期待。【亀山×白田】
7月になり、梅雨も終盤。
連日記録的な大雨が続いている。
学校の廊下はなぜか空気が籠りやすいように感じる。
ここ最近のように雨が降り続くとなおのことだ。
歩いていると異常な湿度で余計な汗をかいてしまう。
廊下の突き当たりの教室の扉を開く。
生徒会室には既に亀山会長、会計の赤城さん、書記の岩崎君が揃っていた。
「白田さん、遅かったですね。もう今日の会計の仕事終わっちゃいました。」
「赤城さんお疲れ様。会長、今日はもう仕事は残ってないですか?」
「いや、ひとつだけある。」
そう言うと会長は机の上に大量のチラシの山を置いた。
「これは来週行われる夏祭りのチラシだ。これを手分けして校内の掲示板等に貼っていく。」
「こんなに貼る必要あるんですか?どうせリア充共しか行かないのに。」
「岩崎君、これも列記とした生徒会の仕事ですよ。」
「まあこれを全て貼ることはできないだろう。そこそこの量が残るはずだから、そうなったら持って帰るなり裏紙として使うなり使い道はある。」
「早速取り掛かりましょうか。」
「俺と白田が3・4階、赤城と岩崎が1・2階で別れて貼っていこう。」
会長と私は3階にチラシを貼っていく。
半分持ってきたが、それでもかなりの量だ。
これを用意した先生はこの極めて普通な学校を、この量がちょうどいいマンモス校か何かと勘違いしているのだろうか。
夏祭り。
私は行ったことがない。
遠くから花火を見たことはあるが、屋台を回るとか浴衣を着るとか、そういうのは一切してこなかった。
会長はどうなのだろうか。
夏祭りに行って、美しい花火に見とれたりするのだろうか。
「会長は、夏祭りに行くんですか?」
「テスト前だから行くつもりはない。赤城の件もあって生徒会の仕事に追われて勉強に時間を割けなかったからな。」
「そうですか。」
「白田は行かないのか?」
「私は夏祭り自体行ったことがないので行かないと思います。一緒に行く人もいませんしね。」
「そうか。」
微妙な空気が漂う。
階段ダッシュをする野球部の声や吹奏楽部の楽器の音がやけに大きく響く。
「なあ、白田。」
「何ですか。」
「もし、もしもだ、もしも俺が一緒に夏祭りに行かないかと行ったら、白田はどう答える。」
これは実質お誘いなのではないだろうか。
遠回しとはいえ会長から誘うなんて珍しい。
どういう風の吹き回しだろうか。
「行くんじゃないですか?」
「そうか。」
直接誘ってこない。
ごっつぁんゴールがキメられる最高のパスを出したはずなのだが、どうして蹴ろうともしないのだ。
「白田。実はさっき白田が来るまで3人で、生徒会役員で夏祭りに行かないかという話をしていたんだ。俺は乗り気じゃなかったから考えておくと言っておいたんだが、もし白田も行くなら行ってもいいと思っている。」
言い切ってから会長は恥ずかしそうに下を向いた。
これは実質告白なのでは...?
「会長、それって...。」
「い、岩崎が可哀想だからな。女子2人と男子1人だといずらいだろうから、仕方なくだぞ。」
「で、ですよねー。そういうことですよねー。」
あー、惜しい。
会長を追い込む前に手を打たれてしまった。
「で、白田は行くのか?」
答えは決まっている。
どんな理由であれ、本来会えない日に会長に会えるのだ。
行かない理由はない。
「行きます。だから会長も行きましょう。」
「仕方ないな。岩崎のために行ってやるか。」
会長は人差し指で鼻を掻きながら答えた。
高鳴る鼓動を抑えながら、私たちは校内にチラシを貼り終えた。
期待が膨らむ夏祭りまで、あと1週間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます