第33話 キャットファイト
第2学園401号室。
午後。
4人で会話を弾ませていると、ドアがノックされた。
コンコン
はーい、ルリがドアを開ける。
目の前には2人の少女。
いかにも貴族と言う感じの金髪、縦ロールの少女。
そして長い髪を2つに結んだ少女。
(うわっ、リアルのドリル嬢、始めて見た……)
「こちらにミリアーヌ様がいらっしゃるはずですが!」
2人はずかずかと部屋に入ってくる。
「ミリアーヌ様、
何でもこちらの大部屋で平民と一緒に割り当てられたとか……。
同部屋に相等しいのはわたくし達。
侯爵家のわたくしグレイシーと、伯爵家のベラですわ。
お部屋を変わるように進言しに参りましたわ!」
「あら、グレイシー様、ベラ様、御機嫌よう。
ずいぶんの物言いです事……。
このお部屋は、ミリアーヌ様が自ら望まれたお部屋ですの。
身分差の及ばない学園で、ご友人と一緒に過ごされたいという願いを踏みにじるおつもりですの?」
セイラがキリっとした表情で反論する。
メイドの格好をしてはいるが、公爵家、つまり王の血筋である。
強気に言い返しても何ら問題ない。
「「ぐぅ」」
劣勢に立たされ呻くグレイシーとベラではあるが、引き下がるつもりは無いようだ。
「平民と仲良くなさりたいというのは分かりましたわ……。
しかし……授業中になさればよろしいのではなくて?
ご一緒のお部屋で、しっかりとお世話するには貴族の心得が必要ですわ!」
「お世話は私がしますので間に合ってますわ!」
セイラが言い返す。相変わらず目が笑っていない。
当のミリアーヌは、面倒そうに我関せずの顔をしている。
「……うぅぅ、それでもですの!」
反撃の言葉が無いようだ。
そしてグレイシーは、意を決したかのようにルリとメアリーを見据えた。
王族2人を相手に交渉するのは分が悪いと見たのか、グレイシーの矛先が変わったようだ。
「平民! 決闘ですわ。
どちらがミリアーヌ様の同部屋に相応しいか、女の戦い、決闘ですわ!」
「「えぇぇぇぇ!?」」
突然話を振られて驚くルリとメアリー。
「あの、グレイシー様……。お話で解決は……」
「何をおっしゃっていますの?
あなた方が部屋から出ていけばそれで済む事。あなたと話す事はありませんの!」
ルリの質問は、一笑に付された。
(いやいや、貴族様同士で話してくれればいいのですが……)
妙な方向に進んでしまいミリアーヌとセイラに助けを求めるが、2人ともなぜか目をキラキラさせている。
「面白そうね! 決闘で決着を付けましょう!」
「「えぇぇぇぇ!?」」
ミリアーヌが話に乗ってしまう。ルリとメアリーは唖然とした。
「よろしいでしょう。
時間は明日の朝、場所は学園の訓練場としましょう」
セイラもノリノリで話を進める。
そうして、入学前であるにも関わらず、生徒同士の決闘が開催されることになった。
もちろん、怪我がないように配慮は行われる。
武器は学園に配備されている木製のものを使用。防具は各自の自由だが、必ず装着することになった。
また、ミリアーヌがどうしても参加すると言い張り、4人対4人での試合と決まる。
グレイシー達は2名の助っ人を呼べることになった。勿論、助っ人は新入生が対象である。
翌朝、訓練場に集まる。
セイラが学園に話を通しており、審判は教師が務めてくれた。
どこから噂が広まったのか、多くのギャラリーも集まっていた。
「それでは試合を始める。両者、前へ!」
審判の声で、計8人が訓練場の中央へ歩みだした。
ルリはミニ浴衣姿。
新しく作った鱗のスケイルアーマーにコカトリスのローブを羽織っている。
メアリーは戦ったことなど無いので、学園にある革の鎧を借りた。
ミリアーヌは魔術師らしいローブ姿で杖を持っている。
セイラはメイド服。防具として作られたメイド服らしい。すごいこだわりだ。
ミリアーヌ以外の武器は木剣だ。
対戦相手は、豪華な騎士の鎧を纏った女騎士が2人、男の騎士が1人と、冒険者風が1人。
助っ人は男性2人に頼んだようだ。
「ミリアーヌ様! お久しゅうございます!
殿下の騎士であり婚約者であるハーリーが、伯爵家の名を掛けてお相手を仕ります!」
騎士姿の男が声を上げる。
「げぇ……。あいつは苦手だわ……第2学園にいたなんて……」
ミリアーヌはショックを受けていたが、強く言い返した。
「ハーリーさん、あなたと婚約した覚えはなくてよ!
一瞬で退場させてあげるわ!!」
ミリアーヌは本気でハーリーが嫌いらしい……。
「みなさん、手加減は無用です。
一気に片付けましょう!」
「「「おー!」」」
セイラの声に、ミリアーヌ、ルリ、メアリーが答えた。
前衛は、セイラとルリ。
後衛にミリアーヌ。メアリーは陰に隠れている。
相手は、冒険者風が前衛で、他は後衛のようだ。
立派な鎧の女騎士、グレイシーとベラは、戦い慣れていないのか構えが可笑しい。
「制限時間は15分、殺傷性のある魔法は禁止だ。
15分後に立っている人数の多い方を勝ちとする。
それでは、始め!!」
開始と同時に、冒険者風の男が突っ込んでくる。
接敵するのはセイラだ。
男は剣がセイラに届きそうな距離まで迫っている。
セイラは動く様子がない。
「セイラさん!!」
メイド服で木剣を構えるだけのセイラに心配してルリが叫ぶと、セイラは怪しく微笑んだ。
「出でよ!!」
セイラが声を上げる。
どごぉぉぉん
セイラの前に巨大な盾が現れ、敵の剣を受け止めた。
身長よりも大きい盾を、セイラは軽々と持ち上げている。
(何……? セイラさん、盾使い……?)
