第90話 バーモの村

 アメイズ領の北端、リバトー領との境に近い、メルダムの街を目指して北進するルリ達。


「オーク発見! 北西10時100メートル、3体」

「お肉、お肉!!」

「依頼達成!」


 セイラが魔物を探し、必要ならば狩る。

 オーク肉の調達依頼を受けているので、オークは狩りの対象だ。


「ちょっと行ってくるね、馬車はこのまま走らせといて!」

「承知しました」


 馬車をひくメイド三姉妹のイルナに声を掛け、馬車から飛び出す『ノブレス・エンジェルズ』の4人。

 オーク程度であれば、他の力を借りる程ではないし、狩りに時間もかからない為、馬車にもすぐに追いつける。


「何か試したいことある?」

「う~ん、オークだし、変わった事する時間も勿体ないかな」

「じゃぁ、さっさと終わらしましょう!」

「「「おー!」」」


 先頭を駆け出したのはセイラとミリアだ。

「プラズマ、放電!!」


 バチバチバチバチ

 ザシュ


 ミリアが魔法を放ち、駆け寄ったセイラが止めを刺す。

 無駄のない連携で、あっさりと3体のオークは崩れ落ちた。


「じゃぁルリ、あとはお願いね」

「うん、収納! 戻ろうか!」


 ササっとオークを収納し、馬車に向けて走り出す。


「戻ったよ~」

「ただいま~」


 馬車を飛び出してから約3分。

 普通の冒険者では有り得ないようなスピードで、戻って来た『ノブレス・エンジェルズ』の4人だった。




「明日にはメルダムの街に着いちゃうのよね。途中、どこか寄れる場所は無いかしら?」

「この辺りに、バーモという農村があるはずなのですが……」


 アルナの話では、領都とメルダムの中間地点、東の森の中に、農村があるらしい。

 地図に無い集落も多数ある世界ではあるが、主要な町や村の位置は、頭に入れて来てくれている。


「馬車が通れそうな道があったら、曲がってみましょう。村につながってるかもしれないわ!」


 しばらく進むと、右に脇道があるのを発見する。

 馬車でも十分通れる太さの道、目的の道で間違いないだろう。


「リフィーナ様、では、この道を曲がりますね」

「うん、よろしく!」


 森に向かって進むルリ達。

 すると、大人しかったセイレンが、突然ソワソワし始めた。


「セイレン、どうかしたのか?」

「ラミア姉さま、水の、川のにおいがしますわ」


『人魚』であるセイレンは、水に対する感覚が鋭い。また、農村が川の近くにあるのは理にかなっている。



「川に出たら、少し休んでいきましょうか。お昼ですし、ちょうどいいわ」

「「「賛成~」」」


 15分ほど進んだ所で、道が大きく曲がり、川沿いに出た。

 幅が20メートルくらいある、大きな川。

 河川敷も広く、休憩するにはもってこいだ。


「セイレン、自由時間遊んでていいけど、あまり遠くには行かないでね」

「分かってるわよ、ラミア姉さま、行きましょ!」


 セイレンはさっそく『人魚』の姿になると、川に飛び込んでいった。

 もちろん、隠す所は隠してもらっている。

 ラミアは、別に水中が好きな訳では無いので、川沿いで佇んでいた。



「私たちは、少し休んだら食事の準備をしましょうか」


 日陰にテントを張り、まずはティータイムにする。

 4人の時はセイラが担当だが、今はメイド三姉妹がいるので、こういったお世話はメイドの仕事だ。


 さらに、昨日の夜の事件を受けて、護衛騎士たちも離れずに付いて来ているので、一緒に休憩をとる事になった。


 結局、20人近い集団。

 誰がどう見ても、貴族と従者と護衛という集団行動になっており、もはや冒険者の研修の旅とは言い難い。


 当然だが、護衛騎士たちにも、ルリ達と同じ食事を振舞う。

 出先で本格的な料理を食べられた事に、護衛騎士たちは心の底から喜んだ。

 隠密の護衛として、保存食ばかりで過ごしてきた為、涙が出る程、美味しい食事であった。



「セイレン、そろそろ行くわよ」

「嫌よ、先に行ってちょうだい」

「仕方ないわね、河川敷を歩いて村に向かいましょう。イルナ、馬車の移動、お願いしますね」


 食事を終えて出発しようというのに、セイレンはまだ川の中で遊んでいる。

