はじめてのおつかい!
わたしは、はじめてのおつかいで卵を買うためにお義母さんの働くスーパーマーケットを訪れていた。
わたしの目の前では、近所のおばさんたちがタイムセールという言葉を前に乱闘を繰り広げている。
わたしは、あの中に行ったら生きて帰って来られる気がしない。
「まだ結論付けるのは早いかもっ……!」
モノは試しだ。やってみなければわからない。
わたしは、ゆっくりと人集りに入って卵が入っているであろうワゴンへと向かう。
く、苦しい……でも、身体が子供だったのは幸いだったかも。
子供になって身長が低くなったわたしは、おばさんたちの足下を潜り抜けてワゴンを目指す。
もし、わたしの身長が十五歳のままだったら、一瞬でペットボトルロケットのように外へと弾き出されていただろう。
「あとちょっと……」
最後のおばさんを潜り抜けて、わたしは、ワゴンの中を覗く。
「……あれ?」
わたしの予測では、卵があった筈だった。けれど実際にそこに置いてあったのは、卵ではなく、動物のお肉だった。
「50?」
値札の上に謎の数字が書いてあった。なんだろう、この数字……?
わたしは、お肉の入ったパックを手に取って首を傾げた。
「ちょっと取ったなら邪魔だから退いて!」
「ふえっ!?」
首を傾げていると、わたしはおばさんに投げ出されてしまった。
人集りから投げ飛ばされてしまったわたしの手には、しっかりとお肉の入ったパックを持っていた。
このお肉、どうしよう……。
「…………」
いや、違う。問題はそこじゃない。
最悪このお肉はその辺の棚にでも置いておけば良い。
それよりも問題なのは、本来の目的である品物……卵だ。卵を買いに来たのに、卵があると思っていた場所に卵がなかったのだ。
いったい、わたしの卵はどこに消えてしまったのだろう……?
スーパーマーケットは、それなりに大きいけれど、一周することぐらいならわたしでも可能だ。
「とりあえず、探してみよう!」
わたしは、足を動かして卵探しの旅に出た。
しばらく歩いていると、わたしはあることに気が付いた。
「野菜しかない……」
なんでこんなに野菜ばっかなの!?
この辺は野菜しかないのかな!? はい、そうですか! 知りませんよそんなこと!
そりゃ同じ所ぐるぐる回っていても、見つかりませんよねッ!?
王宮生活のときに
それがまたわたしを混乱させる要因にもなった。
「あれ? もしかしてファム?」
「えっ……?」
後ろから話しかけられて振り向くと、そこには店員さんの格好をしたお義母さんがいた。
テレビでやってた潜入捜査ってヤツみたいだ。
よくわからないけど、王宮生活の頃にメイドさんの格好して地下牢をうろちょろしてた人を思い出したよ。
地下牢で待ってるとあの人、よくお菓子くれたんだよね。
口止め料とか言ってたけど、いったい何の口止めだったんだろう?
まあいいや。もう王宮とかわたしには、関係のないことだろうし。
「ファム、どうしてここに? お父さんは?」
「おつかい! 卵買いに来たの!」
わたしがお義父さんから授かった小さな巾着袋をお義母さんに見せると、お義母さんは偉いねと言ってわたしの頭を撫でた。
「卵どこにあるかわかる?」
お義母さんに訊かれてわたしは、首を横に振る。
「じゃあ連れて行ってあげるね」
ここに神が居た。
わたしのお悩みを一瞬で解決してくれたんだけど!? ありがとうお義母さんッ!
お義母さんの手によって、わたしは卵を入手することに成功した。
「お義母さん」
「なに?」
「これ、どうしたらいい?」
お義母さんに先ほど間違えて手に入れてしまったお肉を見せる。
「そ、それ……どうしたの……?」
お義母さんが手を震わせながら訊いてくる。何かマズイことでもしてしまったのだろうか?
でもまだお会計はしていないよね? なら怒られることはない、はず……
「あそこのワゴンに卵があると思って行ったらお肉しかなかったんだけど……って、お義母さんどうしたの?」
「スゴいじゃないッ!! ファム、それはタイムセールで僅か五分も経たずに消えた幻の肉よ! 破格の安さから求めない主婦はおらず、誰もが求める聖杯と化していたの。ファムはその聖戦の勝者なのよ!」
わたし、戦に勝ったみたいです。……何の戦かは知らないけど。
「それも買って帰ってくれる?」
「うん、わかった!」
「お金は足りる?」
お義母さんに訊かれてわたしは、巾着袋の中身を確認する。
巾着袋には、一枚の紙が畳まれた状態で入っていた。わたしがその紙を取り出して開いてみると、伝説の『諭吉』がそこにあった。
「う、うん?」
卵ってそんなに高価なものだっけ……?
お義母さんが溜息を吐いて、わたしの肩を掴んできた。
「お会計しよっか」
「うん!」
お義母さんは、卵とお肉を持ってレジへと向かった。
「お釣りは落したら危ないからお母さんが持ち帰るって言ってた、ってお父さんに伝えてくれる?」
「うん、わかった!」
「帰るまでがおつかいだから、気をつけて帰ってね?」
「はーい」
お義母さんから卵とお肉の入った袋を受け取ってスーパーマーケットから出た。
わたしが外へ出ると、待っていてくれたビスケットがわたしの元へ寄ってきた。
「ニャー」
「待っててくれたんだね。じゃあ、帰ろっか」
「ニャー!」
わたしは、一直線に進んだ先に見えるお家を目指して歩き出す。
お家へと向かうと、家前で兄さんとばったりと出会った。
「あれ? 兄さん、おかえりなさい」
「ファム!? お前どこに行ってッ!?」
「え? そこのスーパーだよ?」
「スーパーだとォッ!?」
兄さんがわたしの肩を掴んで、大きく揺らしながら大声で言ってきた。
兄さん、キャラ変わった?
……じゃなくて兄さんもお義父さんと同じで過保護なの?
「過保護な兄さんなんて、大っ嫌いッ!」
「ゴフッ!?」
吐血したッ!?
「ご、ごめんなさい兄さん。少し言い過ぎたよ……。少しなら過保護でも良いから……ね? 今度は一緒におつかい、行こっ?」
「そうだな。一緒に行こうな?」
兄さんは、ケロッとしてニッコリ笑顔を決めてきた。
「あ、あれぇ……?」
もしかしてわたし、兄さんに上手く嵌められた?
……そんなわけないか。わたしの兄さんだもん。そこまで賢いわけがない。
わたしは、お店の扉を開いて、兄さんと共に家へと帰還した。
「ファムを一人にするとか、父さんも頭がイッてるな」
兄さんの声が聞こえたような気がして後ろを振り返るけど、兄さんはニッコリした笑顔でわたしのことを見ていた。
んー……? 気のせいだったかな?
まあ、いっか。
「ただいまー!」
「おかえりなさい。無事に買えたか?」
「うん!」
わたしは、お義父さんに買ってきた卵とお肉の入った袋を渡した。
「……お肉? というかお釣りは?」
「お義母さんがお釣りは重たいだろうからって、あとで持ってきてくれるって言ってた」
お義父さんは、まるで宇宙を想像しているような表情をして涙を流していた。
いったいどうしたんだろう……?
「ファム、俺は父さんと少し話があるから先に二階へ行っててくれ」
「うん、わかった」
わたしは、兄さんに言われて二階へと向かった。
さて、今日もゲームするぞぉ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます