第80話 白銀装備
アメイズ領到着の報告と、依頼の確認の為に、冒険者ギルドを訪れた『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
チロリン
ギルドに到着し、ドアを開けると聞きなれたベルの音が鳴る。
少女4人の登場に、一瞬視線が集まるが、ルリ達は気にしない。
「Cランクパーティ『ノブレス・エンジェルズ』、研修の旅にて参りました。よろしくお願いします」
ミリアが声を上げると、併設の酒場でたむろっている冒険者、そして受付が騒がしくなる。
「ようこそ、冒険者ギルド、アメイズ領支部へ。『ノブレス・エンジェルズ』の皆さん、お待ちしておりましたわ。ギルドマスターがお待ちですので、こちらへどうぞ」
駆け寄ってきた受付嬢が、ルリ達を2階へと案内する。
扱いが、完全に賓客だ。実際にVIPの身分ではあるが、今は冒険者としての活動なので、本来は好待遇を受ける云われは無い。
「ようこそ、『ノブレス・エンジェルズ』の皆様。お待ちしておりました。
私は、ギルドマスターのシャードです」
豪華な部屋に入ると、30代くらいのイケメンの男性が声を掛けてくる。
ギルドマスターのシャードは、緊張していた……。
「シャードさん、お久しぶりです。冬の事件の際は、お世話になりました」
「いえいえ、リフィーナ様。あれから、冒険者ギルドも意識を入れ替えまして、悪党に屈しない、強い冒険者を目指して改革を進めてきました。全て、リフィーナ様の功績でございます」
盗賊を壊滅させた事件の際、盗賊の残党の捜索には、冒険者ギルドにも協力を仰いだ。
同時に、冒険者の中にも盗賊団の協力者がいる事が分かり、かなりの人数の冒険者が捕縛されている。
ギルドの職員、冒険者ともに、一新された様な状態になっていた。
「当時のギルドは、何と言うか暗かったですものね……」
「あはは、言い返す言葉もありません……」
緊張している中、更にダメ出しをされてしまった事で、いよいよ覇気が無くなるシャードに、ルリは本題を切り出す。
「さて、本日は『ノブレス・エンジェルズ』としてご挨拶に参りました。
まずは、メンバーを紹介しますわ」
それぞれ自己紹介を行う。
冒険者としての活動なので家名は名乗らないのだが、情報は伝わっているらしい。
「み、ミリアーヌ王女殿下におかれましては……」
「ふふふ、謙遜なさらないで。あなたは冒険者ギルドのマスター、私たちは一介の冒険者。そう扱ってくださいな」
王族を前にタジタジになっているシャードを、優しくフォローするミリア。
何とか落ち着いたのか、やっと通常の会話が出来るようになった。
「研修の旅との事で、王都のギルドマスターから聞いてます。
依頼は、受付のララに言い伝えてありますので、説明を受けてください。
もちろん、常時依頼などもお受けしていただいて構いませんが、アメイズ領からは出ないようにお願いします」
アメイズ領の依頼受注が原因で何かがあってはたまらない。
とにかく、何事もなく終わってくれるようにと、本気で願う、ギルドマスターのシャードであった。
その後、受付に戻り、依頼の話を聞く。
想像通り、非常に簡単な、危険の少なそうな依頼が見繕ってあった。
研修としてこのギルドで達成すべき依頼は3つ。Cランクの依頼をこなす必要がある。
オーク肉とボア肉の調達依頼。……領都の肉屋からの依頼らしい。
Cランクパーティにとっては、討伐自体は難しくないが、肉を運ぶ手間があるので普通のパーティでは効率が悪いのだが、ルリ達であれば問題ない。
近隣の村への物資運搬の護衛。
半日の距離の村であり、Dランクでも十分そうではあるが、森の中を通ることからCランクの依頼になっているらしい。
失われたアメイズ子爵家の至宝の捜索。
「……ん?」
3つ目の依頼を聞き、ルリは首を捻った。
「子爵家に伝わる『白銀装備』の捜索です。依頼主はヴィルナー様、アメイズ領の先代の領主様ですね」
「お爺さまの依頼ですの? それで、『白銀装備』とは?」
