第三十四話 攻めの疑問と進む防衛
Szene-01 ブーズ、北側森中
エールタインたちが現れないことを寂しがるブーズの民。そのことを知ってか知らでか、数匹のヴォルフが民を安心させるかのように絶妙な頃合いで森の中を徘徊していた。
壁の強化作業をしている民の一人が、茂みからの音を耳にする。
「なあ、今森の中からゴソゴソと音がしたんだが」
「音? 小型の魔獣だろ。いつものことだ」
「いや、足音だ。エールタイン様たちがいらした時に聞こえていたものと同じだよ」
「そうするとヴォルフになるが――そうか、巣になる場所を探しに来たのかもしれないな」
ヒルデガルドにブーズを守るよう頼まれたヴォルフ一家は、どうやらブーズにおける第二の拠点探しに訪れたようだ。
「本当にヴォルフが来てくれたのか。ヒルデガルドの能力も大したものだな」
「ええっと、驚かさないようにするんだったよな」
「ああ、お互い邪魔にならないよう粛々と作業をしていればいいのさ。そうすりゃ、スクリアニアなんて恐るるに足らんよ」
これまでとは違って中型の魔獣が来たことを驚くのではなく、安心をするブーズの民。
魔獣と上手く付き合って行けそうな気がする――これはブーズ出身のヒルデガルドのおかげであると、誰もが感じ始めていた。
Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城下訓練場
スクリアニア公からの指示で軍隊の訓練が進められており、ヴェルム城に程近い訓練場では、様々な声が飛び交っている。
「それにしても、急いで国を広げていく必要はあるのかねえ」
「他国では武器の質や種類、戦術も高度なものらしい。ここは田舎だからなあ、装備が大したことなくてもなんとかなっている。公爵はそれが気に入らないんだろう」
「攻められるかもって?」
「ああ、たぶんな。レアルプドルフは魔獣がいるから攻められない。だけどよ、他の国も同じじゃねえかと俺は思うんだよ。レアルプドルフがこっちへ攻めると思うか?」
「いやあ、それは考えられないなあ。町が国を攻めるなんて聞いたことねえよ」
兵士は槍を突く構えをしつつ、話を続ける。
「だろ? 俺はこのままでよ、所属している町を豊かにするって方が後々助かる――なーんて夢を見るのさ」
聞き手の兵士は、語る兵士と槍の長さ分離れた位置で、大きく振りかぶってから木を突いて言う。
「あんたが伯爵になったらいいんじゃねえか?」
二人は同時に笑ってしまい、私語を慎めと指揮官から怒声を浴びていた。
Szene-03 レアルプドルフ、町役場
「トゥサイの様子はどう伝わって来ていますかな?」
町長は後ろ手を組んで役場内をうろうろしていたが、受付係と目が合うと質問を始めた。
「トゥサイ地区からは特に問題は届いていません。建物の修復も順調のようです」
「ほう、やはりトゥサイの職人たちは優秀ですね。ブーズはどうですか?」
「はい、最近ヴォルフが森に現れたようです」
「おお、ヒルデガルドの指示通りに動き出しましたか。気に入る場所があるといいですね」
町長は町の様子を聞くと、特別問題が無いことを満足そうに後ろ手でポンポンと腰を叩く。
「町長、実はそわそわしているのでは?」
「おや、よくわかりましたね」
「役場の者は皆そう思っていますよ。カシカルドの様子が気になってしょうがないと、お顔に書いてありますし」
町長は後ろ手を崩して両手で顔を擦った。
「――取れましたかな?」
「むしろ正解だったということがわかりました。あの一行のことなら、敵国へ謁見に行ったわけではないのですから、ご心配はいらないのでは?」
「うーん――心配はしていないのですよ、本当に。ただ、私も行きたかったなあと思いましてね」
受付係と両隣の役人が同時に口へ手を持っていき、クスクスと笑った。
「あら、ご一緒すれば良かったではないですか」
「それは叶わないことですよ。分かっていて言うとは、あなたも意地悪なところがあったのだねえ」
「これは失礼しました。そのようなつもりは無かったのですが――たぶん」
「ほっほっほ」
平穏なレアルプドルフは、このような雰囲気を常に作り出す町長が築き上げているのかもしれない。
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