転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~
ままるり
第1話 森の泉
気が付くと、水辺にたたずむ私がいた。
太陽の光が降り注ぐ森の中の開けた空間で、目の前には、水面を青く輝かせた泉がある。
まん丸な泉の奥には小さな滝があり、小さな泡をあげている。
手前にはテーブルのような石の台座。
そう、それは映画や絵画で描かれる、女神が降り立つような場所だった。
「ここは……?」
誰もいない空間へ、自然と声が漏れる。
日本の都会育ちの私には、夢の中としか言えない光景。
呆然と周囲を見ていると、どこからか声がした気がした。
『お困りですか?』
「へっ?」
驚いて周りを見渡しても、人の気配はない。
風が木々を揺らす音。
泉に流れる水の音。
『お困りですか?』
「ひゃっ!?」
再度頭の中に声が響き、
泉の台座へと振り返った時、空間から光があふれ出した。
瞬く間に光は収束していく。
そして、それそのものが発光しているかのような輝きを放ちながら、ヒトの形に集まっていく。
眩しさに目がくらみ必死にそのヒト型を見つめていると、美しい女性の姿が現れた。
(何? ホントに女神出てきたよ……)
その姿は、女神としか言いようがない。
白色がかった金髪に、シルクのような白く艶やかな羽織からは、女性が見ても憧れるようなボディラインが透けている。
夢とは思えないはっきりとした感覚と目の前に広がる神々しいオーラを前に、何もできずに唖然としていると、女神(っぽい何か)は語りかけてきた。
『お困りですか?』
「えぇとぉ、そうですね。困ってます」
私はかすれそうな声を振り絞り、何とか答えた。
そもそも、状況が全く理解できていない。
困る困らない以前の問題。
夢ならば夢で問題ないのですが……。
思い切ってたずねてみる。
「これは、私の夢でしょうか。夢にしては意識がはっきりし過ぎているのですが……」
女神は答える。
『夢ではありませんよ。この世界はエスポワール。希望にあふれる世界です』
(……ん? エスポワール? というか『世界』って言った???)
『あなたは
「はぇ? えと、何ですの……?」
ようこそと言われても、自分で来た覚えはない。
そもそも、エスポワールという地名は知らないし、私は日本の高校生であり、近所にこんな泉がある訳がない。
---そう、私は普通の女子高生。名前は
朝は電車に乗って、3駅ほど離れた高校に通っている。
大きな公園があり、噴水などの広場があることはあっても、こんな周囲に人や建物の気配が全くない空間なんて、存在する訳がなかった。
しかも、何故か私の名前を知っている?
理解を超えた何か起こっていることは、私のお花畑な脳ミソでも理解するしかなかった。
冷静になろうと深呼吸してみる。
周りを見渡すと、やはり静かな空間があり、泉の台座の上には女神が浮かんでいる。
私はもちろん、今までに女神を見たことなどない。
しかし、映画や絵画で描かれた世界に、美術館で見るような姿の女性が浮かんでいれば、その存在を女神と理解するには十分だった。
「あなたはエスポワールの女神様、という事でしょうか……」
『そうです。私はこの「希望あふれる世界」エスポワールを創造した女神アイリス。そしてここは森の奥、隠された聖域です』
やはりこの人は女神らしい。聖域というのも見ての通りだろう。
だがしかし、私はここに用はない。
貴重な経験ができたとは思っても、ここに用はないのだ。
「女神様の世界にお呼びいただきありがとうございます。
それで、私に何か御用でしょうか。それと、元の世界への戻り方も教えて欲しいのですが……」
冷静になった私は、しっかりと聞くべきことを伝えられた。
もちろん、お呼ばれのお礼も忘れていない。
今知るべき最大の優先事項は、元の世界への帰り方。
それさえ分かれば、女神様にお付き合いしてもいいか、と思える余裕も出て来ていた。
『あら、困りましたね、瑠璃さん。
あなたは、あなたの意志でこの世界に転移してきたのです。
知る限りでは元の世界に戻る
身体も意識も、こちらの世界に移ってしまっているんですよ』
雲行きが怪しくなった。いわゆる異世界転生という小説の世界が、現実になっているらしい……。
「いやいや、戻れないとか困るんですけど……」
言ってみるものの返事はない。女神も困った表情をしている。
本当に戻れないらしい。
どうしてこうなった……?
私の始まったばかりの女子高生生活はどうなるの?
お父さんやお母さん、絶対心配するわね。
週末は友達と渋〇の109に行くはずだったのに、この状況って何?
もしかして行方不明でニュースになったりして。。。
とにかく、記憶を思い返してみる。
女神は、私の意志でこの世界に来たと言っている。
---そう、今日はいつものように朝を迎えた。
起きて、軽くシャワーで汗を流し、制服に着替えた。
母親が作り置いてくれる朝食を食べ、学校に行く準備を整えた。
思えば、今日の私はテンションが高かった。
学校生活が楽しみで仕方がなかった。
原因は、昨日の放課後の部活見学。
入部予定のテニス部に、挨拶に伺ってたのだ。
一応、中学時代は地区大会上位の実力があった。
学力的には厳しかったが、テニス強豪の高校に何とか合格して、ついにこの春入学したのだ。
そして、今日からは部活と学校生活の両立が始まる。
恋の予感がしていた……。
ああ、思い出した。私は、喜びを声にして、思い切り叫んだんだ。
……そう、あの時私は言ったんだ……
“私、
あの時、白い光に、包まれたんだ……。
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