第109話 一騎当千

 ふわぁぁぁぁ。良く寝たぁぁぁぁ。


 葉っぱのベッドで、朝を迎える。

 フワフワして、香りも良く、気持ちがいい。


 里のウッドハウスで目を覚ますルリ達。

 透き通るような青空、澄んだ空気。金色に妖精が舞い、まさにファンタジー世界だ。


(こんな素敵な場所があるのね……。

 食べられちゃう? とか思ったけど、全部勘違いだったな……)


 食材にされると言う恐怖が杞憂とわかってからは、素材の味がふんだんに生かされた『アルラウネ』の料理を堪能。

 アルラネはもちろん、妖精たちとも交流を深めることが出来たのだ。



「おはよう、ゆっくり休めたね」

「うん、疲れが嘘みたいに取れちゃったよ」


「でしょでしょ、私の……妖精たちの料理はねぇ、身体が元気になるのよ! 感謝しなさい!」


「アルラネさん、ありがとう」

「ふん、アルラネでいいわよ。姉さんみたいにね」


 ルリ達の朝の会話に、アルラネが加わってくる。

 気に入ってもらえたようで、上機嫌だ。




 早速、出発の時間を迎える。

 この里は、妖精の魔法で守られているらしく、普通に出入りは出来ないらしい。

 妖精たちに里を任せると、ルリ達は森から出た。



 森の入り口近くで、護衛騎士と合流する。


「セ……セイラ様、ご無事で……」

「ごめんなさいね、女性だけでゆっくり楽しませてもらったわ」


「は……はぃ。……? それで、そちらのお方は?」

「うん、アルラネさん。ラミア達のお友達で、一緒に行動する事になったの。よろしくね」


 今度は男のヒト族、これも姉さんのお土産かしら、などと言うアラウネをなだめ、それぞれ紹介する。

 別にヒトを食すつもりは無いらしいのだが、アラウネ的には鉄板ネタらしい。



「フロイデン領に向かうわよ、出発!」

「「「おー!!!」」」


 馬車に乗り込み、街道を走り出した。

 同じ王国内なので、領の境に砦や検問などがある訳ではなく境目が明確になってはいないが、距離的には、フロイデン領は目の前だ。

 すぐに宿場町があるというので、そこを目指す事にしている。



 馬車の道中は快適だった。

 アメイズ領の周辺では、取り締まりが厳しくなっている為盗賊がほとんどいない。

 また、魔物も襲ってこなかった。……伝説級の魔物が3人も乗車しているせいかも知れない。

 数度の休憩と野営を経て、無事にフロイデン領に到着した。



「リフィーナ様、宿場町が見えて参りました。いかがしますか?」


 アルナの問い、それは、町への入り方である。

 それなりの大きさの町ならば、身分証の提示などが求められるが、冒険者と貴族では列が変わるのである。


 王都やアメイズ領であれば顔でバレているので貴族の列に並ぶ、……素通りできるのであるが、フロイデン領では別だ。


「ミリア、どうしよう。あまり騒ぎにはなりたくないけど……」

「そうね、冒険者でいいんじゃない? 身分証、そっちのもあるでしょ」


「身分証かぁ、ラミア、お願いがあるんだけど、3人、幻術で隠れること出来る?

 アルラネまだ身分証ないでしょ、変に揉めたくないのよ」


「造作もないのぅ。門を通るまででいいかの?」

「うん、よろしくね!」


 王族や子爵家令嬢が不正を働いていいのか、……と戒める者もおらず、冒険者の一行として門の列に並んだ。




「アメイズ子爵家の従者と冒険者だな。しかし、子爵家がなぜ冒険者を送迎してるんだい?」

「極秘の任務ですの。申し上げられませんわ」

「ふむ……。まぁ良い。騒ぎは起こさないでくれよ」


 不思議な組み合わせの一行に怪しむ門衛を、御者台に腰掛けたメイドのアルナがあしらう。貴族の密命と言われれば、門衛はそれ以上何も言えない。


「すごい! ヒトがたくさんいますわ! 姉さん、あれは何ですの? あっちは……?

