じで、めちゃくちゃ狭かった。

 カズヤのイチモツがわたしの腕に当たった時は驚いてルカに抱きついたよ……



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