第28話 ロリ巨乳
翌朝、メルン亭への出勤前に、ルリは商会の事務所に来ていた。
学園合格の報告である。
「ルリさんおめでとう。看板娘がいなくなるのは痛いけど、お店は十分やっていけるよ。
入学までは居てくれるんだろ、それまでよろしくな!」
「はい、こちらこそよろしくです。
それで、例の件ですが……」
例の件。それは、次の新メニューの話である。
「ああ、まず米の仕入だが、問題なさそうだ。
農業国ザパスの商会とは間もなく話がまとまるだろう。
当面の在庫も確保したよ。
一部が店に届いてるから、試作の料理を頼みたい。
それと、2号店の事なんだがね……」
ルリがお願いしていたのは、米の仕入であった。
米があれば、メニューの幅が広がる。
そして、メルン亭2号店の出店計画。
ファミリーレストラン型のメルン亭ではあるが、客層が広くこだわった高めのメニューは売れにくい。
そこで、2号店の出店となる。
「2号店は大人の集まるお店という事だったよね。
貴族街に近い場所になるんだが、良い物件があったんだ。
今月の末までには開店できそうだよ」
ルリの考える2号店は、イタリアンのお店であった。
メインメニューはピザとパスタ。夜はデートスポットになる。
隠れ家的な名店のイメージを伝えていた。
「厨房に鍛冶の窯みたいなのを設置するのも手配済みだ。
忙しくなるが、よろしく頼むよ」
ピザ窯は、鍛冶師が使う窯があったので、そう難しくなく設計できた。
イースト菌が分からないので発酵が困難ではあるが、クリスピーのような生地ならばパン作りができるこの世界の文化でもピザ生地を作ることは可能だ。
さらに、チーズを探して酪農家を訪ねる。
「牛乳を沸騰させて、レモン汁を入れます。固まり始めたら火を止めて、布で水を切ってください」
農家のおばちゃんに、簡単なチーズの作り方を教えた。
商業ギルドにチーズを登録して、権利者をおばちゃんにしてあげたら、喜んで牛乳やチーズを商会に卸してくれることになった。
(ピザ生地にチーズ、窯もある。具は何でもいいものね)
イタリアン・レストランの準備が着実に進んでいた。
---
「「「「「ルリちゃん、合格おめでとう!!!」」」」」
メルン亭のみんなが祝福してくれる。
今日は合格祝いを開いてくれていた。
折角なので、ピザの試作を作ってみる。
窯はまだ無いので、フライパンの上部から火魔法を使って代用した。
(ふふ、魔法便利~!!)
「あ、ピザ窯があれば魔法はいらないですから……」
驚いている料理人を宥め安心させることも忘れない。
ついでに、届いたばかりの米を炊いてみる。
以前見たのは団子、つまりもち米であったが、手元に来たのは普通の米だった。
「王都では珍しいかもしれませんが、農業国の主食、お米です。
パンの代わりに、ハンバーグと一緒に食べると美味しいですよ!!」
「「「「「あぁぁ!美味しい!!!」」」」」
みんなも気に入ってくれた。
(ついに巡り合えました! 白いお米に感謝ですぅぅぅぅ)
「ちょっと、ルリちゃん何泣いてるの……?」
「あはは、懐かしくて……」
メルン亭ではセットメニューで、パンかライスを選べるようになり、益々、行列が途絶えなくなるのであった。
---
試験から1週間が経ち、2日間のお休みを貰ったルリは、2号店の予定地を見学しようと、街中を歩いていた。
(人通りも少ないし、隠れ家的雰囲気バッチリね。
歩いている人も、身なりがいいからお金持ちっぽいし。
少し高級店にしてもお客さん来そうだなぁ)
貴族街と平民が暮らす地域の中間地点。脇道にそれた、閑静な商業区。
上品な薄暗さが、高級感さえ演出している。
隠れ家店舗には最高の雰囲気だった。
前方を、小さな少女が一人、キョロキョロと歩いている。
白みがかった金髪、年齢は10歳くらいに見える。
フリル付きのワンピース姿は、どう見てもご令嬢だ。
(一人で迷子かしら? しかしすごいわね。
ああいうのを『ロリ巨乳』って言うのよね……)
少女は、体格に不自然なほど、胸が大きかった……。
少女に近寄ろうとすると、
「きぃゃ……ぁ……」
建物の陰から黒い影が現れ、少女を抱きかかえる。
間髪入れずに口を抑えられたため、少女は悲鳴さえ上げる事が出来ずに、路地裏へと引きずり込まれた。
(ちょっ、この世界、誘拐多過ぎでしょ!
『危機感知』展開! 敵は6名。まぁいつも通り。問題ないわね……)
ルリは普段、街中では危機感知を展開してはいない。
知らない誰かが知らない誰かに向けた憎しみまで感知していては、感情に溢れた人間の世界では生きていけないのだ。
その為、明確に自分に向けられた殺気でもない限り感知は出来ず、事前に気付く事が出来なかった。
漆黒の剣を構え、走り出す。
建物の脇の路地に入ると、男に抱えられた金髪のロリ巨乳な美少女。
そして、裏道に逃げ込もうとする男たちの姿があった。
「待ちなさい!」
男たちが振り返る。
「ちっ、見られたか。仕方ねぇ、お前ら、そいつは殺せ!
