第四十五話 師匠からの通達

Szene-01 レアルプドルフ、南北街道上


 武具屋の主人から情報を得たダンたちは南北街道上を歩いていた。


「遠距離移動、それも複数の国を跨ぐとなればエールの戦闘強化は必須だな」

「理由は何であれ、剣士として生きてゆくならば避けては通れない道ですし、エール様なら言うまでもないことでしょう」


 二人は町民の目線を浴びながら町役場を目指して歩いてゆく。

 ダンは一歩一歩しっかりとした足取り。

 そんなダンとは真逆で身軽で華麗に歩くヘルマ。

 剣聖のデュオということを除いても目立つ二人だ。

 野太い声でダンが言う。


「さて、次はどのような情報が入るかな」

「期待せずに参りましょう」


 見た目相応に上品な声でヘルマは答えた。


Szene-02 ダン家


 ルイーサはエールタインとデュオについてに話し込んでいた。

 しかしヒルデガルドが割って入り、帰宅の頃合いであることを伝える。


「ルイーサ様、そろそろかと」


 エールタインは日差しが弱々しくなっていることに気づく。


「つい力が入ってしまって……ごめんね、ルイーサ」

「いいえ、とても楽しかったわ。まだ始まったばかりなのだから、焦らずに話すことにするから」


 エールタインは左の腕を滑り降りてゆくティベルダを支える。


「あらら。ティベルダは寝ちゃったのか」


 ティベルダの頭を膝に乗せる。

 そして頬をやさしく撫で始めるエールタイン。


「すっかり安心しているのね」

「家では気を張る必要がないから。今はボクたちの話が子守唄になったようだけど」


 ヒルデガルドは小鞄に手をやる。


「ルイーサ様」

「わかったわよ。それではまたお話ししましょう。それまでお互いに修練ね」

「そうだね。今のボクたちは修練あるのみだ」


 ルイーサ組はダン家から帰路に就いた。

 エールタインはそれを見送ってからティベルダをベッドへと運んだ。


Szene-03 三番地区、地区道上


 帰路を歩く二組のデュオがばったり出会った。


「ダン様。お邪魔させていただきありがとうございました」

「おお、帰るのか。またあいつの話し相手になってやってくれ」


 薄暗い中で体格の良いダンが微笑みながら近づく。

 大丈夫だとわかっていても大抵の者は腰が引けてしまうかもしれない。

 しかしルイーサはいつも通り背筋を伸ばして凛として答える。


「こちらこそ。話し相手はいないので」

「そうなのか? 君ならたくさんの人に囲まれていそうだが」


 ダンは続ける。


「エールには同じ年ごろの知り合いがいないから喜んでいるはずだ。よろしくな」


 主同士の話が終わると、ヘルマとヒルデガルドが互いに会釈をして別れた。


「剣聖様にああ言われたのでは仕方ないわね。またお話しをしに来ましょう」

「うふふ。私もティベルダさんに会いたいので嬉しいです」


Szene-04 ダン家


 ダン達が帰宅した。

 エールタインはティベルダを寝かせて暖炉前に戻っていた。


「エール、あの娘たちにあったよ。仲良くなれて良かったな」

「ルイーサってボクとは違うタイプだから、話していて面白かったよ」


 ヨハナがクスクスと笑いながら食事の用意をしている。

 静かにヨハナへ近づいたヘルマは、何があったのか聞こうとする。


「エール様に何かあったの?」

「んふふ。あのルイーサ様ってどうもエール様が好きみたいなの」


 興味津々といった表情となるヘルマ。

 ヨハナにくっついてさらに詳しく聞こうとする。


「好きって、そういう?」

「たぶんね。私、ティベルダが嫉妬しないように少しルイーサ様の邪魔しちゃった」

「今のティベルダは能力の調整できないものね。それは仕方ないわよ」


 ヨハナとヘルマは久しく無かったと思われる女同士の話ができているようで楽しそうだ。

 一方、ダンはエールタインに師匠からの言葉を伝えていた。


「エール、これから数日は朝から晩まで修練をする」

「どうしたのさ。そりゃあルイーサとの話でも修練をしようってことにはなったけど」


 ダンはエールの肩に手を置いた。

 大きな手でがっちりと掴み一言。


「剣士にしてやる」

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