第49話 遠足
御前試合は、問題なく終わった。
本人たちの中では……。
学園での日常を取り戻し、楽しんでいるルリ達。
最近の話題は、1週間後にある「遠足」だ。
第2学園では、毎年春に、1年生全員で近くの湖まで遠足に出かける。
近くと言っても馬車で2日の距離。
60人の生徒が一斉に向かう事から、一大イベントとなっていた。
学園内では、遠足でのグループ編成が、生徒たちでの関心事項となっている。
移動の馬車や宿泊、自由時間の探索などを一緒に過ごす、6人~8人のグループを作らなければならず、期限までに作れなかった場合は強制的に組まされる事になる。
「ミリアーヌ様、グループは既にお決まりですか?
わたくしをぜひ加えていただき……、いえ、わたくし以外にミリアーヌ様とグループを組める人間なんておりませんわ!」
案の定、金髪ドリル嬢のグレイシーがやって来る。
言い回しは微妙だが、一緒のグループに入りたいという意志は伝わる。
「いいわよ。同室の4人に、グレイシーさんとベラさんを加えた6人。
これでグループを組みましょう!」
「ホントですか? 良かったですわ。さすがミリアーヌ様ですわ!」
嬉しそうなグレイシーではあるが、実は先に決めておいた事だ。
ルリ達は4人しかいない為、誰かしらを加える必要がある。いずれにせよグレイシーが絡んでくるのであれば、グループに受け入れようと……。
早々にグループを作れたことで、準備や役割分担は順調だ。
4人、いや6人は、万全の体制で「遠足」に臨むことが出来た。
(高校の修学旅行、行けなかったからな……。
飛行機乗り損なったのは痛いけど、馬車で湖ってのも悪くないわね!!)
ルリはまだ、この世界で行ってみたい場所がたくさんあった。
海があるマリーナル領、米の栽培がある農業国ザバス、魔道王国イルーム。
(異世界の湖かぁ! やっぱりネッシーみたいなのいるのかなぁ……!)
ルリが盛大なフラグ的な事を考えていると……。
「みんな知ってる? 遠足で行く『ガナカ湖』の言い伝え……。
恋人と行くと、破局するらしいわ!!」
「「「……」」」」
「えぇと、セイラ?
それで、何か……困る事がありますの……?」
「ぅぅ……」
自信満々に話し出したが、ミリアの指摘に声も出ないセイラ。
「でも言い伝えは本当らしいわよ!」
「知ってますわ。『蛇女』でしょ。
王都に暮らしてれば一度くらいは聞くわ」
食い下がるセイラであるが、ミリアは話を知っているようだった。
300年前、貴族と平民の娘が、恋に落ちて駆け落ちした。
追い詰められた二人は、湖で追っ手に掴まってしまう。
そして、貴族の男性は連れ戻され、女性は湖に身を投げた。
「恋人を取られた女性の怨念が、蛇の魔物になって今でも恋人を恨んでると……。
貴族の間じゃ有名な話じゃない……」
興が覚めたようなミリアであるが、セイラは引き下がらない。
「でも、その時に貴族が持ち込んだ財宝が、まだ見つからずに残ってるって聞いたわよ!」
「ホント!? 探しましょう!!」
メアリーが乗ってきた。さすが商人の娘だ。
「まぁ、駆け落ちした話すら眉唾な言い伝えですけどね。
宝探しは面白いわ。自由時間は財宝を探す事にしましょうか……」
「「「おー!」」」
やる気のなさそうなミリアではあるが、他の3人は財宝探しに興味津々なのであった。
そうこうしている内に、遠足出発の日がやってくる。
馬車15台の大所帯。
王都を出発し、東の平原を抜け、二日かけて湖へ向かう道のりだ。
馬車には予定通りのメンバーで乗った。
ミリア、セイラ、ルリ、メアリーの4人に、グレイシーとベラを加えた6人。
遠足中は、基本的にこの6人で行動する。
「ルリ、アレ出してくれる?」
セイラに言われて取り出したのは、毛皮をなめした敷物。
長時間の馬車に耐えられるようにと、フサフサに仕立ててある。
「なっ、これってダイアウルフの毛皮ではございませんこと?
