第23話 冒険者がいない都市

 野営地を出発し、約3時間。

 前方に巨大な城壁が見えてくる。


 高さ20メートルはあるだろう。城壁の上部を兵士が歩いている。

 突き出した櫓が堅固さを醸し、魔物の襲撃よりも人の戦争を考慮した防壁に見える。



 商隊は城門の列に並んでいた。


「クローム王国は軍事国と言う訳ではないのですがね。

 西の帝国とは昔から緊張状態が続いているので、防衛には力を入れているんですよ。

 王都に侵攻されたこと何てありませんので、庶民は戦争なんて忘れてますけどね」




 クローム王国は3つの国に隣接している。


 東側には農業国ザパスと魔道王国イルーム。この2国とは友好関係が築かれており、商人の行き来も活発らしい。


 西側はエスタール帝国と隣接している。軍事至上主義が伝統で、富国強兵に努めている国家だ。隙さえあればと狙っているようで、国境付近では小競り合いが続いている。




 メルヴィンから王都の説明を受けつつ、今後の予定を確認する。


「このまま城門を越えたら、商会の倉庫まで直行します。

 そこで依頼完了のサインをしますので、ご一緒してくださいね」


 ゲルトが補足する。


「冒険者は現地で解散だ。ギルドに完了の報告があるので、時間があるやつは着いてくるといい」


「ねぇルリちゃんは今日の宿決めてる? おすすめの宿があるんだけど、一緒にどう?」


「とてもうれしいです! ぜひぜひ!」


「じゃ、私達も一緒にしようか、いい? ケルビン?」


 エステルの誘いに私が答えると、アリシャも同じ宿にすることにしたようだ。




「『星空の翼』は明日出発して、しばらく近隣の街を回る予定だ。武者修行だな。

 『双肩の絆』はどうするんだい?」


「俺たちはしばらく王都を観光したら、リンドスに戻るよ」


 明日からはそれぞれが別行動、それぞれの冒険に出る。


(私の目標は、まずは学園の試験合格かな?

 まだ時間はあるし、しっかり準備しよ……)



 話していると馬車が止まった。


「皆さん今回はありがとうございました。商会に到着です」


 メルヴィン商会は、王都では中堅の商会だ。

 食品や衣料品を中心に扱い、飲食店の経営にも携わっている。


 預かっていた荷物を倉庫に置き、メルヴィンが確認する。


「はい、目録通り、全てお運びいただきました。

 これにてご依頼完了ですね。ありがとうございました」


「「「「「ありがとうございました」」」」」




 依頼達成のサインをもらい、ギルドへの報告に向かう。


「私たちは先に宿に向かうわね、報告よろしく!」


 パーティのリーダーであるゲルトとケルビン、そしてルリの3人で王都の冒険者ギルドに行く事になった。




 チロリン

 王都の冒険者ギルドは、大きい。

 リンドスのギルドの3倍くらいある。

 中には厳つい男たち、チンピラ達が溜まって……いなかった。



「「「「「いらっしゃいませ、冒険者ギルド、クローム王国、王都本部へようこそ」」」」」


 奥の受付から、明るい声が聞こえる。

 5つのカウンターには、立ち上がって挨拶したものの、暇そうに座りなおす受付嬢たちだ。

 隣接した酒場は……閑散としていた。



「あれ? 人が少ないんですね……」


「王都はな、ちょっと特殊なんだよ。とりあえず先に、報告だけしちまおうぜ」


 ゲルトは雰囲気に驚くこともなく、受付の元へ歩く。




「護衛依頼の完了報告だ」


「はい、承りました。『星空の翼』さんと『双肩の絆』さんですね。お疲れ様です。

 報酬は1人金貨21枚になります。パーティ分をまとめてお渡ししてよろしいでしょうか」


「ああ、頼む」


 ゲルトが報告をし、それぞれの報酬を受け取った。




 ルリには、冒険者ギルドでもう一つやることがある。


「あの、ついでによろしいですか。この手紙をギルドマスターさんにお渡しするように言われてまして……」


「お預かりしますね」


「え? あのっ、少々お待ちください」


 差出人を見た受付嬢が走って行った。





「ギルドマスターがお話したいそうです。少しよろしいでしょうか」


 しばらくして戻って来た受付嬢に連れられ、ルリは階段を上る。



 大きなギルド、通されたのは3階の部屋だった。


「あんたがルリかい? 座りなよ」


 そこには、美魔女……、年齢不詳でセクシーな妖艶なアマゾネスがいた。

 鼻筋が整った顔つき、胸は薄い服から溢れ、正確には収まり切れていない。


(うん、破廉恥。関わらない方が良い人種ね)



「ふ~ん、この娘があのジジイのお気に入りねぇ……」


「ひゃっ……」


 顎をくいッと持ち上げられ、顔を近づけてのぞき込まれる。


「可愛い声出すのね。気に入ったわ」


 妖艶な美魔女が、ソファーに座りなおすと、語り始めた。


「私が王都のギルドマスター、ウリムよ。

 あのジジイ、リンドスのギルマス、ルドルとは昔同じパーティだったの。

 もう何十年も前の話よ」


 昔を懐かしむような顔をし、話を続けた。


「それで、王都には第2学園入学のために来たんだって?

