幼女になりました!
わたしの名前はファム・ブライド。ユグトラシル王国の端にある小さな村で産まれた女の子だった。
お父さんもお母さんも優しくて、わたしたちはいつも仲良しだった。
でも、わたしが五歳になったあの日にわたしは騎士の人たちに連れ去られた。わたしを守ろうとしたお父さんとお母さんはその場で殺されて、わたしも殺されちゃうんじゃないかって思った。
王宮の人にわたしは神子だって言われた。「神子は何でもできるんだから今すぐ作物を生やせ」とか「神子なんだから俺を金持ちにしろ」って無理なこともたくさん言われて、できないって言ったら石を投げつけられて「この嘘つきめッ!」って怒鳴られた。
国王様と王妃様は神子のことを詳しく知っていたから親しく扱われていたけど、その息子であるローランド殿下からは忌み嫌われていた。
「どうしてこんなヤツが神子なんだ。お父様もお母様も平民の何処が良いと言うのだ」
たまにあるお茶会でいつもそんなことを言っていた。
田舎に住んでいた平民のわたしが王宮にいるのは好ましくないのだろう。着ている服だって何一つお洒落すらさせて貰えずにボロボロのワンピースを着回している。
少し前までなら何とか耐えられたけど、国王様も王妃様も戦争で亡くなってわたしへの抑止力も消えた今、殿下はわたしのことをより粗末に扱うようになった。
誰一人として愛してくれる人が居らず、誰一人として助けてくれる人が居ない世界――――――
こんな世界、いったい何が楽しいの……?
◆
眩しい太陽に当てられて、わたしはゆっくりと瞳を開いた。
「…………んぅ?」
ここは、どこだろう?
ずいぶん柔らかいベッドだ。香りも悪くなく、寝心地も非常に良い。馬小屋の藁とは雲泥の差だ。
もう少し寝ていたいかも……
横に寝返りを打って再び瞳を閉じようとしたときにわたしは気づいた。
わたしの手ってこんなに小さかったっけ?
わたしの目前にある手はぷにぷにしてて、いかにも子供みたいな手をしていた。
しばらく自分の手を見つめる機会なんてなかったけど、もう少し大人びてて大きかったような気がする。
あぁ、お布団温かい――――
またあとで考えればいいや。
わたしが再び深い夢の底へと沈んで行こうとすると、ガチャリと扉が開くような音がして目を開いた。
部屋に入って来たのはわたしよりも一つ年上の16歳ぐらいの青年。青年はそのまま一直線にわたしの元まで歩み寄ってきた。
「目覚ましたか?」
「えっ?」
黒髪に黒い瞳を持った青年が着ていた服は一風変わっていて、変な違和感を覚えた。
それでもなお、その変な服装は顔立ちの整った彼に似合っていて、きっちりとした清潔感を感じさせる。
めちゃくちゃに金色の糸を使って仕立て上げられた服を身に纏っていた殿下がゴミのように思える。
「キミ、名前は?」
「ファム――――ファム・ブライド」
青年はわたしに名前を訊いてきたので、わたしはそれに淡々と答える。青年は「やっぱり外国の子か。でも日本語は通じてそうだ」と小声で呟いた。
わたしをここに寝かせてくれてたのはこの人なのかな?
「両親はどうした? 一緒じゃないのか?」
わたしは首を横に振る。
15歳の女性が常に両親と一緒にいるわけがないでしょ。15歳と言えば婚活真っ只中だ。わたしには無縁の話であったが、同い年で両親と行動するような人は居ない。
そもそもわたしの両親は生きてない。
「家がどこにあるかわかるか? だいたいで良いから……」
王宮……って言ったら今まで通り、元の生活に戻ってしまう。
たまたま虚空から免れることができたというのに、舞い戻ってしまったら意味がない。今度こそ本当に虚空送りにされてしまう。ここは知らないフリをするべきだ。
幸いにもこの人はわたしのことを知らないみたいだし、神子であることは内緒にしておこう。
わたしは首を横に振って知らないフリをする。
「……仕方ない、あとで父さんたちと警察に行って引き払って貰うか」
引き払うッ!?
神子も嫌だけど、奴隷はもっと嫌なんですがッ!?
そ、それだけはご勘弁を! わたし奴隷になんかなりたくないッ!!
「ふえっ――――」
視界が涙で滲む。あの王宮から逃げられた安心感から涙脆くなっているようだ。
あぁ……これ、抑えられないやつだ。
「おいっ、ちょっと待っ――――」
「ふええぇぇぇぇんッ!!」
涙が溢れ、大洪水のように止まらない。
青年はどうすれば良いのか戸惑って近くにあったモルモットのぬいぐるみを手に取った。
「大丈夫モルよッ!」
いきなり裏声でそんなことを言う青年を見て、わたしはポカンとした。
動物のぬいぐるみを人に見立てて、あたかもぬいぐるみが喋っているかのように見せかける非常識的なことはそうそう思い付くことではない。
「じぃー…………」
わたしが青年を好奇的な目で見ていると、青年は恥ずかしそうに後ろを向いた。
その発想力が実に興味深い。是非とももう一度お聞かせ願いたい!
「もっかい言って」
「いやだ」
「もっかい言って!」
わたしが強くお願いすると、青年は大人しく観念したようで、溜息を吐いて「これで最後だからな」と言った。
青年はスゥ、と息を吸って準備を整えた。
「大丈夫モルよッ!!」
「
青年の奇妙な声と同時に部屋の扉が開き、青年の母親らしき人物が部屋に入ってきた。
母親の存在に気づいた青年は顔を真っ赤にして「じゃ、じゃあ俺、下行ってるから!」と言って部屋を出ていった。
「あの子もまだまだ可愛い所あるのね」
青年のアレは家族にも内緒にしている個人で発達した独自の文化なのだろう。端から見れば恥ずかしい存在であるのは明らか。あの青年はしばらくこのネタで弄られることになると思う。
なんか、ごめん…………
「歩ける?」
母親がわたしに顔を近付けて訊いてきた。体調は別に悪くないと思うし、いつも通りだ。特に問題はない。
わたしは頷いてベッドから降りる。
……このベッドと母親、スゴく大きいな。巨人族の家だったのかな?
「行きましょう。お腹空いたでしょ?」
「えっ? そんな迷惑を――――」
わたしがお食事までは断ろうとすると、お腹がぐぅ~と鳴った。
どうしてこのタイミングで鳴るのわたしのお腹ぁ~ッ!
「気にしないで良いの。こんな小さな子を空腹にさせてる方が可哀想だもの」
こんな小さな……? わたしはこれでも成人済みだよ?
――――って、巨人族から見ればわたしは小さいのか。ここまで気を遣わせておいてご馳走にならないのは逆に迷惑のような気がする。
「……お世話になります」
「言葉遣いが上手なのね」
わたしは母親に連れられて部屋を出る。部屋を出たら正面に階段があり、そこを降りると玄関があって大きな鏡の前を横切った。
「えっ?」
たまたまわたしは横を向いて鏡を見た。
鏡の中には透き通るような金色の髪に宝石のように光る黄金色の瞳を持ち、真っ白なマシュマロ肌に薔薇色の頬と口唇をした可愛らしいぷにぷに幼女が居た。
「ええぇ――――――ッ!!!?」
か、身体が縮んでるゥ――――ッ!!!?
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