第19話 ガールズトーク

「一度野営を挟んで、3日目には宿場に入ります。

 その後も野営をはさみながら王都へ向かいます。

 5日目の宿場町は王都近くで栄えているので、少し自由時間も取れますよ。

 森を抜けるまでは魔物も出ますが、抜ければ基本的に安全です。

 盗賊って言ってもそうそう出るものじゃありませんからね」


 森の街道を進みながら、御者が旅の予定を教えてくれた。

 御者にとってはいつもの道順である。



 魔物は出会っても冒険者が対処できないほどではなく、盗賊が出るのも運が悪ければという程度だ。いくら盗賊と言えども、うじゃうじゃと蔓延っている訳ではない。

 御者は特に心配している様子もなく、平常運転だった。





 実際、最初の野営地までは特に問題が起こることもなく進めていた。

 魔物に襲われる訳でもなく、盗賊が出ることもなく、馬車が故障することもなく……。


(気負い過ぎてたかしらね。まぁ平和な世界なのだから、事件なんて起きなくて普通か……)

 ルリは拍子抜けしながら、盛大なフラグを立てていた……。




 1日目の野営地に着き、食事と寝床の準備をしていると、世界はしっかりと、フラグに反応してくれたようだ。



 警戒にあたっていた星空の翼の槍士ルターが魔物を発見する。


「オーク、目視で5体!」


 冒険者たちは武器を持ち、商隊を守るように布陣した。


 既に野営時の護衛体制も打合せされており、オーク5体は想定内。

 特に慌てることもなく、それぞれが対処する。



 多少薄暗くはなっているが、Cランク2パーティの敵では無かった。


 ゲルトが盾で突進を防ぎ、ルターが槍で突く。

 遠方の敵にはタイタスの弓とシーラの魔法が放たれる。

 弱ったオークにはエステルが剣で突撃し、次々の切り裂いた。


(これがパーティの戦闘かぁ。すごいなぁ)


 商人と馬車を守るために後方に控えていた『双肩の絆』の3人に出番はなかった。




「オークがたくさん! 今夜は焼肉ですね!!」


「「「「「おおー!!」」」」」


 野営地に飛び込んでくるオークは、ルリには新鮮な食材にしか見えていない。

 他の冒険者、商人たちにとっても、その提案に異論はなかった。


 慣れた手付きでオーク肉を捌き、買っていた野菜と共に焼肉網に並べる。

 ジュワジュワッと肉が焼け、ルリたちは舌鼓をうった。




 男たちが食べ続ける中、ルリはエステル、シーラの近くに寄って行った。


「お食事お済みでしたら、お風呂いかがですか?」


 驚く2人を連れて、馬車周辺から死角になる木の影に移動する。




「あそこです!」

 そこには、肌を潤わせてタオルを巻いたアリシャがいた。


 枝にシート掛けて即席で作った個室。

 中に入ると、巨大な木桶にお湯が張ってある。


「「すごっ、お風呂があるー」」


「順番にどうぞ、一応魔物には注意しておいてくださいね」


「「ありがとう、さっそくいただくわ!」」


 思いがけない野営中の入浴に喜ぶエステルとシーラ。

 冒険者とは言え女の子だ。汗を流せるほどの幸せはない。




「私は先に戻ってますね」


 石鹸の臭いを漂わせて火照った身体を覚ましながら、アリシャはケルビンの元に戻る。

 ルリも焼肉会場に戻っていき、後片付けを開始した。




「おう、何かあったか? エステル……!?」


「「きゃあぁぁぁぁ」」


 湯上り、バスタオルを纏っただけのエステルとシーラの所に、ゲルトが来てしまった。


「な、なんだ、風呂か???」


 驚きつつも顔を隠すゲルト。厳つい容姿とは裏腹に、純真無垢な彼には、いささか刺激があったようだ……。




 ちょっとしたハプニングがありつつも、野営地としては有り得ない豪華な食事をし、結局男性陣も含めた全員が入浴を終えていた。


 それぞれのテントに入り、朝までの休息に入る。

 野営地での見張りは交代制。人数は十分にいることから、苦も無く朝を迎えた。





 翌日は最初の宿場町へと進む。

 森を抜けたすぐにある、小さな宿場だ。


 途中休憩を挟みながら、夕方前に宿場町、いや1軒の宿屋があるだけの村とも言えない小さな集落に到着した。


(サービスエリア、道の駅、って感じね)


