召喚されたら○○するまで帰れない
天猫 鳴
第1話 開琉、初めて召喚される。(1)(改)
「ではラギ、召喚獣を探しておいで。無事に戻れるよう祈っているよ」
師匠はそう言ってラギを異界へ送った。
魔法を使える種族ならいくつかある。しかし、魔法使いとして仕事を得るにはそれを証明する物が必要だ。
異界の生き物を召喚獣としてこの世界に引き寄せる力、それは魔法使いとして認めるに値する認定カードのような物だった。基本的な魔法が即座に使えるかチェックされ、試験の最後の最後が召還すること。
合格すれば魔法使いのローブを着ることが出来る。それは魔法協会認定の証。
もう合格は目の前だった。
(晴れて魔法使いとして認められる!)
ラギは意気揚々と異世界へ繰り出した。
送り出されたラギはいくつかの世界を転々と探し回っていた。だが、どの世界に飛んでも閑散としていて召喚獣になりえる者の姿すら見つけるのが難しかった。
「なんだこれ、ずうたいばかりデカくて無能そうだ」
やっと見つけたのは巨大なムカデに似た生物、相手を威嚇するには使えそうだった。しかし単純な会話しか出来ず感情が読みにくいのが難点でやめた。
その後もいくつか見つけたけれど、小さすぎたり臆病者だったりで納得のいく生き物になかなか出会えない。時間ばかりかかってラギはだんだんイライラしてきていた。
「もっとまともなのはいないのか?」
召喚獣を見つけて戻るだけ・・・・・・のはずが、こんなに難航するとは思ってもいなかった。
「ん? あれは・・・」
ある異世界でラギの目にひとりの生き物が目に止まった。
「サイズはいい感じ、体の造りもまぁまぁという所か」
ラギの世界にいる“人間”という種族によく似ている。
遠くからラギがじっくり観察していたのは、とある世界の太陽系にある地球という星に住む生き物。
「この世界は俺の世界によく似ている。あれは今までの生物に比べたらましかもしれない、コンタクトとってみるか・・・・・・」
遠くからラギに
(またこっちを見てるよ)
子供を遊ばせているママ友グループに先程からチラチラと盗み見られていた。なるべく目立たないようにそっとしているつもりなのだが、平日の午前中に学生服姿はやはり目立つ。
(こっちのことは気にしないでくれよぉ・・・)
心の中で溜息をもらし、ママ友グループの目を気にしてないふりでビスケットをひと口かじる。
たまたま鞄に入っていたビスケットに救われる思いがした。何かを食べているだけで気が紛れたし気持ちも少し落ち着いてきていた。
子供達を遊ばせながら集まるママ達はこちらを見ながらこそこそと話を続けている。
(落ち着かない、家に帰ろうかなぁ)
中途半端な時間から学校へ行けば色々とつつかれそうだし言い訳を考えるのも難儀な話だ。しかし、家に帰ったら今度は母に捕まってあれこれと聞かれるに違いない。
(あぁ・・・・・・もぉ・・・)
小柄な中学生がひとりで公園にいる図は母親達の目には虐めを受けて登校できずにいるように見えるだろう。それは当たらずとも遠からずといった所だったのだけど。
「はぁー・・・。こんな事なら学校行けばよかったな」
いたたまれない。
今更後悔してもしょうがないがこぼれる愚痴に開琉の眉間にしわがよる。
(あれはマズかったかなぁ・・・・・・)
ベッドに潜り込んでしばらく経った頃、ふと気になった些細なことを思い出してまたため息をもらす。
「もしかしたらあの受け答えはまずかったかもしれない」
本当に些細なことだ。しかし、クラスカーストトップの機嫌を害する受け答えじゃなかっただろうかと思うと不安になった。
もしかして・・・と考え始めたら止まらない、気にしたらきりがない事を分かっていてもつい思考が止まらなくなる。
「今日、学校へ行ってもし皆から無視されたら」
そう思うと怖かった。
全て自分の想像にすぎないのに学校へ向かう足が重い。そして、その足が止まった。登校途中で見かけたクラスメートが目をそらしたように見えたから。
「気にするからそう感じただけで、偶然たまたまだよ」
打ち消そうとしたが上手くいかなかった。いったん引っかかってしまったものは拭っても残った汚れのように心に張り付いてなかなか消えない。
(夜の間に根回しが済んでしまったのかもしれない。今日から孤立した日々が続くかも・・・!)
