第3話 誰かの為の学園生活
「貴女、絶対フィンでしょ!?」
聞き覚えのある単語に、私は確信をもって叫ぶとフィンは悪びれずに頷いた。
「ええ。顔も髪型も前世と同じ仕様でしょ?」
「仕様って……」
はぁと大きなため息が漏れるのも致し方ない。
「何がどうなってるか、もう予想もつかないんだけど……」
何で、フィンがいるんだ。
少なくとも、飛ばされたのは私一人な筈でしょ?
同時に何かに巻き込まれた?
それとも、まさかあのゲームをプレイしている全員がここにいる、とか?
セーラもその一人、かも?
あり得ない話じゃないが、少し現実味に欠けている気がする。勿論、何処かの世界に飛ばされたってのも充分に現実味のげの字もないけどさ。
2回目だとこんな事もあるかなって気もして来るよな。人間って不思議。
でも、何で……。
いや、待てよ?
「何で、私がビール二本開けてるの知ってるの?」
可笑しいだろ。
今朝の、いや、この世界ではないけど、それは今朝の出来事で、私はそのことを誰にも言った覚えはない。
「メールしたんですよ。ケーキ買って、そちらに向うと」
「え? メール?」
「既読が付かなかったので見られていなかったのでしょうね。呼び鈴を何度鳴らしても出なかったので、入らせて頂きました」
フィンには何かあったらと、私の家の鍵を渡してある。
どうやらその合鍵を使って入ってきた様だ。
「……私の部屋に入ったのはいいけど、何故貴女がここに居るの?」
私の部屋、異次元の入り口だったけ?
「付いてきただけですよ。ローラ様に」
「……どうやって?」
「そこに居る、ローラに頼んで」
そう言って、フィンがセーラを指差す。
ん?
え?
は?
はぁ?
「……ローラ?」
そう言って私がセーラを見ると、セーラは同じ顔をえへっと照れた笑いを見せる。
否定しない?
つまり……。
あー……っ!
わかった。
全て、何となく、分かった。
「そう言えば、本当の愛とか教えろとか言ってたわね……」
つまり、こう言うことか。
「貴女がゲームのローラって事?」
「はい、オリジナル様。素早い理解流石でございます」
これまた、にこーっと嬉しそうな顔して。
「で、ここはゲームの中でいいの?」
「はいっ! お察しの通り、オリジナル様が保有しているゲームの中です」
「私の?」
つまり、ここはゲームの中で、セーラと名乗る双子の妹はゲームのローラであると言う事。
ゲームの中、それも私がプレイしてるゲームの……。
「現実味が無さすぎる……」
何だ。この怪奇現象詰め合わせは。
「ええ。私も驚きましたよ。ローラ様の部屋に入るなり、ローラ様を抱えたローラが画面に入ろうとしてるんですもん。飛んだ呪いのビデオですよ」
「……そんな運ばれ方してたの?」
「私も気が動転して、思わず台所にあった包丁をローラの首に当ててしまいました」
「思わずにしては適切すぎるし、何より連れ去られてる所見かけたら止めてよ!」
何で一緒の世界に入ってくるかな!?
「いや、面白そうだったもので」
「騎士は面白さを優先しないでしょっ!」
面白そうって何だよ。
「まあまあ、落ち着いて下さい。ローラ様の命の危機だとかであれば私もその場でローラの首を……、ああ面倒くさいな。ここではセーラと名乗っているんですっけ? セーラの首を撥ね飛ばすつもりでしたが、事情を聞けば実にしょうもない事だったので問題ないと判断したんですよ」
しょ、しょうもないなら止めてよ!
でも、安心安全のフィンセキュリティが許可したぐらいなのだから、安全は安全だと思って良いって事?
