第四十四話 連携のススメ

Szene-01 ドミニク家


 ルイーサとヒルデガルドは休日ということで外出した。

 師匠であるドミニクは自身の従者メリアに尋ねる。


「二人はどうした?」

「例の見習い剣士様の所へ行かれたようです」

「またか。同じ身分の知り合いができることは良いことだが……」


 メリアは情報を付け加えた。


「ヒルデガルドの話では、戦闘時に連携できる相手として考えているとか」

「ほう、考えてはいるのだな」

「剣士としてのお話が出来るならば、修練にも身が入りやすいかもしれませんね」


 ドミニクは少し呆れた顔をする。


「だといいが。ただ……まあいいだろう。相手がどう考えているか分からぬからな」

「ご存じなのですか?」

「あいつは感情が表に出やすい。自ら教えているのも同然なヤツだから、知らぬわけがないだろう」


 どうやらルイーサの考えは全く隠せていなかったようだ。


Szene-02 ダン家


 ルイーサとヒルデガルドの二人が訪れたダン家。

 入れ替わりでダンが外出しようとしていた。


「ヘルマはどうする?」

「もちろんお供します」


 ヘルマはティベルダの付き添いをヨハナと交代した。

 ヨハナがダンに尋ねる。


「例の話ですよね?」

「ああ。エールから聞いたそのままを伝えるしかないが、事実なのは間違いないからな」

「事の後にティベルダの姿は見ていますし」


 ダンはうなずく。


「あの様子を見られただけでも十分だ。その道に明るい人物をあたってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 ヨハナは軽く会釈をし、ヘルマとは目で話した。

 長年従者同士として同じ屋根の下で暮らした者だからこそ、それだけで通じ合う。


Szene-03 レアルプドルフ一番地区、武具屋


 ダンとヘルマは武具屋の店主とティベルダについて話していた。


「ほほう、あのお嬢ちゃんがそんな能力を。わしも話だけは聞いたことがありやす」

「やはり」

「と言っても凍らせる、爆発させるといったことぐらいでして」


 ダンはカウンターに肩ひじを置いた。


「具体的なことは知らなかったか」

「わしはそれぐらいですがね、他の町には詳しい者がいると聞きやす」


 ダンは肘を手前に引くように身を乗り出す。


「どこだ?」

「この町からだと随分遠い所のようで」


 店主は持久力の上がる茶を出しながら続ける。


「西の方なんですがね、国を三つほど越えるような所だそうですぜ」


 ダンはヘルマと目を合わせつつ片手のひらを上げてみせる。


「遠いな」

「そうなんですよ。だから情報も入り難いんでさあ。行商人もここまでは来やしませんからな」


 足元から床の軋む音をさせながらカウンターから離れるダン。

 それに合わせてヘルマもダンとの並びを保つように一歩下がった。


「ありがとな。情報を手に入れられそうなことが分かっただけでも助かった。今度は何か買いに来るからな」

「期待せずに待っていまさあ」


 独特な話し方で店主が見送る。

 ダン達は踵を返して店を出て行った。


Szene-04 ダン家


 暖炉の前に集まった二組のデュオ。

 客人である二人はティベルダの髪の毛に驚いていた。


「あなたはいつも違った一面を見せるのね」


 ルイーサが言った。


「この髪の毛は驚くよね。生えそろうだけでも驚くのに前とは色が全く違うんだから」


 ティベルダの毛先をつかみながらエールタインが言う。


「ボクと同じ色だし」

「それだけエールタイン様のことが好きなのですね」


 ヒルデガルドはティベルダを見て微笑んだ。

 ティベルダはそれに微笑みで返す。


「エールタインならば主人として好きになるのはわかるわ。私は……」

「飲み物をどうぞ」


 ヨハナがルイーサの前にティーを置いた。

 続けてヒルデガルド、エールタインたちへと差し出してゆく。


「……い、いただきます」


 ティベルダがヨハナを見る。

 ヨハナはそのティベルダへニコッとしてみせた。


「ごゆっくり」


 ティベルダに小さく手を振りながらヨハナは離れてゆく。

 その様子をヒルデガルドはしっかりと見ていた。


「あら」


 ヒルデガルドはヨハナがしたことの意図を察したようだ。

 ティベルダに目で確かめる。

 しかしティベルダは首を傾げていた。


「伝わっていないのね」


 ヒルデガルドはクスクスと笑いだした。

 さらにティベルダは首を傾げる。

 するとエールタインの肩に頭を乗せる形になった。

 エールタインは自然に頭を撫でる。

 ティベルダはご満悦のようだ。


「コホン。それで……このティー美味しいわね。ではなくて、あなたと連携攻撃をするのはどうかしら」

「連携攻撃?」


 もう一口ティーを飲んでからルイーサは言う。


「そうよ。お互いの従者も交えて連携できたら攻撃の幅が広がるじゃない」


 ルイーサが飲むのを見たからか、エールタインもティーを一口飲んだ。


「まだボクは剣捌きを学ばなければならないような段階なんだ。どうにも攻撃力が無くてさ」

「それは短剣だからなのでは? 短剣でももう少し長いモノを使えば随分変わってくるはずよ」

「そういえばルイーサは大剣を使っているね」


 自身の後ろに置いてある大剣を触りながらルイーサは言う。


「私の場合は初めから大剣を使っていれば剣士になってから威力を発揮できると思ったからよ。いずれは大剣に頼ると思うの」

「うーん。ボクの強みは足の速さだけ。それを生かそうとすると短剣になるんだ」


 エールタインは短剣の理由を話す。


「今より剣を長くすることも考えてはいるよ。短ければそれだけ敵に近づくことになる。それは危険だから」

「お互いに弱点はあるわ。そこを補い合おうということなの。どうかしら」


 ルイーサは自身無さげなエールタインに畳みかける。


「弱点を補う、か。それはデュオでどうにかすることだと思っていたよ」


 エールタインは頭をポンポンと軽くたたいてみせる。


「頭が固かったみたいだ。魔獣討伐の時を思い出すとデュオが複数で動いていた。ルイーサの言う通りかもしれないね」


 ルイーサは両手をパチンと合わせた。


「では連携の話、受けてくれる?」

「うん、というよりありがとう。とても心強くなったよ」


 連携の話が成立してからは、エールタインの剣士話に火が付いた。

 真剣に話すエールタインの熱い語りに負け、ルイーサはすっかり聞き手になってしまった。

 この後、エールタインが納得するまで剣士について語る事となる。

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