第4話 村の試練③

 ハンナの握り拳から生える刀のような形の碧の光は、刃渡り三十cmほどとやや短い脇差しのようで、振ると光の緒を引いて揺れる。


「今は見せる為に言葉を使ったけれど、治癒刀って言えば生成出来るよ」

「んで、綺麗なのはいいがよ、それ武器としてはどうなんよ実際」

「指差しの延長が基本的な目的だから、それは達成してると思うけど……どうなのハンナ?」

「問題無いよ。それだけじゃない利点がこの治癒刀にはあるわ。ちょっとリュウとクロヴィこっち来て無手で構えて」


 リュウは肩を竦め、クロヴィは眉を下げて難色を示した。ハンナは口角を上げてただクロヴィを見つめるだけで何も言わない。クロヴィは嘆息して立ち上がり、手首を回してリュウと対峙した。


「じゃあ二人とも無手だけど全力でお願い。怪我しても私が治すから」

「まあ、わかった」

「試練前に怪我なんてゴメンだが、巻き藁相手は飽き飽きしてたんだ。全力でいくぞリュウ」


 ハンナが何を考えているのかは分からないが、リュウは彼女の事を信頼している。この戦闘も意味があることだと。

 ハンナは胸に手を当て、内側から碧の光の塊を取り出しリュウとクロヴィを見る。


「オリジンコードの使用制限は2。行動力は?」


 オリジンコードというのは、全ての生物に宿る魂に刻まれたルールで、戦闘時はそれを利用して行動する。


「移動1、通常攻撃1」

「方向転換と防御、技能使用は2だっけか」

「数の繰り越しは出来ず、持ち数は常に2」

「じゃあリマルモの耐久値は?」


 リマルモとは生命に受けるダメージの身代わりをしてくれる四面体の石で、生まれたときに決まる適性によって耐久値が変化する。耐久値以上のダメージを受けると文字通り肉体が砕け散って最寄りの村に引き戻される安全装置である。


「剣士が三回、戦士が四回で魔術師と回復術士二回までだよね」

「宜しい。じゃあ初めて」


《■■■■》《transcendence mode …go!》


 先制はリュウだ。拳を突きだしクロヴィの頬を掠める。やはり得意武器ではない為に大きなダメージは見込めない。それに相手は戦士で正面からは不利だ。

 クロヴィの攻撃になり、腰を落として赤いオーラを身に纏う。戦士固有の踏ん張りである。それは防具を含めない肉体を僅かに硬くするだけで役に立たないと言われている技能。しかし利点として効力を重ねる事が出来る。

 リュウはクロヴィが頑強になっていく事を選んだと舌打ちし、クロヴィの側面に向かった。

 クロヴィは更に踏ん張りを選択し、赤いオーラを纏う。横目でリュウを見てにやりと不敵に笑う。

 リュウはクロヴィの背後に回り、拳を突き出す。本来ならば死角になる背後は無条件で大打撃を与えることが出来る。しかし相手は踏ん張りによって鍛えられた肉体の壁を持っている。後頭部の急所を捉えたはずだが、まるで防具を殴ったように硬く、思うようにダメージが通らない。

 クロヴィが方向転換してリュウと正面になる。

 詰みだ。振り出しよりも状況は悪くダメージの通らない壁が聳え立つ。クロヴィが拳を握って放つ真っ直ぐな突きは、リュウの頬を捉えて進む。


「ぐうっ!」


 手斧が得意武器のはずのクロヴィの拳はリュウの体力を1減らした。四面体の石リマルモが肩代わりしてくれるとはいえ痛みはある。

 どうせ負けるなら一矢報いたい。リュウは無手の両手を上段に構えて力を溜めた。次の攻撃が通常攻撃の二倍になるその行動は、一回行動制限されるだけあって確実に2を与えられる諸刃の刃だ。研ぎ澄ましクロヴィを見据える。

 続けてクロヴィががら空きの顔面にパンチ。無防備のため勿論耐久値を持っていかれる。

 リュウは両手の拳を全力で振り下ろし偶然にも3与えた。稀に起きる奇跡の一撃クリティカルだ。

 だがもう後はない。クロヴィがリュウを攻撃すればリュウの体は砕けちり、自宅でめが覚めるだろう。

 痛いのは嫌だなと悔みながらも覚悟を決めたがその時だ。

 いつの間にか隣に立っていたハンナがリュウに一回、二回通常攻撃した。


「おお? 回復した?」


 砕けそうになっていた四面体の石リマルモは、ハンナの攻撃で完全回復し、元の綺麗な形に戻っていた。代わりにハンナの手から生えていた治癒刀は霧散した。


「ちょっ! ええ? ハンナ、それ、ええ?」

「どう? 結構使えるのよ治癒刀。治癒刀の顕現は行動力2使うけど、回復術よりはほんの少しコスパいいのよ。最大二回までしかまだ使えないけれど、通常攻撃枠だから場合によっては瞬時に建て直せる」

「初めの顕現がネックだな。やっぱり刀は別に欲しいところだな」

「いきなり崩されることがないなら大丈夫でしょうけど、早めに刀は欲しいわね確かに」


 ハンナの乱入によって無効試合になった戦いは、元々ハンナの性能を確かめる為だったとリュウが思い出した事によって禍根なく無事終わりを告げた。


 

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