「あの時のフィン様は聞きしに勝るぐらい怖かったです……」
「……お願いして入ってきたわけではなく、脅されて入ってこれたが正しいのがよく分かったわ。取り敢えず、私本当に何も知らないんだけど、しっかり説明してくれる?」
「ええ、勿論。では、場所を移動しましょう。ここでは色々と問題があると思うので」
フィンの言葉で周りを見渡せば、真新しい制服に身を包んだ他のご令嬢やら貴族達がヒソヒソと私達を見ている。
「そういえば、今日入学式なのよね?」
「ええ。ゲーム一日目の朝ですよ」
「私、ローラよね?」
「……ええ。そうですね。それが何か?」
「いや、入学式って何か色々あった様な気がするのよね。役割果たさなくていいのかなって」
「ああ。矢張り、ある程度は推測されていますね。流石、ローラ様。昔のローラ様に会えた気がします。取り敢えずは話を聞いてからでもいいと思いますよ。役割を果たすのも果たさないかを決めるのも」
「昔の、私ね……。何処に移動するの?」
「中庭の方にでも行きますか。あそこならば、人は少ないでしょうに。セーラ、問題ないですか?」
「はい。大丈夫です」
何か、おかしな会話だな。
しかし、今は突っ込む事はそこでは無いのだ。
私達はフィンの提案通りに人のいない中庭に入りいつかの噴水の前に立つ。
「うわぁ。懐かしい。ここは昔のままじゃない」
「そうですね」
「本当に人がいないわね」
「居なくても大丈夫なんですよね? セーラ」
「はい。大丈夫ですよ」
また、おかしな会話だ。
「では、ここで話しましょう。ローラ様は何処まで覚えてらっしゃるんですか?」
「私? ローラが……、いや、ここでのローラは私か。えっと、セーラが画面の向こうから出てきて、本当の愛を教えて欲しいって言ったところまでね」
「覚えているではありませんかっ!」
そう言って、セーラは私の手を握る。
「え? ええ、でも、それだけよ?」
「セーラ、ローラ様から離れなさい。どうやら説明不足の様ですね。それは結論ですよ、ローラ様」
「結論?」
「つまり、目的です」
目的。
成る程、私がゲームの中に呼ばれた目的がセーラに対して本当の愛を教えるって事か。
「成る程、と言いたい所だけど、どう言うこと? 私がセーラに愛を教えるって口頭でも十分だし、元の世界で出来るじゃない。貴女、外に出れるんだから。そもそも、私が現代に戻ったときに貴女は消える間際に自分もただのプログラムに戻ると言っていたけど、それはどうしたの? ただのプログラムが現実に出てこれる筈ないでしょうに」
「思考の補足要求が凄いな」
「当たり前でしょうに。訳が分からず、こんな所まで来ているんだもん。まずは現状把握でしょ? ある程度、見えてきた道筋を固めていきたいわ」
「そうですね。オリジナル様には、あの時が最後でしたからね。オリジナル様もご存知の通り、私は、私の役目を果たして消えゆく筈でした。私を作ってくれた創造主、いいえ。ランティス様とタクト様の願い通り、貴女を導き役目を終えたはずでした」
私も、現世に戻ってランティスとタクトと話した時に初めて知っだのだが、セーラは二人が、いや。それでは随分と語弊がある。
正しくは、このゲームはランティスとタクトが二人で作り出したゲームなのだ。
私が過去に戻っても迷わない様に。
私が生きた歴史が変わらない様に。
二人は、私を導くためだけに、私の言葉をもとにこのゲームを作り出した。
だからこそ、私があの時、セーラにヒントを貰ったと伝えた時は、ランティスもタクトも不思議な事があるものだ。だけど、それぐらい、お前を思って作ったんだ。彼女が道標になってくれて良かったと優しく笑っていた。
セーラは、創造主である二人の願いを叶える為に、私の前に現れたと言っていた。
彼らがどんな思いで、セーラを作り出したのかは私には分からない。けど、彼女は二人に確かに愛を感じていたのは事実だろう。
「貴女の前に現れたプログラムは消えて行き、私もそのまま電子の海に溶けるはずだった。だけど、残ってしまったのです」
「残ってしまった?」
「ええ。心だけが。心だけがポンツと残ってしまった」
そう言って、セーラは胸を抑えた。
「創造主様達が喜ばれている。オリジナル様が目を覚ましている。もう、私の存在理由はない筈なのに。心だけが消えずに残ってしまった。そして、その心が愛する人を見つけたのです」
「愛する人……?」
それって、まさか……。
「王子? ティール王子!?」
そもそも、ローラと言うキャラクターはティール王子を愛しているていで作られている。
実際には違うんだとランティスは必死に弁解していたが、上の方針でそうなってしまったと言う事実を加味しても、彼女の一番近くにいる異性はティール王子だ。
そのティール王子が、問題なのだ。
これは、止めたほうがいいのか?
