わたしとプラムさんのだいぼうけんっ!


 プラムさんと奈落の底へと落ちてしまい、兄さんたちと完全にはぐれてしまった。


「とりあえず、先に進もうか。何処かに出口があるかもしれないから」

「うん……」


 わたしは、プラムさんに手を引かれて唯一残っている通路を歩き出した。

 その通路は先ほどまでとは打って変わって、まるで何かが居ると言わんばかりの雰囲気が漂っており、昼間と同じぐらい視界が安定していた。


「即死級のトラップだったらどうしよっか……」


 へ、変なこと言うのやめてよ!?

 わたしアレだよ!? 子供だから物理攻撃受けないんだよ!?

 それって、串刺しにされても死ねないってことだからね!?

 わたしは、恐怖のあまりにプラムさんに抱きついた。

 プラムさんは怯えながらも、わたしの前で恥ずかしい姿は見せられまいと、頑張って歩く。


「お、お姉ちゃんがついてるからね?」


 プラムさんがそう言うと、正面から何かが唸るような声が聞こえてきた。


「ピヤァッ!?」


 プラムさんと同時に、互いを抱きしめた。

 この何もない空間であの唸り声は怖いよ!


「ケーキぃ……」


 ケーキのことをギュッと抱きしめる。

 ケーキは、くぅ~んと子犬のような可愛らしい声で鳴いた。ちょっと強く抱きしめていたようで、ケーキがとても苦しそうだった。


「あっ、ごめんね……」


 ケーキを床に降ろすと、ケーキは先陣を切って進み始めた。ケーキは、たまに止まってはこちらを振り向いて一回吠える。

 たぶん、安全だっていうことを伝えているんだと思う。

 わたしとプラムさんは、怯えながらもケーキの先導によって少しずつ前へと進み出す。

 ケーキの頼もしさからか、先ほどよりも足が進む。


「頼もしいね。……プラムさんよりも」

「お姉ちゃん失格だよね……」


 そもそもお姉ちゃんって名乗って良いとは言ってないんだけどねッ!

 まあ、全ての元凶はこのわたしだから、深くは追及できないんだけど。


「なにこの扉?」


 めちゃくちゃ厳重そうな扉があり、そこには二匹の蛇と一匹の亀が描かれていた。


「この亀はプラムさんのことみたいだね」

「イリヤちゃんッ!?」


 この亀さん、二匹の蛇に挟まれてるし、この先待ち受けているのはなのだろう。

 あの蛇さんが魔法による攻撃が扱えることを祈るばかりだね。

 もし使えなかったら、プラムさんがさっさとリタイアしてわたし一人残される形になっちゃう。お腹の中に飲み込まれることも覚悟する必要がある。


「行くのやめない?」


 プラムさんからの提案。わたしは、当たり前のように首を横に振った。

 当然なことだけど、こんな所で待っていても助けが来るのはかなり先のことになる。

 この不気味な空間に居たくないし、何より早くしないと夕食の時間になってしまう。だから、早急に帰る必要があるのだ。


「ふにゅ~~~~~~ッ!!!」


 と、扉が重くて開かない……

 プラムさんは、行きたくないみたいでわたしが振り返ってもそっぽ向いてしまった。

 わたし一人じゃこの扉は開けられないと高を括っているのだろう。

 だが、現実は非情だ。


「ケーキ」


 わたしは、指をパチンっと鳴らす。

 プラムさんは何かわかっていない様子だったけれど、ケーキは何をすれば良いのか瞬時に理解して子犬の姿から元の姿……フェンリルの姿へと戻った。


「扉をぶち壊してっ!」


 わたしが命令すると、ケーキは扉に手をついて扉を押し倒した。

 プラムさんは、何が起きているのか思考が追い付いておらず、ポカンとしていた。


「プラムさん、何してるの。早く行くよ?」

「ちょっと待ってよ!? それなに!?」


 わたしがケーキの背中に乗ってプラムさんに話かけると、混乱しているようだった。


「ケーキ」


 ケーキがフェンリルだってことは内緒。

 フェンリルってめっちゃ恐ろしいワンちゃんだって、絵本で読んだから。鬼さんみたいに退治されちゃったら困るし。


「いや、名前を訊いてるんじゃなくて!」

「ケーキはケーキだよ。ね?」


 ケーキの首を撫でながら訊くと、ケーキは鳴き声……というか呻き声に近いけど、それっぽいものを出して強く頷いた。


「違う。私の知ってるケーキはイリヤちゃんがモフモフしているマスコットキャラなはず。こんな変な呻き声は出さない」


 プラムさんがブツブツと何か呟いていたけど、そんなことを話してる暇もない。

 わたしは、ケーキに合図を送るとケーキはわたしを乗せたまま、扉の奥を進み出した。


「あっ、ちょっと待ってよ!?」


 しばらく進むと、前方に何やら怪しげな宝箱が1つだけ置いてあった。


「なにそれ?」


 わたしが訊くと、ケーキは宝箱の臭いを嗅いだ後に、宝箱を咥えてわたしに投げてきた。


「開けろってこと?」


 ケーキに訊くと、ケーキは頷いた。

 めちゃくちゃ怪しいけど、もしかしたら奥に見える扉の先にいるであろうボスを攻略するために必要なものなのかもしれない。

 わたしは、覚悟を決めて宝箱を開く。


「まぶしっ!?」


 宝箱を開くと同時に強い光が放たれた。

 光が収まり、わたしはゆっくりと目を開く。


「……なにこれ? 笛かな?」


 アイテムボックスを確認すると、この笛は『リコーダー』っていう楽器らしい。


「で、何に使うの?」

「イリヤちゃん、その中に紙が入ってるよ」


 プラムさんに言われて宝箱を覗くと、一枚の紙が入っていた。楽譜みたいだ。


「どうやって吹くの?」

「私が吹いてあげるから、ちょっと見てて」

「うん」


 プラムさんにリコーダーと楽譜を渡すと、プラムさんは楽譜を見ながらリコーダーを口に咥えた。

 えっ、もしかしてそういうプレイ!!? なんでこんな所でやってるの!!?


「?」


 プラムさんの謎プレイに驚いていると、リコーダーからは知らない音楽が奏でられた。

 ずいぶんと古風なイメージのする曲だ。まるで蛇をこちらへと呼び寄せているようなイメージがさせられる。

 ……蛇?


「プラムさんそれやめて!」

「へ?」


 わたしが言った瞬間に壁から大きな蛇が現れた。

 ケーキは、プラムさんを咥えて全力で走り出す。わたしは、ケーキから振り落とされないように必死に掴むことが精一杯だ。

 それでもかろうじて後ろを振り返ると、大蛇が一直線に迫っていた。


「ケーキ、もっと速く! 追いつかれちゃうよ!」


 ケーキは、一心不乱に走り続けた。わたしはというと、一人でギャーギャー騒いでました。プラムさんは意識がなかった。

 この人、さっきから足手まといだよね。

 ……はっ!?


「もしかして、わたしがお姉ちゃんだった……?」


 って、そんなこと言ってる暇じゃないよ!


「ケーキ! あそこ!」


 真っ直ぐ進んだ先に開けた空間があった。

 ケーキはそこに向かって走り、抜けた所で横に跳び、大蛇にパクリと食べられることを逃れた。

 大蛇はわたしとケーキを見つけると、その長い舌を出した。


 撤退不可の鬼畜ダンジョンの戦いが今、幕を開けた――――!


「インフェルノブレス」



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