「うわぁっ!」
男は驚いて、後ろに下がる。
「うふふ、戦うメイド、セイラ!
尋常に参ります!!」
セイラはぐふふという笑みを浮かべて、男に突進して行く……。
(うわぁ、セイラさん……怖い……)
普段の凛々しく清廉なセイラの姿はそこに無く、狂戦士の様相だった。
「赤く燃え滾る想いよ力を為せ、原始の炎と成りて……
背後では、ミリアーヌが魔法を詠唱している。
いくつもの火の玉が、ごぉぉぉぉと音を上げながら敵に進んだ。
「死になさい! ハーリー!!」
「うわぁぁぁぁあ」
ミリアーヌの怨念のこもった様な魔法がハーリーに襲い掛かる。
どごっ、どごっ
避けきれずに腹部に火球があたり、ハーリーが豪快に吹っ飛んだ。
「ふぅ、あいつは倒したわよ……」
動かないハーリーを見て、ミリアーヌは満足したようだ。
前方ではセイラと男との戦闘が続いている。
がきぃぃぃぃん
セイラが剣を受け止める。
「はぁ、はぁ、やりますねぇ、セイラさん……。
ここからが本番です。
ハロルド・フォン・ガルダン、参る!!」
冒険者風の男が名乗りを上げ、構えを変えた。
「うふふ、ここからですわね。
セイラ・フォン・コンウェル、容赦は致しませんわ!」
がきぃぃぃぃん、ゴン、ゴン、ゴン
上下左右から撃ち落されるハロルドの剣を、セイラがことごとく盾で受け止める。
「「ひぃ」」
後方に控えていたグレイシーとベラは、剣と盾の激突で起こる激しい風圧に、足がすくんでいた。
(どうしましょ……。ご令嬢2人に突っ込むのは気が引けるわ。
でも打ち合いに入るには隙が無さすぎる……)
ルリは、セイラの加勢に入れるように構えてはいるが、タイミングがつかめずにいる。
その時、セイラと視線が交差する。
がぎぃぃぃぃん
セイラの盾が、ハロルドの剣を腕ごと跳ね上げた。
「今!」
セイラの声で、ルリはダッシュしハロルドの懐に入る。
しかし、ルリがハロルドの脇腹に木剣を入れようとすると、ハロルドの蹴りが飛んでくる。
(うわっ、この人早い! でも負けないわ!)
しかし、ルリも負けてはいない。
蹴りを押さえて衝撃を吸収しつつ、その勢いで飛び上がる。
カン、カカカカカカカカカン
流れるような動きで、四方八方から木剣を打ち下ろした。
ルリの剣舞に翻弄されるハロルド。
そこにセイラが割り込んでくる。
がしゅ
剣が盾で防がれた瞬間の隙をルリは見逃さなかった。
弾かれ無防備になったハロルドの右手を打ち付け、剣を弾き飛ばす。
……次の瞬間、ルリの木剣はハロルドの首筋に当てられていた。
「これで終わりですね……」
「ああ……、参った」
セイラの言葉に、ハロルドが降参した。
後方で立ちすくんでいたグレイシーとベラに、もはや戦う術はない。
セイラが怪しい笑みで迫る。
「まだお続けになりますか?」
「「い……いえ……」」
2人が降参し、戦いは終わった……。
「それまで!」
審判の合図で、中央へと集まる。
魔法で吹っ飛ばされたハーリーはそのまま転がっているが、気にしない。
「では、お部屋は変更なしという事でよろしいですね」
「うう、今日は負けですわ。でもあきらめませんわ。
セイラさん、次は勝ちますわよ!
ミリアーヌ様に相等しいのはわたくし達ですわ!」
女の戦いはまだ終わらないらしい……。
(グレイシーとベラはなぜ決闘しようと思ったのかしら……。
あの2人全く戦えてないし……。
女の戦いなのに、助っ人男性だったし……)
状況が呑み込めないまま終わってしまい、ルリは不満と疑問でいっぱいだった。
戻る途中、ミリアーヌがセイラに話しかけている。
「うふふ、セイラさんの思った通りになりましたね……。
本当に決闘になって、こうもあっさり勝てるとは……」
「はい。これで、ミリア様も学園内では絡まれにくくなりますわね」
「次、絡んできたらどうしますの?」
「まだまだ作戦はございますわ。このセイラにお任せください!
女の戦いで負ける訳にはいきません!」
(んんん? 全てセイラの計画通りって事なの……?
貴族……怖い……)
そもそも、ミリアーヌに相応しいのが平民かどうかと言う戦いだったはずである。
いつの間にかグレイシー対セイラの戦いになっている。
もはや、何の戦いなのかもわからない……。
とにかくルリは、自分から矛先がそれた事に喜びつつ、貴族には近づかないようにしようと思うのであった。
今さら遅いのであるが……。
「明日は入学式ですわ!」
満足そうに寮へ戻るミリアーヌとセイラ。
そして、王族2人と過ごす学園生活に、本気で不安を感じている、メアリー。
ルリと一緒に、小さく縮こまって歩くのであった……。
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