いや、でも、ゲーム版の私と言えど、他人は他人だし……。
でも、あのティールだぞ?
悪いが、推しではあるが付き合いたくない人一位の座は揺るぎない。
「あの馬鹿王子が好きとは随分と物好きだな。馬鹿が移るからやめたほうがいいですよ」
「こら、フィン。諦めてもらうにも言い方ってものがあるでしょ?」
「諦めてもらうって、ローラ様も反対じゃないですか」
「そりゃ、ねぇ……。リアルでど凄い事やられ続けてきた身としてはお勧めしたくはないよね」
「それなら、尚の事はっきり言ったほうがいいですよ。回りくどいのは逆効果です」
「あのお二人とも何か勘違いされてませんか? ティール王子は、確かにカッコよくて強くて私の憧れですが……」
「強いのならば、うちのアスランの方がステータスが上ですけど?」
「かっこいいなら、いざと言う時に人を守れるアリス様の方が上よ?」
「お二人とも身内と推しを推さないで下さいませっ! もう。ティール王子が私の好きな人じゃないって話なのに!」
そう言えば、そうだった。
「ごめんなさい。ティール王子じゃないのね?」
「はいっ。違う殿方でございます。とても、優しくて頭が良くて、素敵な素敵な殿方でございます」
顔を真っ赤にさせながら、セーラが必死に愛おしい彼を褒める。
此処までくると、最早普通の女の子だ。
プログラムの欠片もない。
夢の中では散々罵って挑発してきたと言うのに。随分と可愛いところがあるじゃないか。
しかし、違うなら、誰だろ?
「タクトとかかしら? 彼、優しいものね。フィン」
「タクト? 誰です? 私は知らないですね。その勝手に爆発した眼鏡は」
「恨みが強い……」
でも、私が知らぬ間にそれぐらいフィンがタクトに心開いた証拠でもある。
あの研究棟に向かう間、向かった先に何かあったは私は知らない。聞いてもはぐらかされてしまうもの。
でも、多分。
フィンは心の底から楽しかった時間があったのかもしれないな。
「大体、優しくて頭が良くて素敵素敵なら、うちのアスランでは?」
「アスラン推すなぁ」
「私の可愛い弟分ですからね。ローラ様が外れているなら身内贔屓するに決まってるでしょ?」
「でも、確かにアスランは優しいよね。それは同意だけど、リュウも負けてなくない? リュウも優しいよね」
「あれは優しいだけの長髪野郎ですよ」
「意外にいい奴だけどな?」
「お二人とも、違います! もうっ! 優しくて、頭が良くて、とっても素敵な殿方なんて世界に一人しかいないでしょ!?」
「沢山いるからこんな事になってるのに?」
「このプログラム大丈夫か?」
「もーっ! お二人方が意地悪なのは分かりましたっ! 名前言いますから、しっかりとお聞きくださいねっ!」
「うん。わかった」
「早く言えよ」
「……さま、です」
は?
「声ちっさ!」
「しっかり聞かせる気が無いのでは?」
「お、お名前でお呼びするのが初めてなんですっ! 仕方がないではありませんかっ!」
えー。
そんな事で恥ずかしがる必要あるの?
「そ、それでは気を取り直して。リ、リ……、……ああっ! 駄目っ! 恥ずかしいっ」
「やっぱりリュウでしょ!? それ!」
「いや、アスランでは?」
「フィン、流石にそれは無理やりすぎよ」
リって言っただろ。
「違いますっ! 彼は、本当に優しくて、カッコよくて、頭が良くて……。大人の素敵な男性なんですっ!」
まるで、リュウは違うとでも言いたそうだな。
あいつ、結構リアルでもそれなりにスペックも高くていい奴なのに……。
「大人?」
「は、はい……。彼、年上で……」
「上級生ってタクトがローランドぐらいじゃない?」
「アランもですよ、ローラ様」
「ああ、義兄様ね」
「……ローラ様、流石に大きく出過ぎでは?」
「リアルでアリス様のお兄様と確定したもので」
推し兄は義理の兄でしょ。
「もうっ! オリジナル様もフィン様もわざとですよね!? 肝心な方を忘れていらっしゃるじゃないですかっ!」
「肝心な方?」
「誰かいましたっけ?」
「り、リドル様ですっ!リドル様の事、お忘れでは!?」
リドル?