「はい、今は伝説となったフレエグルという鍛冶師が作った、防具一式と記載があります。兜、軽鎧、靴がセットになっているようです。鍛冶師も防具も、行方不明だそうで、もう30年も昔に出された依頼となっております。
以上、3つが今回の課題です。もちろん、全てを達成する必要はありませんので、出来る範囲で頑張ってくださいね」
受付嬢ララとしては、お蔵入りの依頼をここで引っ張り出して課題にする事に疑問がある様であったが、ルリの疑問はそこでは無かった……。
「……防具は全て揃っての依頼達成ですか?」
「いえ、白銀装備は、1点につき聖金貨10枚となっております。依頼としては、1点でも見つかれば達成です」
(兜と軽鎧、そして靴のセット? 兜なんて見た事ないけど……)
湧き上がる疑問に食って掛かりそうなルリ。
雰囲気を察したセイラが、ルリを止める。
「ルリ、何か思う所があるのね? でも今日の所はここまでにしましょ。
ララさん、受注は明日以降で手続きしますわ。また来ますので、よろしくお願いしますね」
受付嬢のララに、再度の訪問を告げる。
少し依頼ボードを確認した後、今日は屋敷に戻ることにした。
「薬草採取に魔物討伐、常時依頼はマリーナル領と似た感じね」
「うん、課題で受ける依頼はすぐ終わるでしょうから、少し狩りでもしましょうか」
「そうね、普通の依頼はほとんど無さそうだし」
依頼ボードには、常時依頼がある以外、ほとんど依頼が張られていなかった。
間もなく夕方という事で時間的な事もあるが、実際には、『ノブレス・エンジェルズ』が余計な依頼に手を出さないようにと、厄介そうな依頼は全て剥がされていたのが原因だ。
屋敷への帰り道、考え込むルリにセイラが話しかける。
「ルリ、『白銀装備』って、時々使ってる装備の事よね。依頼は発見する事だから、見せた後でまた受け取ればいいだけでしょ? 私たちが達成しやすいように気を使ってくれた、それだけの事。何か問題あったの?」
「いや、兜って言ってたでしょ? 兜なんて見た事ないの。フレエグルさんも、何も言ってなかったでしょ?」
「そう言えばそうね。その装備はどうやって入手したんでしたっけ?」
「収納魔法が使えると分かった時に、中に入ってたのよ。でも兜は入ってなかったわ……」
女神の贈り物と思った装備は、鍛冶師フレエグルがアメイズ子爵家に献上したものだった。しかし、ルリが手にしている中に、兜は無い。
「う~ん……。いろいろと理解不能な話ね。でも考えても仕方ないわ。屋敷に帰ったら聞いてみましょ」
この場で考えても、謎が解決できるとは思えない。屋敷で調べるというミリアの提案に頷くと、ルリ達は帰路を急いだ。
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その頃、王都では。
近衛騎士団の詰所、コンウェル公爵の元に、伝令が到着していた。
「護衛の兵士が、王女様方、『ノブレス・エンジェルズ』と合流いたしました」
「そうか。様子はどうだ?」
「はい。森の中で盗賊一味と出くわしたようで、討滅し、アメイズ領の衛兵に引き渡したようです」
「な……盗賊だと!? 全員無事なんだな!」
「はい。『ノブレス・エンジェルズ』の4人、お付きの方々、盗賊団、全員無事であります!」
「バカ者、盗賊団の安否など聞いておらん!
まぁよい、それで、その盗賊団とは何者だ」
「現在、アメイズ領の衛兵と共に、調査中です。
被害にあった集落と、拠点にしていたらしい場所を調べて、ご報告いたします。
既に、西の森に展開している近衛騎士団の一団と合流しているものと思われます」
「そうか、近衛騎士団とアメイズ領の領兵で調査しているのだな。良かろう。
引き続きアメイズ領にて護衛につくように。二度と見失うなよ!」
「しかと心得ました!」
通信手段のないこの世界では、リアルタイムでの情報の把握は難しい。
何をしでかすか分からない少女たちの行方に、胃が痛くなる思いの公爵だった。
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