 あと、姉さんみたいな服も欲しいわ。ヒト族の服、興味ある~」


 宿場町に入ると、ラミア達が姿を現す。

 早速アルラネがマシンガントークを繰り出している。



「それにしても、人の行き来が多いわね。何かあったのかしら?」

「活気と言うよりは、みんな急いで……焦っている様に見えるわ」


 小さな宿場町にしては、異様な程に人が出ていた。

 しかも、人々の表情は驚きと焦りに溢れ、喧騒に包まれている。



 様子を見ようと、馬車を降りて散策する事にする。

 馬車の見張りは護衛騎士が行ってくれる。……便利だ。



「市場、商品がほとんど売り切れてるわね……」

「ちょっと、普通じゃなさそうね……」



「こんにちは。商品、売り切れちゃってますけど、何かあったんですか?」


「嬢ちゃん、冒険者かい? 知らないのかい? 悪い事は言わねぇ、今すぐ帰った方が良いぞ」


「あ、あの? すみません、先程到着したばかりで……。何があったんでしょうか?」


「戦争だよ、戦争!!」


「「「「せ……戦争!?」」」」


 想定外の答えだった。

 戦争と言えば、相手はエスタール帝国以外に考えられない。



「戦争ですか? それで、相手は? 今どうなってるのですか?」


「国境の砦に攻め込んできたらしいぞ。まぁ辺境伯が負ける事はないだろうがな。

 この町も、逃げる者と徴兵で戦場に向かう者でごった返してる」


「あぁ、それで、商品も買い占めになってるんですね」


「そうだな。売り物が無くて悪いな。

 そんな訳だ、嬢ちゃん達は、早く帰った方が良い」




 話を聞き、衝撃を受けるルリ達。

 何年も起こっていない戦いがなぜ? それより何より、戦況はどうなってるの?

 詳細な情報を集める必要がある。


「情報が欲しいわね。衛兵に聞いてみる?」

「う~ん、宿場町の下っ端の衛兵が正確な情報を持っているとも思えないけど……」

「そうよねぇ、しかも、冒険者に教える訳ないわよね……」


 貴族と明かせば、それなりの立場の人物と話が出来るかもしれないが、いずれにせよ、領の外れの宿場町まで伝わっている情報はたかが知れている。


「近づく……しかないわね」

「うん、国境に近い街に向かおう」


「あの、リフィーナ様。戦争との事ですし、アメイズ領に戻ると言う選択肢は無いのでしょうか?」


「「「「無いわ!」」」」


 満場一致で、次の街を目指す事に決定。

 アルラネがうるさいので、服や他に欲しいものを購入し、すぐに宿場町を出た。




「最短、最速で、ディフトの街に向かうわよ」


 宿場町と砦の中間地点。馬車で3日ほどの場所に、フロイデン領の中堅都市、ディフトがある。

 領都に次ぐ要の街であり、情報を得られる可能性も高い。




「ねぇねぇ、戦争って何? ヒト族が殺し合いしてるの? どうりで森が騒がしいと思ったわ。それで? 私たちも参加するの? 暴れていいの?」


「主はやめとけ。また毒薬ばらまくつもりか?」


「すっごい効くのよ! ヒト族なんてイチコロ!!」


「「「「ひっ」」」」」


 ラミア達の会話に恐怖を感じながら、次の街を目指す。

 そこに、ふと、メアリーが口を開いた。


「ねぇ、実際の所、本当に戦争に参加するの?

 王国の危機なんだから支援はしたいけど、戦争って、何千人、何万人もの戦いでしょ。

 4人加わったくらいで……」


「メアリー様の言う通りです。ミリアーヌ様やリフィーナ様を戦場に送るなんて、とても容認できませんわ」


「もう、メアリーもアルナも。心配は分かるわ。

 でも、忘れてない? 私たちは一騎当千。その戦力が、4人いるのよ!」


「いやいや、ルリ? 私をルリ達と同じ扱いにはしないでよ。確かに女神のルリなら千人相手にできるかもしれないけど、私にそんな戦闘力は無いわ!」


 メアリーの心配も、アルナが貴族令嬢を戦場に出せないというのも、尤もな意見である。

 しかし、セイラが否定した。


「メアリー、分かってないわね。

 戦争においては、あなたが最強、最大の戦力よ!

 確かに女神モードのルリも強いけど、ピンチの時しか使えない能力なんて、不確定すぎて役に立たないわ。

 その点、戦況を見て人を動かす、あなたの頭脳は、戦況を変える、何万の兵にも匹敵する、チカラなの!」


「そ……そんな……。戦争なんて……」



 自身なさげなメアリーであるが、ミリアも、セイラも、ルリも、メアリーの作戦に、何度も助けられており、信頼は厚い。


 チカラ……魔力で敵をねじ伏せられるミリアとルリ。それに、セイラの防御力と軍師メアリーの頭脳。

 戦闘に参加するかどうかは別として、メイド三姉妹のアルナ、イルナ、セイラも武の達人だ。さらに、『蛇女』、『人魚』『アルラウネ』の魔物三姉妹もいる。


 万の兵力にも匹敵する戦力を乗せた一台の馬車が、まっしぐらに、戦場へと向けて、ひた走るのであった。

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