 平屋の大きめの建物があり、周囲には商店、というより売店がある。

 旅の途中に立ち寄るに、最低限の機能が集まった場所。



 宿に入ると、老齢の男性が受け付けてくれる。


「メルヴィンさんだね、いつもどうも。自由に使ってくだされ」


 この宿、否、宿泊施設は、完全にセルフサービスであった。

 食事が必要ならば隣の売店で調達する。お風呂はもちろん無い。

 あくまで、部屋と屋根がある場所で寝ることができるという施設だ。



「テントや馬車の荷台よりは休めますからね。

 街道には所々で、こう言った簡易宿泊所を作っているんですよ」


 商人や普通の冒険者にとって、野営は楽しむものではない。


 利用者の多い野営地に宿泊施設が作られることは少なくないらしい。

 これが発展して村ができ、街になる。この場所もいずれは、変わるのかもしれない。




「先に食事とお風呂準備しますねぇ」


 厨房を借りると、アイテムボックスから食材を出し、夕食の準備を始める。


 今日のメニューはオーク肉のスープで食べるうどんだ。

 大鍋に具材を入れて煮込む。もちろん、骨から出汁を取ることも忘れない。


 エステルとシーラに手伝ってもらい、うどんを打つ。

 豚骨つけ麺の様な食事が出来上がる予定だ。




 ケルビンとアリシャは、裏庭の片隅を借りてお風呂場の準備をしていた。

 ルリが出した巨大な木桶にお湯を張り、脱衣所も完備した浴室が完成した。


(木桶、もう一つ買っておこうかな。男湯と女湯分かれてた方が良いわね。

 あ、ちゃんとした浴室を丸ごと収納しておけばいいのか……)


 想像は膨らみ、お金が貯まったら一軒家を購入して収納しておこう、

 魔法を超えた人外な事を企むルリであった。




 食事と入浴を終え、今日は就寝だ。

 ルリは、エステル、シーラと共に3人部屋。

 ケルビンとアリシャは夫婦なので1部屋。他は男性なので同室はありえない。

 1人部屋と言う選択肢も無くはないが、女性同士で部屋を一緒にすることになった。


「ねぇ、ルリちゃんて王都の第2学園に行くんでしょ?」


「はい、これから試験なので入学できるかは分かりませんが、そのつもりです」


「ルリちゃんの実力で試験に落ちるとは思えないけどね……

 なんで学校何て行こうと思うの?」


 エステルからしてみれば、冒険者として生活するのに学校は必要ない。

 貴族社会や商売人、あるいは将来王宮に勤めるなどの目標がなければ、学校に行くという理由が分からなかった。


「う~ん、私、この世界に出て、何も知らないことが分かったんです。

 それで、成人する前にもっとたくさんの事を学べれば、将来、楽できるかなって……」


「あはは、楽できるってね。そういう、お嬢様らしくない考え方は好きだよ」


「お嬢様ではないですけどね……」


「そういう設定だったね。分かった分かった。

 学校行ってさ、いい男見つけたら紹介してよ。第2学園なら平民も多いはずでしょ。

 私だと年上になっちゃうけど、兄弟とかもいるかもしれないしね」


「うん、お友だちいっぱい作ってきますね!」


「あ、でも簡単に選んじゃだめよ。ルリちゃんたらホイホイと着いて行っちゃいそうだもの。

 いい事、男って生き物はねぇ、隙さえあれば……」


「そうそう、私なんてね……あー、ムカつく……」


 エステルさんの恋愛講義を聞いていると、シーラさんが突然叫んでしまった。


(あはははは……シーラさん何かあったんだろうな。

 恋愛に関しては異世界も一緒ね)


 ルリにとってはこの世界で初のガールズトーク。

 寝入る直前まで、3人はキャッキャウフフと盛り上がるのであった。

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