 試験まではあと1ヶ月よ。分からないことがあったらいつでも聞いて良いわよ。

 受付にも言っとくわ」



「ありがとうございます! ぜひそうさせてください!」


「ええ、どうせみんな暇だからね、喜ぶわ」




 ふと疑問に思った事を訪ねる事にした。


「あの、冒険者の方が少なかったのですが、何かあったのですか?」


「いつもこんなものよ。

 王都は周りのほとんどが平原で、魔物は西の森にいるくらいなのよ。

 だから、この街の依頼は護衛がほとんど。

 魔物を討伐したい冒険者は、他所の街を拠点にしているわ」


「なるほど。それで冒険者がほとんどいないのですね……」


「それで、ここの依頼は貴族とかが持ってくるものが多いのよ。

 報酬はいいけど、魔物の素材を集めるのに遠くまで行く必要があるの。

 だから、王都のギルドでのんびりしてるのは半分引退したような奴らばっかりなのよ。

 つまんないわよね……」



 確かに周囲に魔物がいないのであれば、王都を拠点にするのは非効率だ。

 出来る冒険者は護衛や遠征で外に出ている、それがここに冒険者が少ない理由だった。


「ルリちゃんはDランクよね。学校始まるまでは暇でしょ。

 西の魔物くらいなら問題ないだろうから、時々間引いておいてくれると助かるわ。

 よろしくね」


「はい、わかりました。西の森の魔物ですね。依頼受けるようにします!」


「うん、それでも暇な時はいつでもおいで。遊んであげるわ」


「……」




 美魔女に圧倒され疲れ果てたルリは、やっとの思いで解放されると、宿へと向かった。


 冒険者ギルドから10分ほど歩いた先にある『朝露の恵み』は、女性に人気の宿だ。

 良く清掃され、食事の質が良い。さらに大浴場が人気で、3つの浴槽でゆったりと休める場所だ。

 料金は1泊金貨1枚とそれなりだが、王都の物価を考えれば安いくらいだ。



 宿に着くと、アリシャが個室を予約しておいてくれていた。


「しばらく滞在するだろうからね、角部屋とって置いたわ」


「ありがとうございます」


「準備できたら食堂に来てね、みんな待ってるわ」




『星空の翼』『双肩の絆』が勢揃いして食堂のテーブルを囲んでいる。


「毎日ルリちゃんの料理食べてたから、久しぶりのまともな宿の食事って感じがしないな」


 ゲルトとルターが、メニューを見ながら話している。


「今日は、いや今日もかな。たっぷり食べて飲もう!」


「「「「「「「いただきます」」」」」」」



 次々と運ばれてくる料理の数々。そしてエール。

 護衛任務中のお酒はさすがにNGなので、ジョッキがどんどん空いて行った。



 王都の見どころやおすすめのお店情報を聞き、会話は盛り上がる。


「そう言えば、王都の冒険者の方って、普段は何してるんですか?

 あまり依頼がないって聞きましたけど・・・」


「ああ、王都の依頼は高難易度の素材収集とかばかりだからな。

 Aランクの竜種の鱗とか、デビルベアの毛皮とか、コカトリスの羽とか。

 殆どのパーティは遠征に行ったっきり帰って来ねぇんだよ」


「あ、こういうやつですかね、やっぱ売れるんですね、これ!」


「「「「「「「はぁぁあ!?」」」」」」」



 アイテムボックスからルリが取り出したのは、まさにヒュドラの鱗など、王都の依頼でもトップクラスの報酬が用意された素材の数々だった。


「まぁ……はぁ、ルリちゃんだからね。

 そんなもの、そこら辺で見せちゃだめよ。

 信頼できる人からの依頼か匿名で納品できる時じゃないと、危ないからね……」


「そ、そうですね……。本当に困っている人にあげるようにします……」


「「「「「「「ふぅぅぅぅ」」」」」」」


 呆れてため息が漏れる面々だった。




 楽しい食事、入浴を終え、床に入る。


(明日は王都の探検だね、おすすめのお店も行って見なきゃだね)

 あくまで平常運転のルリだった。




 翌朝、『星空の翼』は武者修行と言う名の旅に出た。

『双肩の絆』はしばらくのんびりと過ごすそうだ。

 私は、予定通り、町の探索に向かった。

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