超希少な素材をこんな……、馬車の敷物に……!?」
「これならお尻も痛くなりませんでしょ?
ルリがなぜこんな毛皮を丸ごと持っていたのかは謎ですが……」
A級素材を丸ごと消耗品にしてしまっている事に驚きを隠せないグレイシー。
そして、ジト目でルリを見つめるセイラ。
ルリは、笑ってごまかしている……。
「まぁいいですわ。先は長いですし、お茶にしましょう」
セイラは収納からテーブルとティーセットを取り出すと、優雅に紅茶を入れ始める。
もちろん、お菓子付きだ。
「ちょ、お待ちになって。なぜティーセットが……。
一瞬でわたくしの色々な常識が崩れそうですわ……」
「「「「すぐに慣れるわよ!」」」」
驚くグレイシーに、4人が声を揃える。
ちょっとの非常識で、驚いてはいられない。
楽しく過ごす為なら全く自重しない4人なのだから……。
「驚いている場合じゃないわよ! 一息ついたら勝負ですわ!
一番負けた人が罰ゲーム、いいわね!」
「「「おー!」」」
ミリアの合図で、ルリはすごろくを取り出す。
マス目は強化され、そう簡単にゴールできないような難易度にグレードアップしている。
グレイシー達は最初きょとんとしていたが、すぐにルールを理解し、参戦した。
激しい戦いが、馬車の中で繰り広げられるのであった。
「ふふ、ミリアの罰ゲームはこれね。
好きな人の名前を言う、もちろん男性限定! さぁどうぞ!!」
「ぅぅぅ……。いないわよ……。
自称婚約者のハーリー以外なら誰でもいいわ。どうしても受け入れないのよね……。
そんな事より、誰か好きな人がいる人はいるのかしら? 罰ゲームが成り立っていないわよ」
「「「「「……」」」」」
年頃の娘が6人。ガールズトークの定番、恋バナになるのではあるが……。
誰もネタを持っていない……。残念な6人であった……。
盛り上がる馬車旅は順調に進み、初日夜の宿場に到着する。
そこは、ルリがリンドスから来た時に寄った、宿場町ドリム。
露店を楽しみたいルリであったのだが、遅い時間に到着し、また早朝に出発というスケジュール。
食事と睡眠以外の時間は取れず、早々に宿場町から離れる事になってしまった……。
結局、丸2日寄り道せずに馬車で過ごす。
湖に着いたときには、生徒は全員、疲れ切った様子だった。
快適な馬車でゲームに打ち込んでいた6名を除いては……。
外に出て湖を見る。
「すごい! 夕日が反射しててきれいだよ!」
「ここに財宝があるのね!」
景色に感動するルリと、現金なメアリー。
それぞれの驚きを見せながらも、湖畔の宿泊場所に移動した。
時間も遅いため、今日は食事をしたら寝るだけだ。
グループごとにテントを張り、すぐに就寝となる。
「ゆっくり休んで、明日一日、楽しみましょう」
「「「「「おー!」」」」」
テントでの川の字での雑魚寝。
今がチャンスとばかりに、グレイシーがミリアに抱きついて眠ったことは、ご愛嬌である。
翌朝。
「今日は、グループごとの自由行動だ。夕方までに戻って来いよ。
この辺りで魔物は出ないはずだが、十分注意するように。
ただし、湖の奥の森はその限りではない。森には近づかないようにしろ!!
それでは、解散!!」
教官の合図で、生徒たちは四方へ散っていく。
ルリ達も、まずは湖周辺の散策に向かうことにした。
「うわ、男子、泳いでるわ……」
「寒くないのかしら……。おバカですわ……」
湖に着くと、男子が水着に着替えて泳ぎ始めていた。
まだ春である。普通に考えて泳げる気候ではないのであるが……。
ミリアとグレイシーが呆れていた。
「俺たちと遊ばないか!」
「泳いで島まで行こうぜ!」
「一緒に愛を語ろ……」
「「「「「「お断りです(わ)」」」」」」
誘ってくる男子グループを悉く拒否し、散策を始める6人であった。
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