「あ、数学教師の」
「いましたね」
つまり?
「セーラの思いの人はリドル先生って事?」
私がそう言えば、まるで茹でタコの様にセーラの顔が真っ赤になる。
え。何これ。同じ顔だけど、凄く可愛い。
「そ、そう言う事になります、ね……」
真っ赤になりながら、何とか出した言葉がこれか。
其処迄好きならば、確かにどうやっても意中の人と添い遂げたくなるかもな。
「……あれ?」
「どうしましたか? ローラ様」
「リドル先生って攻略対象だよね?」
「一応」
「一応ではないです! オープニングもセンターです!!」
「センター後ろだろ。現実見ろ」
「いや、それはどうでもいいんだけど、セーラが自分のキャラクターすら変えれる力技使えるなら、そのままプログラム書き換えてセーラと先生がくっつくルート作れば良くない? ファンとしては微妙な提案だけど、セーラとアリス様と置き換えるとかさ」
現実世界にも出しゃばれるスーパープログラムなら、それぐらい簡単だろう。
「あ、禁句を言ってしまいましたね」
「え? 禁句?」
「そんな事……」
そう言って、セーラは肩を震わせる。
あ、そうだよね。
セーラは、私の為に悪役令嬢をやらされているのだ。彼女は、私に過去へのヒントを渡す為に作られた存在。
それがアリス様と成り代わるだなんて、存在の破棄であり、冒涜だろう。
「ご、ごめんなさい。今のは軽はずみな発言だったわ……」
「そ、そんな事っ! 何億万回も試していますよっ! けど、一度も上手く行かないんですっ!」
そう言って、セーラは私の前に崩れ落ちる。
冒涜しまくるじゃん。いや、別にいいけどさ。目的も終わってますし。
しかし、煩悩に溺れてるな。このプログラム。
「だから、創造主であるランティス様と何百年越しに愛を成就させたローラ様に手解きをお願いしたく、ここに呼ばせて頂いたんですっ! 助けて、オリジナル様っ!!」
お、おん……。
思わずフィンを見ると彼女はいつもの無表情で首を傾ける。
「ね? 死ぬ程、しょーもねぇでしょ?」
「言い方っ!」
確かに、アレだけど!
「つまり、今回の私のクリア目標はセーラの恋を実らせる事って訳ね? ローラとしての役割なんていらないわけか」
「既にローラ様が現代に戻られた時点で、このゲームの悪役令嬢の役目は終わってますからね。どうします? 帰りますか?」
「別にこの三連休やる事ないからいいけど、三連休の間には帰してよ?」
「勿論です! 普通にプレイすれば、二十四時間も掛からずに終わりますし!」
「そうね……。ゲームの中だもんね。これ。フィンはいいの?」
「ええ。家族にはこの連休ローラ様の家に泊まると言ってるので。実質泊まってる状態ですし、大丈夫ですよ」
「我が家のゲーム機だもんな。はぁ。いいよ、セーラ。手伝ってあげるけど、上手くいくかはわかんないよ?」
「オリジナル様……っ! はい! 大丈夫です! ダメならリセットして次の連休にまたお願いしますっ!」
「すげぇゲーム脳だな」
「まあ、セーラ自体がゲームですし」
確かにそうだけどさ。
「そう言えば、フィンの左目はどうしたの? 怪我が何か?」
眼帯に隠されたフィンの左目を指差しながら私は問いかける。
これも密かな謎なのだ。
「ああ。そう言えば、私の役割を言ってませんでしたね」
「役割?」
「私は色恋沙汰には興味がなく、今回はローラ様にお手伝い出来ることが少な過ぎるので。歩くメニューになりました」
お、おん?
歩くメニュー?
え?
情報量多くない?