こっち優先だ、先に行くぞ」
(あぁ、ご令嬢だからね。私みたいな平民には用がないって事か……。
でも、簡単に連れ去られる訳にはいかないのよ!)
剣を構える4人の男に、ルリも突撃する。
ガシィ
漆黒の剣筋が受け止められた。
(見た目よりも強いのかも。ちょっと厄介ね。
でも急がないと……)
奥では少女が手足をバタバタとして暴れている。
しかし男の力には及ばず、自力での脱出は無理そうだ。
ルリは剣を振るいながら、空中に氷の槍を出現させた。
「待っててね、一瞬で終わらせるから!」
少女に視線を送りながら、再度4人の男たちに突っ込んだ。
カキン、ガシィ
ドス、ドス、ドス
横薙ぎに振るった剣は止められるが、同時に放った氷の槍が男たちを捉える。
「「「「ぐふぅ」」」」
下腹部や手足に槍が刺さり動きの止まった男たちに、ルリは意識を刈り取るべく剣を振り下ろす。
「「「「がっ」」」」
4人が崩れ落ちるのを確認し、ルリは残りの2人へと対峙した。
「その子を放しなさい。容赦しないわよ!」
「ちょっとはやるようだが、ここまでだ。てめぇこそ武器を捨てろ!」
少女の首にナイフを突き立てる。
(魔法なら攻撃できるけど、人質に当たっちゃうかもしれないし。
地面凍らせる? でももしホントに殺すつもりだったら……。
動かない方が良いわね……)
ルリは考えた。
(武器を捨てた所で、あの子が救われる道理はないわね。私を殺せばそれで終わりだわ。
何とか交渉して、武器が届く距離まで行かないと……)
「ねぇ、あなた達、その子を誘拐するつもりなんでしょ。
私も連れて行かない?」
「あぁ? てめぇに用はねぇんだよ。さっさと死にやがれ!」
突拍子もない提案に一瞬表情を変えるが、男は迷わずにルリの殺害を宣言する。
「あら、私だって価値はあるはずよ。武器を捨てて身分証を見せるわ」
意味が分からないようで、男は少し動きを止めた。
ルリは、漆黒の剣を床に置き、身分証を取り出す。
そう、アメイズ領主の一人娘、リフィーナの身分証だ。
「見えるかしら? ほら、これでも子爵家の一人娘なんだから。
ついでに誘拐してくれないかしら?」
「おう、確認しろ!」
(よし、乗ってきた!
今の距離では文字は見えない。でも貴族家の身分証って事はデザインで分かるはず。
近づくチャンスだわ)
ルリは両手を上にあげ、一歩ずつ前に歩き出す。
男の一人、少女を拘束していない方も、少しずつ前に出てきた。
少女との距離が3メートルまで迫る。
(だいぶ近づけたわ。勝負は一瞬、一気に決めるわよ!)
手前の男との距離が1メートルにまで近づくと、
「どう? よく見てご覧なさい?」
と言いながら、身分証を男の顔に向けて投げつけた。
男は反射的に、空中の身分証へ視線を移す。
瞬間、ルリはアイテムボックスから2本の短剣を出現させ、男と男の間に割って入った。
左手に持った短剣は身分証を見に来た男へ向けられ、右手に持った短剣は少女を拘束する男へと向けられる。
右手の剣で、首元に押し当てたナイフを持つ腕を、根元から切り落とす。
「ぐぁ」
痛みから拘束が緩む。
少女は全身に力を入れ、男から僅かに離れた。
直後、身分証から意識を戻した男がルリの後ろから剣を振るう。
それを左手に持った剣で防御する。
同時に、右手の剣で少女を拘束した男を突き刺し、男たちと少女を引き離した。
(この人たち、強い。まともに殺り合ったら勝てないかも知れないわ……)
「とりあえず逃げましょう!」
少女に声を掛けるが否や、ルリは少女の手を引き走り出す。
その時だった。
どしゅっ
ルリの身体に激痛が走った。
「えっ?」
突然の衝撃に思わず声が漏れる。
ルリの腹部には、ナイフが根元まで刺さっていた。
(さ、刺された……?
リミットは……? 命の危機でしょ……女神さま……)
身体から力が抜ける。
意識が遠のき、頭が上手く働かない……。
少女が思わずルリを支えるが、倒れるルリを支えきれずに転んでしまう。
「だめ、逃げて……」
ルリは少女に声を掛けるが、少女は動けない。
前方を見ると、最初に倒した4人の男のうちの1人がにやけた顔を上げている。
「逃がさねぇ……ぐふ」
最後の力でナイフを投げつけたらしい。
後ろからは、男二人が迫っていた。
身分証を見ていた男と、片腕を無くした、少女を拘束していた男だ。
(この子だけでも逃がさなきゃ……。
あの2人さえ……)
薄れゆく意識の中、ルリは2人の男を見据えていた。
視界が闇にとらわれる瞬間、最後の魔法を唱えた……。
(
青白い炎が、2人の男に引火した。
炎は勢いを落とす事なく燃え広がり、全身を包み込む。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
断末魔の叫びを残し、2人の男の姿は消滅した。
意識を落としたルリは、その瞬間を見る事は無かった……。
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