 道は川沿いに続いていそうなので、テクテクと歩いて進むことにして、村を目指した。


 河川敷は河川敷で、何かと面白いものである。

 キレイな石を見つけては、騒ぐ少女たち。

 なんだかんだ言っても、10歳そこそこの女の子だ。子供らしく、はしゃぐのであった。



「ねぇアルナ? この川って、領都の横の川と同じかなぁ?」

「はい。これ程の大きさの川は他にはないと思われます。同じ川だと思いますわ」


 ルリがふと思ったのは、川を使った水運だ。

 マリーナルの領都では、街中に運河が張り巡らせられ、水運が発展していた。

 この先にある村と領都を水運で結べば、農作物の輸送が楽になるかもしれない。



 そうこうしていると、遠くに村が見えてくる。

 村にしては大きな柵で囲まれており、立派な村だった。


 セイレンをラミアに説得してもらい、全員で馬車に乗り込む。

 護衛騎士は後方にて待機。

 これで、馬車に乗った貴族と従者、護衛の冒険者という構図が出来上がる。


 村の入口につくと、驚いた村人が警戒しながら飛んできた。

 貴族の一行となれば、税の徴収か無理難題を吹っ掛けられるか、碌な事が無い。


「これは貴族様。ここはバーモの村です。何か御用でございますでしょうか?」


「アメイズ子爵家ご令嬢、リフィーナ様とご友人の皆様です。

 本日は、領地の視察に参りました」


「リフィーナ様ですと! こ……こちらへ。あ……いや……少々お待ちください」


 アルナが対応すると、慌てて奥の大きな屋敷へと走り出す男。

 領主の娘が直接訪ねてきたとなれば、ないがしろには出来ない。


『リフィーナ様が何で? 王都の学園に通われているはずでは?』

『おい、誰か何かやったのか?』

『最近出荷が増えたから、税が上がるのかしらね……』


 居合わせた村民たちが、ひそひそと話す声が聞こえる。

 突然の訪問に、村人が驚くのも無理はない。



「お待たせしました、こちらへどうぞ」

 男が戻ってくる。ルリ達は馬車から降りると、男の後に続いて歩き出した。


『あの瑠璃色の髪の御方がリフィーナ様じゃ』

『一緒にいる魔術師2人は護衛の方かね?』

『可愛らしいお嬢様方だこと』

『メイドさんなんて初めて見たよ』


 馬車から現れた少女4人。

 とても冒険者パーティには見えない。


 奥の大きな屋敷に通される。

 明らかに遠回りをして歩いたのは、時間稼ぎという事であろう。


「リフィーナ様、ようこそいらっしゃいました。私は、バーモ村の村長、クレイドと申しますじゃ」


「リフィーナ・フォン・アメイズです。突然の訪問、ご迷惑をお掛けします」


「いえいえ、大歓迎いたしますじゃ。ささ、こちらへ。お付きの方と護衛の方も、どうぞお掛けになってください」


「クレイド村長。ありがとうございます。でも、ひとつだけ訂正させてください。

 この3人は、私の冒険者としてのパーティメンバーですの。今日は、Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』の研修の旅の一環として、立ち寄らせていただいただけですわ」


「ぼ、冒険者パーティでございますか?」


「はい、一緒に活動しております。ご紹介しますわね。

 クローム王国第三王女、ミリアーヌ様。

 コンウェル公爵家三女、セイラ様。

 メルヴィン商会のご息女、メアリー!

 私たちが、『ノブレス・エンジェルズ』です!!」


「な、はいぃぃぃ」


 後ろから後光でも差しかねない勢いである。

 そして、自己紹介後に、目の前で腰を抜かす光景には、……慣れた。

 第三王女の登場だけでも一般人は耐えられないのに、もう一人の王族の登場。


 さらに、メルヴィン商会のメアリーが追い打ちをかける。

 農村にとっては、ポテト芋を中心に大量の発注をしてくれるメルヴィン商会は、神にも等しい存在なのである。

 ……その娘が、目の前にいる。


 村長がまともに起動するまで、ただじっと待つしかないのであった。

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