「ちょっと、意味わからな過ぎるやつ」
「セーラに頼んだんですよ。あの平和ボケしたゲームの中なら、剣術が必要ないので私の役割なんてないでしょう? 役に立たないのなら、メニュー画面使えるようにしてくれって」
「えー? そんなのアリなの? だったら私にも付けてよ」
「言ったでしょ? 私は貴女の歩くメニュー画面なんですよ。目玉一個潰さなきゃいけない仕様になってるので、ローラ様にはダメです。こんな綺麗な瞳を潰すなんて私が許さない」
そう言って、フィンは笑う。
「フィンの目も綺麗なのに?」
「私はいいんですよ。貴方の為にある身体ですから。それに、結構、ウザいですよ。常時こちらの目でメニュー画面が見えてる状態なので、無駄にステータスとか、キャラの位置とか、無駄な着替え機能とか見えるんです。だから眼帯で塞いでるんですよ」
「へー。でも、強くてカッコいいフィンが見れないのも残念ね」
「何を言ってらっしゃるのか。雑魚がいくら群がろうが、貴女の為なら目玉一つで十分ですよ。まあ、ギヌスぐらい強い奴がいるなら話は別ですが、キルトぐらいなら瞬殺出来るでしょ」
「私の騎士のステータスが高すぎる」
やはり、攻略相手にフィンも追加するべきでは?
「フィン様には、私が近くにいなかった場合にある程度ゲームで出来るユーザー機能は全て付与させて頂いております。何かご不便な点があればカスタマーセンターに……、あ、違うメッセージだ、これ。えっと、私にと申し付け下さい」
「あ、凄く今プログラムっぽかった」
「AIって奴ですよね。授業で習いましたよ」
「え? 今そんなのあるの? 凄いな」
「有りますよ」
でも、フィンが一緒に来てくれて助かったのは事実だな。
私一人では、少し心細かったかも。
あの時代に飛ばされた時、ずっと一人だったし。
「でも、コレで納得したわ。貴女達、人物感知マップがあるのね。だから、ここに誰もいないって分かってたんだ」
先ほどの会話の違和感を思い出しながら、私はウンウンと頷く。
「私のは攻略キャラと、関係者のみですけどね。セーラはこのシステムの中枢に位置してるので、全てを把握しているみたいです」
「え。何でそんな事出来るの?」
「創造主様の愛故にです。私、このシステムを作る前から一番最初に作り出されたキャラクターなので、施工段階から全て把握してるんですよ」
「そっか」
一番、最初に。
この世界を作る前から、私を……。
ランティスは……。
いや。ローラだから? ローラだから……。
「オリジナル様? 如何されました?」
「あ、ごめん。何でもないよ。で、これからイベント始まるけど、どうするの? スキップする?」
「それなんですが、流石に現実世界から連れてきたお二人がいるので、データ的には初期になっていてスキップ機能はオフになっているんですよ」
「初回スキップ禁止かよ」
「データ改竄でオンには出来ますが、元々が現実世界よりも早い時間経過がデフォルトになってますので、それ以上の倍速をかけるスキップは精神的にも現実世界のお二人にどんな影響を与えるか分からないので、今回はスキップ無しにしようと思ってます」
「なにそれ、怖いな。でも、そうね。それでいいか。それにしても、入学式なんて久々ね。楽しみになってきちゃった。ね、フィン」
「私は一年前にやったばかりなので」
「あ、学生だった……」
私にとっては久々の入学式なのは変わらない。なんせ、あの時代のローラでは入学式に間に合わなかったのだから。
「では、移動しましょうか」
「ええ。入学式の場所は、えっと……」
あ。
「あの因縁の塔ですよ。死場所に行くとか、中々無いですよね」
フィンは笑いながら言うが、そう言えば我々が死んだ場所じゃないか。
え? 行きにくいと思うの私だけ?
「さあ、ローラ様。初めましょう? 私も、結構楽しみなんですよ。ローラ様とまた一緒に学園にいれるのが」
そう言って、フィンが笑う。
そうか。
私一人では無かったのかもしれない。
もう二度と戻れないあの時間に恋焦がれたのは。
「そうね、フィン」
私はフィンの手を握る。
「今度こそ、学園生活を満喫しましょ?」
出来なかった、あの時代の忘れ物を取りに行く様に。
穏やかで、平和な生活を。
今度こそ、楽しみましょう。
次回更新は6/22(月)12:30ぐらいです
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