パンパンになった不安から逃げるように開琉は公園へ駆け込んだ。それから数時間が経ち後悔の念が頭をもたげる。
「意外に大丈夫だったかもしれないのに・・・な」
開琉は足下に目を落として更に滅入った。
(自分が思うほど気にしていなかったかもしれない、思い過ごしだったら馬鹿みたいだ)
そう思ってももう遅い。
(母さんの質問責めに答えられる言い訳も考えなきゃならないし、それとクラスの皆にも適当な答えを・・・)
そこまで考えて開琉は髪の毛をくしゃくしゃにする。
「ああ! 面倒くさい!」
開琉はうじうじ考えている自分が嫌だった。ジロジロ見てくるママ連中を気にしていることも、母を気にして家に戻ることすら出来ない自分にも腹が立つ。
むしゃくしゃして落ち着かなくてベンチでジタバタする。
(嫌だ嫌だ嫌だ! ああ! 面倒くさいッ!)
再び頭を掻きむしる開琉を見て、
「大丈夫かしら・・・・・・」
遠く離れたママ達の声が聞こえて開琉は動きを止める。関係のない他人にさえ変な人物だと思われたくない。こんな時でも心の何処かでそう思っている自分がいる。
(何やってるんだよ! ああ、もお!)
苛々する。
鞄へ手を伸ばし衝動のままに地面へ投げつけたい、開琉の伸ばした手が鞄に触れた時。
(ん?)
開琉はぎくりと手を止めた。
地面に落とした視界の中に誰かの足が見えた。視線を上げるとすぐ前に子供が立っていて、ただ黙ってじっとこちらに体を向けている。
(こんな子供・・・・・・公園にいたっけ?)
背の低いラギは小学校低学年くらいに見えた。開琉と2メートルと離れていない位置に立つラギは、濃い灰色のローブをまといフードを目深に被って顔を隠したままじっとしている。
(何かのゲーム?)
変わった格好のラギからは不思議な気配が漂っていて開琉は目が離せなかった。
(何だろう、変な子供だな)
黙ったままのラギを前に、開琉はどうしたらいいのか分からず困っていた。
「なにか用?」
子供の相手などしたことがない、したことはないが優しそうな声音で聞いてみた。返答は無い。
開琉は座っていたがラギの顔はよく見えなかった。フードに隠れて鼻から下しか見えない事がかえって興味をそそられて、開琉は座ったままゆっくり頭を下げて覗き見る。
(エッ!?)
開琉はぞっとして身を引いた。
(なに? 今の! 目が・・・)
金色に光る瞳、縦に延びた瞳孔が
(嘘だろ? 嘘だ・・・見間違ったんだ、きっと)
我が身を抱きしめて開琉はひきつりながらいま見た物を否定した。
「た・・・食べる?」
子供にビビるなんて・・・と思いつつ張り付いた笑顔でビスケットを差し出す。気持ちを落ち着けたい、この空気を切り替えたかった。
震える自分の声を耳にして開琉は笑ったが、その顔はひきつったままだった。
「あぁ、知らない人から物もらっちゃ駄目だよね」
開琉の苦笑いが虚しく場を埋める。
ラギは身じろぎもせず観察を続け、開琉はラギを見つめたまま強ばった顔で固まる。
(何がしたいんだろう?)
「卵アレルギーとか・・・あるのかな?」
開琉は張り付いた作り笑いのまま、それでもラギの顔が気になって徐々に上半身を屈めた。怖い物見たさもあったに違いない。
この目でもう一度確かめたい、あれは見間違いだったと安心したかった。
「僕に何か・・・用かな?」
再び同じ事を聞きながら開琉が覗き込み、開琉の視線を避けるようにラギが顔を背ける。こちらに用がありそうなのに問いかけには答えずただじっとしているラギに開琉は不気味さと苛つきを感じた。
(何がしたいんだよッ)
妙な沈黙が続く。ラギはとりあえずこの生き物で手を打とうと思い始めていた。召喚獣の良し悪しよりも試験の合格が先決だ。
落ち着かなくて愛想笑いをしている開琉に、ラギが一歩近づき手を差し出す。その手には一枚のカードが握られていた。
「な・・・何?」
開琉は顔の真ん前に差し出された物を寄り目で見つめ、指でつまんだ。開琉が手に取った途端、ラギは
「あっ、ちょっと」
思わず立ち上がった開琉がその場に立ち尽くす。追いかけて返す・・・までの気持ちには至らずラギの背を目で追った。
「これ、どうしろって?」
狐につままれたような顔の開琉を残したまま、ラギはあっという間に公園から出て行った。呆けた顔で手に残された物に目を落とす。
「あぁ、カードゲーム・・・。懐かしい、でも見たことのない絵だな」
表裏を確認してみたが開琉の見たこともないカードだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます