ゲームの世界から追放されたら、幼女になって受肉したので地球でのんびりと暮らしたいと思います。
名月ふゆき
プロローグ あっ、この国滅んだね
ここは『とある世界』にある国の1つ、ユグトラシル王国。
その国の王宮でたった今、事件は起きた。
「作物を荒し、この国に災いをもたらした偽りの神子ファム・ブライド。本日を持って貴女の役目は終わりだ」
王太子であるローランド殿下の言葉を聞いて、わたしは驚きのあまりに言葉が出なかった。
「殿下。どうしてそのようなお考えを?」
わたしは神子だ。神子は自然に愛され、動物たちにも好かれやすい神の子供。その者が住まう地には奇跡がもたらされ、植物が花を成すと言われている。
つまり、わたしがここに居なければこの地は植物1つ育つこともできない荒野となり果てるということだ。殿下の発言はこの国を崩壊させると言っているに等しかった。
「惚けるのもいい加減にしろ。貴女が神子としてこの地に住まうようになってから、何もなかったと言うのか」
はいっ! 事実何もありませんでしたッ!
自然災害による被害は歴代の神子と同じように何事もなかった。
だが、半年前に終結した戦争で多くの作物が焼きつくされ、この国は経済的な大ダメージを受けた。
神子の力だって万能ではない。植物に火を着ければ燃えるし、水を与えなければ枯れる。
神子にできることは地震や火山の噴火などの自然災害発生の抑制と作物がおいしい果実を成しやすくすることだけだ。
「お言葉ですが殿下、戦場を農村地にすれば復興までには時間が掛かることぐらいご存知だったはずです。それでも殿下は多くの民を守るため、あの地を戦場に選んだのではないのですか?」
わたしは身に纏う安っぽいワンピースの袖をぎゅっと握りしめながら訊ねる。
神子のわたしが殿下にできる、最大限の説得だ。あまり言い過ぎると不敬罪とか言って神子であろうと首が飛ぶ。
「貴女が本物の神子なら一月程度で元に戻せるであろう!」
興奮している殿下が意味のわからないことを言っており、わたしは「何を言っているんだコイツ」みたいな目で殿下の顔を覗いた。
いくら神子が自然に愛されてようと、一月で大樹が元通りになるだなんて無理がある。
大樹だって何百年、何千年と時間をかけてあそこまで大きくなるのだ。
一月であの大きさになるというのなら、この国は今頃、草木はボーボーで、大樹まみれになっている。
「殿下、わたしにそのような力はございません」
「だろうな。貴女は所詮、偽者の神子なのだから」
殿下の後ろからコツコツと誰かが歩み寄ってくる音が聞こえてくる。
「彼女が本物の神子、サキ・ユバースだ」
殿下の後ろから姿を現した赤髪の女性は窮めて露出の高い服装をしていて、背中からは禍々しい翼と怪しげな尻尾を生やしていた。
いや、それどうみてもサキュバスなんですけど――――ッ!!!?
っと、思わず口に出してツッコんでしまうところだったが、何とか堪えた。
おそらく殿下は催眠でも受けたのだろう。サキュバスは虜にした男を自在に操ることができる。
主な撃退法は二つのみ。
1つは操られた男が悟りを開くこと。性欲を失った男にサキュバスは興味を示さなくなる。
2つ目は先ほどのサキュバスの特性を利用して男のアレを切り落とすことだ。
サキュバスは取り憑いている時にダメージが入らない。おまけに護衛の騎士たちも何も言わないことから、彼らも洗脳済みであることは容易にわかる。
そして、唯一頼れそうなこの国の玉座に座るべき者はもうここには居ない。
この様子だと、わたしに味方となる人物は居ないようだ。
「……わかりました。わたしはこの国から出ていきます。それでよろしいでしょう?」
「いいや、違うな。お前は『虚空』行きだ」
「――――ッ!?」
わたしは逃げ出そうとしたが、サキュバスに引っ捕らえられ、動けなくされた。
『虚空』は死すらも拒み、永遠の苦しみを与えるとされる場所であり、虚空に関する魔法は全てこの世の禁忌とされている。
わたしが捕らえられている間に殿下は詠唱を始める。すると、1つの巨大な門が現れて扉が開く。
扉の奥は何も見えない完全なる闇の世界。わたしはその光景を前に身体が震えた。
「門は開いた。我々を騙し続けたこの偽者に裁きを与えよ!」
門がわたしを吸い込もうとしてくる。
――――神様、わたし何か悪いことしたのかな?
小さい頃から神子だとか言われて神様扱いされてきたけど、実際にできることは普通の人と何も変わらなくて……それを伝えただけなのに、相手は嘘を付かれたと言って石を投げてくる。
神子が居るから人々は希望を持っている。人々が欲望を持っているから神子に絶望して神子を苦しめる。
『神子』っていったい何なんだろうね?
もし、どんな願いでも叶うとするなら今度は神子が存在しない世界で多くの人々に触れてみたい。『
そんな想いを胸にわたしは虚空へと引き摺り込まれ、まるで身体の一部が吸い取られるような感触に陥り、あまりの気持ちの悪さから意識を手放した――――――
◇◇◇
日本に住む、一般人の青年は母に手伝わされて、この晴れた暖かい日に洗濯物を干していた。
「この靴下くっさッ!? ちゃんと洗濯されてんのか? もう一度洗濯機回すように言って来るか」
そのとき、青年の近くにある少し大きめの木から何か大きなものが茂みの陰にドサッと落ちるような音がした。
「……なんだ?」
青年は音の聴こえた方へ歩み寄って行く。
「これは――――――――事案だッ!?」
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