平行世界というネタ
「はぁ・・・・・・そりゃ、そうだわな」
昨日撮った唐揚げの動画を観て呟き、コップになみなみ注いだ麦茶をごくごくと飲む。きっとこの動画は、かじやんチャンネルにおいてワースト一位の動画だろうな。ゴーヤチャンプルを作る動画はめでたくワースト1位から脱出だ。
さてこれから何を撮るか。ゲーム実況で一発逆転を狙うか?いや、ゲーム機を買わなければならないし、最近やりたいと思うゲームもないからな・・・・・・。
棚に置いていた漫画や小説をひっくり返し、アイデアを考える。この棚にある漫画や小説のレビュー動画はとっくに撮り終えている。今の編集技術を持って撮り直したらまぁまぁ再生数は伸びるだろうという確信はあるが、同じ内容になってしまうのがオチ。もっとこう斬新なネタはないものか。
とある小説を手に取った。それは主人公たちが時空を歪める装置を作り、それを利用して未来、過去、異世界、平行世界を行き来するという長編もののSF小説だった。僕はこういう時間の流れが滅茶苦茶に交差するSF物が大好きだ。タイムマシーンやブラックホールなど非現実的でありながら、まるで整合性があり実現可能だと錯覚するような理論を引っ提げて、主人公たちが葛藤する物語は僕の子ども心をくすぐる。映画や漫画、アニメ、小説などタイムリープ物であると聞かされれば観ずにいられない。そういえば最近、普通に宇宙を冒険する映画だと思って観ていたら、過去の時間と繋がって主人公が過去の自分を止めようとするシーンは感動したし、久しぶりに人に勧めたいなと思う映画だったなぁ~。
話を戻そう。つい考え事が長引くと話題が変わってしまう。これだからテスト勉強も長く続かないんだ。
「う~ん、タイムスリップか・・・・・・」
まさか、タイムスリップをする方法なんてないよな。PCを起動させ、いつも利用している検索サイトを使用してタイムスリップについて調べてみる。案の定、タイムスリップを調べれば、相対性理論だとか光の速さで~とかしか出てこない。確かに、都市伝説として未来から来た人がいるという話はよくあるネタだが、実際にどうすれば未来、過去に行けるのかなんて聞いたことがない。本当にタイムスリップができるのかを知るためには、猫型ロボットが未来から来てくれるところからじゃないと始められない。これじゃ動画のネタにもならない。
「う~ん。どうしたものか」
今日はバイトの日ではなく、かといって学校行事もない。だから暇である今日の内に、できる限り動画のストックを確保しておきたい。
「そうか、都市伝説の検証動画はどうだろうか・・・・・・」
今まで手を出してこなかったジャンルだ。僕は幽霊を信じないタイプなため、こういう企画には案外向いているかもしれない。生まれてこの方心霊現象に遭遇したこともないし、きっと命に危険を及ばない範囲であれば大丈夫だ。方向性は定まった。
「となると・・・・・・」
ホラー系、おもしろ系等。都市伝説と言えど、いろんなジャンルがある。検索サイトで一通り調べてみる。その中で一つの検索結果が目に留まる。
「パラレルワールドへ行く方法・・・・・・」
これは面白いかもしれない。自分がSF好きであることもアピールできるし、さりげなく好きな作品とかも紹介できるのではないか。さっそくそのURLを開き、行く手段についての方法をまとめる。
1、エレベーターを使う方法!
2、「飽きた」と書いて寝る方法!
3、鏡を使う方法!
どれも、物を新しく買う必要はなくて簡単にできそうだ。さっそく1のエレベーターを使う方法について調べてみる。
手順1:10階以上あるエレベーターを使用してください。
手順2:1階から一人で乗ります。
*途中で他人が乗ってきたら失敗しますので誰も乗らない時間
帯にやりましょう。
手順3:4階、2階、6階、2階、10階、5階の順番で1度もエレベ
ーターを降りずに移動してください。
5階に着くと帽子を被った女の人が乗ってきます。その人は異世
界への案内人です。話しかけてはいけません。
手順4:女の人が乗ってきたら、1階のボタンを押してください。
エレベーターは1階には向かわず、10階へと移動を始めたら
ほぼ成功です。
追記:10階に着くまでに他の階のボタンを押すと、パラレルワールド
へ行くのを中断できます。ここが中断できる最後のチャンスだ
とされていますので、覚悟のない方はここでやめましょう。
10階でエレベータを降りて、他に誰もいない世界へたどり着けた
ら、パラレルワールドへの移動が成功した証拠となります。
「えっ?10階以上の建物?」
このマンションは6階建て、あと4階分も足りないじゃないか。それに、誰もいない世界にいってしまうのは成功したとしても悲しいな。このエレベーターでいく方法は後回しだ。とりあえず今日中にできるものを考えないと。
次に2の「飽きた」と書いて寝る方法について調べる。
手順1:六芒星を書いた紙に「飽きた」という文字を書く。
手順2:枕元に置いて寝る。
「これだけかよ!」
紙とペンとベッドがあれば簡単にできてしまうじゃないか。動画映えさせるのは難しいかもしれないが、こういうオカルト好きな人には見てもらえるかもしれない。
追記:その紙に自分の願望を書き込めば、望んだ世界へ行くことができるらしい。
あっそれはおもしろそうだ。億万長者になった世界とか可愛い彼女ができた世界に行けるのか。成功したらうれしいことばかりじゃないか。まぁ、成功しないだろうけど・・・・・・。とりあえず、今晩これをやるとして、次の方法を調べよう。
3の鏡を使う方法
手順1:深夜2時24分に、手鏡を持ち、お風呂場の鏡の前に向かいます。
手順2:手鏡とお風呂場の鏡で合わせ鏡を作ります。お風呂場の鏡越し
に見える手鏡の中に悪魔が現れます。
手順3:お風呂場の鏡越しに悪魔と目を合わせると、別の世界へと吸い
込まれます。
これも簡単そうだな。でも深夜でないとできないということは、今日中に撮ることは不可能。明日の深夜にでもやるしかないな。本当ならストックを溜めたかったが、これだけは時間や設備の制限があるのは仕方がない。何か新しい商品のレビュー動画でも撮ってつなぐしかないな。
結局今日も夕飯のついでに新作商品の食レポ動画を撮ることにしたが、久々に撮りたいという動画のネタができ、無駄な一日ではなかったと思う。
さて、デジタルカメラをベッドが映るように三脚でセットし、脱ぎ捨てた服やごみなどを片付け、気持ちシーツに粘着カーペットクリーナーをかけておく。粘着カーペットクリーナー、通称コロコロ。正式な名称が知りたくて調べたが、そのまんまの名前で拍子抜けした記憶がある。
あとは調べた手順どおりに準備を勧める。白紙のコピー用紙をコピー機の中から取り出し、はさみで正方形に切り取り机に置く。マジックペンをその隣に置き、物品の準備は完了。このまま寝ることを考えれば、歯磨きとトイレを済ませておこう。
時刻は10時過ぎ。いつもの就寝より一時間は早いな。まぁ、早く寝ることはいいことだ、さっそく動画を撮りますか!デジタルカメラの電源をオンにし、机に置いていた紙とペンを持ち、ベッドに腰掛ける。大きく息を吸って吐く。
「どもー皆さん!かじやんですっ。前回の動画を観て頂いた方はお久しぶりです。初めての方は初めまして!ゆっくり観て行ってね!さて、今回の動画は都市伝説を検証してみたシリーズ第一弾!パラレルワールドへ本当に行く事ができるのかを確かめてみたいと思います!」
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