第2話 僕とタヌキの出会い  一目会った、その日から

 朝、目を覚ましたとき、ハっと横を見ると、そこには誰もいなかった。


いつもの自分の部屋。


何も変わったことなど無い。


そして僕は一人だった。


そうだよなぁ。


タヌキが風呂敷包み背負って押しかけ女房にやってくるなんて、有り得るわけないじゃん!


変な夢でも見てたんだ。


と、安心したその時、味噌汁のいい匂いがキッチンから漂ってきた。


何故だ? 


何故だ? 


僕は知らぬ間に誰か連れ込んできてしまったのか? 


まさか…


「えーーーーーーー!」


キッチンではエプロンをつけたタヌキが嬉しそうに朝食を作っていた。


夢じゃなかった…。


「すぐ出来るからねー! テレビでも見て待っててー!」


タヌキはニコーっと微笑みながら俺に言った。



タヌキに言われるがままにソファーに座りテレビをつけてみるが、僕はタヌキが気になってしょうがない。


流れているニュースの内容など、全く頭に入ってこない。


横目でタヌキをチラチラ見る。


見れば見るほどタヌキだ。


動物のタヌキというより、信楽焼きのタヌキだ。


でも毛はフサフサしている。


撫でたら気持ち良さそうではある。


いやいや、撫でてどうすんだ…。


「できたよー!」


ダイニングテーブルには美味しそうな朝食が並んでいた。


満面の笑みに誘導され、タヌキの作った朝飯を食べてみた。


豆腐とアゲとわかめの味噌汁。塩鮭、キンピラごぼう、冷奴と納豆、それに十八穀米のごはん。


…うまい…


ウムム…こいつタヌキのくせしてやるな!


「あの…その…、タヌキくん、料理上手ですね。」


「なにー! タヌキって、私タヌキに似てるのー? ウケるんですけどー!」


は? 


コイツ自分がタヌキだという自覚が無いのか?


「んー、でもそれはタヌキみたいに目がクリっとしてるって意味かな? ヒロキがそう呼びたいんだったら、それでもいいよー。あ、でもタヌキじゃなんだから、タヌ子って呼んで! うん、タヌ子って、なんか可愛くなーい?」


タヌキは一人でウケて一人で喜んでいる。


しかもいつの間にか僕の名前はもう呼び捨てになっている。


朝食後、タヌキは手際よく後片付けをして、部屋の掃除を始めた。


僕が身支度を整え終わるころには、部屋はスッカリ綺麗になっていた。


「もー仕事遅れちゃうよー!」


タヌキに背中をどんどん押され、あれよあれよという間に家を追い出された。


「いってらっしゃーい!」


笑顔でタヌキに見送られて、まやかしにかかったような状態で家を後にした。

 


しかし何故こんなことになったのか?


落ち着いて記憶を掘り返さねば。

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